12話 腐女子
「あ、あの! 助けていただきありがとうございます!」
リリリは、レヴィアタンが何者なのかはとりあえず置いておき、まずは感謝の気持ちを述べることにしたようだ。
それに対しレヴィアタンは、手をふりふりして気にしないでのジェスチャーを返す。
どうやら敵ではなさそうだという雰囲気に安心したのか、リリリは更に続ける。
「それにしても凄い魔法でした。中級魔族を一撃で消滅させるだなんて……あの! 少しだけお話を聞かせてもらえないでしょうか!」
「…………」
レヴィアタンは少し考える素振りを見せた後、無言のまま地面に視線を落とした。
その地面に左手を向けたところで、手のひらが淡く発光し始める。
「魔法!?」
レヴィアタンの突然の魔法行使に、思わず身構えるリリリ。
そうこうしている間にも、レヴィアタンの左手のひらからは光の粒子が溢れ出し、地面に向かってこぼれ落ちていく。
地面を見ると、こぼれ落ちた光の粒子によってマンホールの蓋ほどの大きさで魔法陣が描かれつつあった。
魔法陣を描き終わったレヴィアタンは、一歩ずれて魔法陣の上に立つ。
リリリの方へと向き直ると、シュタッと右手を上げて左右に何度か振った。
「え……さようならって……あっ! 待ってください!」
地面の魔法陣が強く発光しだした次の瞬間、その場からレヴィアタンと魔法陣はかき消えたのだった……
◆◆◆
所変わって、ドーラとリリリのテントの中。
レヴィアタンと魔法陣が消えたのと時を同じくして、テントの中には魔法陣が浮かび上がっていた。
魔法陣が強く発光した次の瞬間、レヴィアタンが出現して魔法陣はかき消える。
どうやら、先程の魔法陣により転移してきたようだ。
レヴィアタンの面を外すドーラ。
白いモヤが霧散して【人形憑依】のスキルが解除された。
「ふぅ。リリリの様子を見に行っておいて良かった、結構危ないとこだったっぽいし……さっ、リリリが戻って来る前に急いでレヴィアタンを隠さなきゃ!」
ドーラは、レヴィアタンの面に溜まった湿気だけ軽く拭き取る。
今は時間がないので着ぐるみのメンテナンスはその程度にしておき、着ぐるみ道具一式を片付けることを優先するようだ。
まずは、レヴィアタンのチャイナドレスを脱ぐ。
次に、肌タイの上に付けたブラを外す。
次に、肌タイ後ろのファスナーを引き下げ、後ろ側へ頭を抜く。
更に、右腕を肌タイから抜いた……というところで、その悲劇は起こった。
突如、テントの中に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣からリリリが現れたのだ。
着ぐるみを脱いでいる途中のドーラと、リリリの目が合う。
「「えっ?」」
どちらも状況が理解できずに、二人して固まる。
「…………」
「…………」
「キャー!!」
「えぇっ!?」
先に沈黙を破ったのはリリリだった。
体の形は女性。
顔は、中性的とはいえ男性。
女性の体に美形で中性的な顔がのっているのでパっと見女性に見えなくもない。
ただ、リリリからすれば、ここ数日男性と認識していた顔であるので、やはり男性よりに見えるのだろう。
そんな男性が、半裸で女性用の可愛いパンティを穿いて立っている現場に突如出くわしたら、まぁ、そうなるかもしれない。
リリリは、近くにあった物を手当たりしだいにドーラへぶん投げる。
「ちょっ! まって! 痛い!」
唯一肌タイを脱いでいる右手で、飛んでくる物をなんとか払い除けつつ耐えるドーラ。
ひとしきり手近な物を投げきったリリリは、まだまだ興奮冷めやらぬといった雰囲気だ。
「ふぅ……ふぅ……つまり、先程の女の子の正体はドーラさんだったということですか!? どういうことですか!」
「わ、わかったって……説明するから。とりあえず着替えさせてよ。テントの外で待ってて」
「……また先程みたいに魔法で逃げるきですね! そのままの格好で良いので説明してください!」
「うぅ……わかったよ……」
ドーラは、先程の女の子であるレヴィアタンは、自分であったことをあかした。
箱の中にレヴィアタンの面や衣装が転がっていたので、言い訳のしようがなかったというのもある。
「……何やら特殊系スキルの気配を感じますね」
「えっ、なんでいきなりそうなるのさ」
突如飛び出したリリリからの指摘で、返す言葉に動揺の色が滲み出てしまうドーラ。
リリリは続ける。
「一つ目に、先程の女の子……レヴィアタンちゃんでしたか? あの子からは、通常ありえない程膨大な魔力を感じたのですが、今のドーラさんからは一切感じないこと」
「二つ目に、魔法陣。魔法陣は再現性が高いので、私でも真似して転移できました。ただ、魔法陣の構造が複雑過ぎて意味までは読み取れなかったですし、そもそも転移が成功したなんて話は聞いたことがありません」
「最後に。これが一番重要ですが、中級魔族をも消滅させた漆黒の玉……あれは闇魔法なんてレベルのものではなかったです。よくわからないですが、もっと上位の何かを感じました」
まくし立てるような説明に、言葉が返せないドーラ。
「兎にも角にも、全てがありえない尽くしなんです。異常なんです……とはいえ、特殊系スキルを公言したくない気持ちもわかります……」
先程までは、突然男性の半裸を見せつけられたことに怒り心頭な様子だったリリリだが、何やら様子が変わってきた。
ドーラの方へとにじり寄っていくリリリ。
「確かに、他人に知られたくないですよね……でもどうしてもドーラさんの魔法のことを知りたいんです! 秘密を! 秘密を教えてください!」
リリリは、いきなりドーラの足にすがりつくと、拝み倒すように懇願しはじめた。
「ちょ、ちょー! 近い! 近いから!」
まとわりついた足から上に這い上がって来ようとするリリリ。それを必死に押さえつけるドーラ。
リリリの豹変ぶりに、ドーラは若干引き気味になっている。
「では、私の特殊系スキルの秘密を教えますから! それと交換ではどうでしょうか!?」
なんと、リリリは自ら特殊系スキル持ちであると言い出した。
スキルのことをもっと知りたいドーラにとっても、それは良い条件に思える。
というのも、相手のスキルの秘密を他に漏らせば、自分のスキルも漏れてしまう可能性が高い。
そういった意味で、等価交換となる条件だからだ。
「リリリは特殊系スキル持ちなの? それは凄いね……てか、リリリ、いきなりキャラが崩壊してないか……」
「私は魔法が大好きなだけなんです! 魔法の研究ばかりしていたせいで、魔道士隊隊長をクビになるくらいに!」
まさかのクビの原因だった。
というよりも、そんなのを隊長にする方に見る目がなかったのか。
「でもほら、俺が特殊系スキル持ちだなんてまだわからないし」
「まだそんなこと言うぅ……ドーラさぁん……教えてくださいよぉ……」
ついには半泣きになりはじめるリリリ。
「わかった! わかったから、一旦離れよう。なっ? なっ?」
「やったぁ……」
根負けしたドーラの言葉に、泣き笑いの顔で、床に這いつくばったままズリズリと後ずさりしていくリリリ。
「はぁ……」
そんなリリリの様子を眺め、盛大なため息を吐き、肩を落とすドーラだった。




