最強の元補助人は田舎でのんびり過ごしたい
息抜きというか、ストレス発散もかねて短編を書いたので投稿します。
年末ですし(意味不明)。
「おいジード。持っている荷物を全部出せ」
ダンジョンの最奥で発見した隠し扉の先で、Aランクパーティ【バグド】のリーダーであるガジェイが俺に向けてそう命令した。
このパーティに補助人として雇われている以上、俺に拒否権は無い。
そもそも、この荷物は一部俺の私物を除けば他は全て【バグド】の持ち物なのだが。
「わかったよ。ここに置いていいのかい?」
「さっさとしなよ。愚図ね」
パーティの紅一点であるリーレテが馬鹿にしたような声音で吐き捨てるように言う。
こういった扱いは補助人の仕事を始めて半年で慣れてしまった。
俺は何の反論もせず、無駄口をなるべく口に出さないように無言で背中からバックパックを降ろすと、目の前の地面にゆっくりと置いた。
バックパックの中には、ここまでに倒した魔物から採取した魔石や素材、そして食料や、野営のための道具などがぎっしり詰まっている。
「これで全部か?」
「ああ、これで全部だ。あとは俺の私物だけ――」
「見せてみろ。何か素材とか盗んだりしてないか確認する」
ガジェイが、俺の腰に下がった袋を指さして言った。
冒険者というのは碌な奴がいない。
俺は無言で腰から袋を取り外すとガジェイに差し出す。
「そんな事するわけ……ちっ、重いから気をつけろよ」
「誰に言ってやがる。どれどれ……うぉっ」
俺の手から袋を奪い取るように受け取ったガジェイが、予想外の袋の重さでその場に座り込んでしまった。
だから言ったのに。
「きゃははは。ガジェイかっこ悪いわね」
「何やってんだよ」
「それでもリーダーかよ」
リーレテと他の二人がガジェイを揶揄して笑い出す。
二人の名はそれぞれジュカとオリエレ。
Sランクパーティ【バグド】は、スカウトのリーレテ、盾戦士のジュカ、魔法使いのオリエレ。
そして魔法剣の使い手ガジェイの四人パーティである。
「思ってたより重かったから油断しただけだよ。畜生め」
ガジェイはそう毒づきながら袋の口を開き、中を覗き込んだ。
俺が補助人としてこのパーティに雇われて一ヶ月になる。
高難易度ダンジョンである古賢者のダンジョンに、近々Sランクへ昇格するパーティが挑むということで、ギルドを通じて俺に補助人の依頼が来たのだ。
若くしてAランクになった彼らは、その若さ故少し傲慢な所もあったが、その程度はよくあることと気にもとめなかった。
そう、この日までは。
「ゴミばっかりだな」
ガジェイはそう言い放つと、袋をその場に置いて立ち上がり、他の三人の方へ戻っていった。
俺はやれやれと思いながら「それでこの荷物をどうするんだ?」と四人に問いかける。
「おい、オリエレ」
俺の問いかけを完全に無視してガジェイがオリエレになにやら指示を出す。
するとオリエレは何やらショルダーバッグほどの小さい鞄を手に、俺が置いた大量の荷物の前まで歩いてきた。
「なんだそれは?」
「これか? これはさっき俺たちがこの隠し部屋の奥で見つけたものだ。そういえばお前は遅れて来たから知らなかったんだったな」
「愚図よね」
リーレテが余計なことを口にするが、俺は気にしないようにオリエレに問いかける。
「俺の仕事はお前らの後ろを守ることも入ってるからな。それよりその鞄だ」
「これはな、伝説の『収納鞄』だよ」
「まさか、実在したのか?」
「ああ。この先の部屋で俺たち四人が見つけたんだ」
収納鞄……いや、収納魔法というのは伝説ではその存在は伝わっていた。
だが、長い間冒険者たちが探し続けても、実物も、それを構成する魔方陣も見つからない伝説の魔道具と言われていた。
それがこのダンジョンにあったというのだ。
「それじゃあ行くぞ」
オリエレは収納鞄を持ち上げると、山積みの荷物へ向けてその口を開いた。
途端、一瞬にして目の前に山のように積まれていた荷物が、俺の袋を除いて全てその鞄へ吸い込まれていく。
「おおっ」
「すげぇ」
「本当に収納しちゃったわ」
その場にいた全員が感嘆の声を上げる。
