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10話 魔族

 フランクルエストへ向った初日は、何事も起こらず先へと進めた。

 村の自警団によって村近くのモンスターが駆除されていたこともあり、戦闘らしい戦闘がなかったのが大きい。


 初日の野営から明けて、2日目の朝。


「さぁ、ここからが本番です。フランクルエストの街からはまだ遠く、村の自警団の巡回も届かないこの辺りには、モンスターが多く生息しています」


 リリリの説明を真剣な面持ち聞くドーラ。


「しかもフランクルエスト周辺のモンスターは凶暴な種類が多く、戦う術を持たない者が襲われれば助からないでしょう」


 リリリの言うとおり、この荒野には凶暴なモンスターが徘徊している。

 特に獣系のモンスターが多く、攻撃力と瞬発力に優れた獣系のモンスターから逃げることは難しい。


「ですが、私といれば恐れる必要はありません。モンスターに遭遇しても、慌てて逃げ出さないようにだけ注意してください。近くにいてくれたほうが安全ですから」


「わ、わかった。離れないようにする」


 顔がこわばるドーラ。

 リリリは自信満々といった様子だが、まだ、その実力を目にしていないし、そもそも本当に本物のリリリなのかすらも判断がつかないという状況で、相手を完全に信頼するのは難しい。

 ドーラの脳裏には、ザックから言われた「色々気をつけろ」の言葉がよぎっているのかもしれない。


「それでは出発しましょう」



   ◆◆◆



 昼近く。

 ドーラとリリリの二人は、ついにモンスターと遭遇した。

 ご存知のグレートボアだ。


 リリリは、特に警戒する様子もなくスタスタと進んで行く。


「お、おい。あそこにいるのグレートボアじゃないのか?」


「そうですね。倒してこのまま進むので、ついて来てください」


「え? わ、わかった……」


 事前にリリリに言われていた通り、リリリの側から離れぬようついていくドーラ。

 やがて、ドーラとリリリに気付いたグレートボアが、その場で足を踏み鳴らし始める。


 リリリはというと歩きながら右手を上げ、グレートボアへと手のひらを向けて一言呟いた。


「火球」


 その瞬間、リリリの手のひらの先数センチの辺りから、バスケットボール程の大きさの火球が出現し、かなりの速さでグレートボアへ向かって飛んでいく。


 しかし、まだ距離があったからか、グレートボアは横へ移動し火球を避けてしまう。

 グレートボアの遥か後方へ着弾した火球は、そこで爆発した。


「リリリ! 避けられてる!」


「大丈夫です。たんなる威嚇ですから」


 確かに、先程まで突進の様子を見せていたグレートボアは、一旦動きを止めて様子をみている。


「グレートボアの一番厄介な攻撃方法は、その突進力から繰り出される体当たりです。面と向かって戦う場合、突進されなければ楽に倒せます」


 以前、スピリット・ウンディーネ状態の時に、グレートボアの突進をぶん殴って押し返したことがあるが、普通はあんなことしないようだ。


 歩みを止め十ないリリリと、ついていくドーラ。

 残り数十メートルというところで、グレートボアも動きだし、左右にステップしながら徐々に近づいてきた。

 真っ直ぐ突進してくるのに比べれば、確かに驚異を感じない。

 突進時の速度と比べれは、横への移動はなんとも普通な速度だ。


 その様子を見たリリリは、しゃがみ込み、地面に手のひらを押し当てて呟いた。


「火柱」


 口にした言葉とともに、グレートボアの真下から天に向かって巨大な炎の柱が立ち上る。

 いや、柱どころか炎の壁といえるほどに巨大な火柱だった。


 グレートボアは、炎の柱に押し上げられて宙空へと舞い上がっていた。

 数秒後、落下して地面に激突すると、そのまま動かなくなってしまう。

 体は軽く焦げているだけのようだが、落下の衝撃が致命傷となり絶命したようだ。


「どうでしょうか。少しは私の実力を信頼してもらえましたか?」


「凄い……あのグレートボアをたった一人で倒したのも凄いけど、魔法がとにかく凄い。【火魔法】のスキルの効果か」


「いや? 【火魔法】のスキルは発現していません。獣系のモンスターは火に弱いので、そういった魔法を使っただけです」


「スキルなし!?」


「魔法を使うだけなら、別にスキルを発動する必要はないですから。剣士の方が槍を使おうとしたら、一応使えはするでしょう? それと同じことです」


 それにしては威力が尋常ではなかったように思えたが、普通の魔法スキル持ちに出会ったことがないドーラにはなんとも判断がつかないようだ。

 それともやはり、なにかしらのレアスキル持ちなのだろうか?


「とにかく、リリリの実力がわかって安心感が相当増したよ」


「それは良かったです。さて。せっかくグレートボアを仕留めたことだし、少しだけ素材を剥ぎ取りましょうか」


 リリリはグレートボアの元へと近寄っていく。


「舌だけなら血抜きも簡単ですし、コンパクトなので持っていきましょう。美味しいですからね」


 そう言うとリリリは、腰ベルトに下げていた大振りのナイフを取り出し、グレートボアの舌を切り落とした。

 牛よりも大きいグレートボアの舌は、二人で食べても満足できる量だ。

 革袋に舌を入れると、ドーラの方へ向き直り言った。


「さて。もう少し先まで進みましょうか」


 ドーラとリリリは、更に歩を進めていく。

 途中、何体かのモンスターに出くわしたが、どれもリリリが危なげなく排除していった。


 途中、排除したモンスターからいただいた肉で昼食をとりつつ、そのまま夕方まで歩を進め、2日目の野営となった。


「さて。昨日と同じようにテントを張って、野営の準備をしましょう。テントを張ったら、ドーラさんは中でゆっくりしていてください。今夜も私が見張りに立ちますから」


「そんな連日無理しなくても……今日は俺が見張りに立つよ」


 リリリは初日の夜も見張りをしていたため、ドーラは心配そうに言った。

 しかし、リリリは首を振って返す。


「問題ありません。昨晩同様、明け方に少しだけ変わってもらって仮眠が取れれば回復しますので。それよりも、ドーラさんに無理してもらった結果、モンスターに襲われる方が怖いですから」


「そ、そうなの? なら遠慮なく……」

 

 その後、簡単な夕食を取り、ドーラはテントへと入っていく。

 背負子の様子の確認を終え、そろそろ寝ようかというところで、遠くから唸り声のような何かが聞こえてきた。

 獣のような、それでいて低い人の声にも聞こえるような感じだ。


「リリリ……今の声って……」


 あまりの不気味さに起きてしまったドーラが、テントから這い出てくる。


「……恐らくレッサーデーモンの声ですね。しかも複数体。なぜこんな場所に?」


「レッサーデーモン……聞いたことないモンスターだけど……」


 ドーラの記憶には、そのようなモンスターの記憶がなかった。


「いや。モンスターではなく魔族ですね……少し厄介ですが、すぐ近くのようですし排除しておきましょうか」


 レッサーデーモン。

 この異世界で、モンスターとは別に人類の敵となっている、魔族と呼ばれる種族の一部だ。

 レッサーデーモンは、魔族の中では最下級に位置付けされているが、その強さはそこらのモンスターを軽く凌駕する。


「えっ、なんだか危なそうな感じなんじゃ……」


「そうだぜ? 排除するだなんて、魔族を甘く見すぎだろ?」


 !?


 突如、すぐ側から知らない声がした。


「上です!」


 リリリに言われてドーラが上を見上げると、そこには一体の人の様な形をした、しかし人ならざる何かが浮遊していたのだった。

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