いち早く我に返ったのはリーダーのガジェイだった。
「おい、オリエレ。収納したものの中から干し肉を出してみてくれ」
「ああ、わかった」
収納は出来ても、それが取り出せなければ意味は無い。
最初に一つものを入れて出してを確かめてから全部収納するのが安全だっただろうに。
もしこれで収納されたものが取り出せなかったらどうするつもりなのか。
だが、そんな俺の心配を余所に、オリエレの手の上に干し肉が現れた。
「出た。出したいものを頭に浮かべるだけで取り出せたぞ」
「やったわ!! これで私たち大金持ちよ」
「伝説級の魔導具を発見したんだ。俺たちの名前も伝説になるかもな」
盛り上がる四人を前に、俺もその輪に加わろうと口を開き駆けた。
だが、その機先を制するかのように、ガジェイが俺の方を向くと言い放った。
「これでお前はもうお役御免ってわけだ」
「えっ」
「だってそうだろう? この収納鞄さえあれば荷物持ちのお前はもう必要ない。無駄に報酬の一部をお前に渡す必要もなくなるわけだ」
何を言っているのだこいつは。
俺はガジェイの言葉を理解できずにいた。
補助人の仕事は荷物持ちだけでは無い。
罠の始末。マッピングなどの様々な雑用。
更にパーティの後方を守りながら進むという大事な役割もあるのだ。
現にガジェイたちがここに来るまで、俺は何度彼らを危険から守っただろう。
だというのにガジェイは俺が荷物持ちしかしていないというのだ。
「おい。冗談だろ? 俺がいなくなったらお前ら、飯や野営の見張りはどうするんだ」
毎回の飯の準備や休憩。
野営の時の見張りや警備も俺がやっていた。
それを知らないとは言わせない。
だがガジェイたちは俺のその言葉を鼻で笑い飛ばす。
「はっ。そんな新人冒険者でも出来ることを自慢されてもな」
「貴方は冒険者ですら無く、ただの補助人なのよ? 誰でも出来る仕事なの」
「補助人ってのは寄生虫だって冒険者の間では当たり前の話だが、お前もその自覚が無いとはな」
「人様のおこぼれを貰って生きてるくせに、さらに俺たちが命がけで手に入れた栄誉までお裾分けしろってか?」
こいつらが補助人という仕事をそこまで下に見ていたとは。
命がけで共に冒険へ出かける仲間を、そんな風に思っていたとは。
薄々感じては居たが、ここまで性根が腐っているとは予想以上だった。
「おいガジェイ。まるで俺が何の役にも立ってないみたいな言い方だが、今回だって俺がいなければ――」
その俺の言葉をどう勘違いしたのか、ガジェイたちが突然いきり立つ。
「お前、今回の大発見が自分のおかげとか思ってるんじゃないのか?」
「補助人のくせに、雇い主の手柄にのっかるつもりってことぉ?」
「補助人は所詮補助人だぞ。何を勘違いしてるんだ」
「まさか自分の分の分け前をよこせとか、自分も世紀の発見者の一人だとか権利を主張するんじゃないだろうな」
ガジェイたちはそこまで言うと、何やら四人で集まって内緒話を始めた。
だが、俺は彼らのあまりの言い方に唖然としたまま動けないでいた。
そして、その間にどうやら彼らの話し合いは終わったらしく、俺の方を向くとガジェイが口を開いた。
「俺たちにはもうお前は必要ない。それはさっき言った通りだ」
ガジェイの言葉に俺は少し顔をしかめる。
「もう一つ。俺たちは今回のお宝をお前と分け合うつもりは無い」
「なっ」
冒険で彼らパーティが得た報酬。
その一部は補助人にも支払われるのがギルドの規約で決まっている。
もちろん冒険者たちに比べて、額は少ないが、それでも命がけの仕事に対して十分な報酬が支払われるのが当たり前だった。
今回のように伝説級のアイテムや、討伐の場合はかなりの額になる。
「お前、正気か? ギルドの規約を忘れたわけじゃ無いだろ?」
「ああ、もちろん知ってる。そして、その規約には支払わなくて良い場合のことも書かれているのもな」
ガジェイがそう言い放つと、彼の隣からオリエレが一歩前に出ると、先ほどの収納鞄の口を開き――
「まさか!」
一瞬で地面に置いたままだった俺の袋が収納鞄に吸い込まれていった。
「さようならだ」
「バイバイ」
「悪いな。これも世の常だ」
「皆さん行きますよ」
オリエレが収納鞄から《四枚》の紙を取り出し掲げる。
その紙にはそれぞれ魔方陣が描かれていて、オリエレの魔力に反応し光を放ちだす。
「お前らっ、待て!!」
俺は慌てて四人に向けて駆け出すと、手を思いっきり伸ばした。
だが、その手が届くことは無かった。
「まじ・・・かよ」
俺の手が、虚しく空を切る。
一瞬でバグドの四人はその場から消え去り、後には少しだけ魔力の残光が残るばかりだ。
あの札はダンジョンの出口へ一瞬で跳ぶことが出来る魔導具で【送還札】という。
ダンジョンの深くへ潜る上位パーティには必須のアイテムだ。
だが、俺の送還札は、先ほどガジェイたちが荷物ごと持って行ってしまった。
「あいつら俺を切り捨てるどころか、殺して手柄も報酬も自分たちだけのものにするつもりか……」
俺は溜息をつく。
「やれやれ、今回のパーティも完璧に不合格だな」
懐から一冊の手帳とペンを取り出す。
荷物袋は持って行かれたがポケットに入れてあったものは奪われていないのが救いだ。
俺は手帳の目的のページを開くと、そこに大きく×印を付ける。
「しかし今まで何組ものパーティの審査をしてきたが、ここまで酷い奴らは初めてだぜ。前科もかなりあるかもしれないな」
俺は手帳に今回の試験の詳細を書き込んでから仕舞う。
Aランクパーティに補助人として同行し、Sランクへの昇格の素質を見定める調査員。
それが俺の今の仕事だ。
だが、この仕事にもそろそろ愛想が尽きてきて来た。
たしかに能力も素質も性格も素晴らしい冒険者と冒険をするのは楽しい。
Aランクまで上がってくるようなパーティは、それなりに世間の荒波にもまれていることが多く、人格的にも完成されている場合が多い。
しかし今回のバグドのように若くして成り上がったパーティはハズレが多く、俺のような実力者はそういった問題がありそうなパーティの審査に回されることが多いのだ。
「彼奴らの処分はギルドがやってくれるだろうし、俺が帰ってこない時点でギルマスも察して彼奴らの余罪も追及されるだろうからいいとしてだ」
俺はもう一度、今度は隠し部屋内に響くくらい大きな溜息をつくと叫んだ。
「こんな地下深くから一人で帰るとかめんどくさ過ぎるだろーが!!」
高難易度ダンジョン。
その地下十階層の最奥に、荷物もほとんど奪われた状態のまま放置された俺は、帰り道の事を考えると一人憂鬱になる。
そもそも俺はどうしてこんな面倒な仕事をいつまでも続けているのだろうか。
所属していたパーティが壊滅し何の目標も持てず、新たなパーティに所属する気力も無く魔物を殺し続ける日々を送っていた俺。
そんな俺を見るに見かねた王都のギルマスが、この仕事を紹介してくれたのが最初だったっけ。
それからずっと何年もの間俺は補助人として色々なパーティと共に過ごすことになり、影ながら助け続けた。
おかげで今では昔の悪夢を見ることも無くなったし、ギルマスには感謝をしている。
だけどもう限界だ。
「もうこんな仕事なんて辞めてやる!」
俺は壁を思いっきり殴りつけながらそう叫ぶ。
たしかに素晴らしいパーティと過ごす時間は俺の心を癒やしてくれた。
だけど今回の様な屑パーティと当たる度に、せっかく治りかけた心の傷がまた開く様な気がして、俺は誰もいなくなった隠し部屋で一人大きな声で叫んだのだった。
「地上に戻ったら俺は今までの蓄えでどこか地方の町で家と畑買って、嫁を貰ってのんびりと暮らしてやるんだーっ!」
スローライフを目指す男のプロローグでした。
この後ダンジョンを上っていく間に一人の少女を助けることになったりするかもしれません。
田舎の村で慣れない畑仕事や牧畜に挑戦し、村人たちに助けられ、時には襲ってきた魔物や災厄から村人たちを助けたりするかもしれませんね。
そういった何パターンかのプロットを考えて、どれにするか決められずこの話はストックの中に埋もれてました。
皆さんはどういった流れがお望みなのでしょうか。
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