第8話 会話
高い機動生を生かして、巧みに距離を取りながら強力な魔法で攻撃してくる。
竜種と言っても高速戦闘タイプが居たり、ガチンコの脳筋タイプが居たり、今回の魔法タイプも居たり結構バリエーションが豊かだ。
直接戦闘では魔物相手で苦戦することもなかったカインだが、初めての魔法に慎重に戦いを進めていた。
「【ファ!】」
竜のブレスではない、空中に火球が発生し、凄まじい勢いでカインに向かって飛んでくる。
「魔法って長々と詠唱するもんじゃないの……?」
『原初魔法は最も効率よく現象を引き起こすって言われていますから』
「ファ!」
カインも真似してみるが、何も起きない……
『竜言語は神とのつながりと呼ばれているので簡単には真似できません』
「【エクッ!】」
カインの足元に魔力が貯まる気配を感じて、すぐに横っ飛びに回避する。
ドンッ! と大きな音がして、先程までにカインが居た場所が爆発する。
「まてまて、これ、強すぎるだろ……魔法使える竜は最強じゃないのか?」
『いえ、竜同士の戦いだとそこまでの優位にはなりません。
試しに火球を鎧で弾いてみますか?』
「信じるぞ……」
「【ファッ!】」
飛来する火球を、身にまとう鎧の手甲で弾く、熱風を感じるが、簡単に後方に弾け、鎧にも損傷はない。
「すごいな……」
『竜の力を得た鎧ですから!』
「それが分かれば!」
回避に努めていたカインは、一点攻勢に転じる。
突然向かってきたカインに戸惑う魔法使い竜、急いで距離を取ろうとするが、今のカインの機動力は上を行く。
あっという間に距離を詰められ、魔法は簡単に弾かれ、ほぼ完封でその剣に敗れるのであった。
「竜石吸ったら魔法使えるかな?」
『擬似的には似たようなことを起こせそうですが、威力とかは段違いですよ……たぶん』
「出来るの!?」
魔法は男の子にとって憧れだ。
やはり自分の手で魔法を扱ってみたいという夢は一度は持つものだ。
「【ファッ!】」
こぶし大の火球がボンッと地面に当たる。
少しだけ燃え残った火も、そよ風で消えてしまう……
とてもではないが、戦闘に使えるような代物ではなさそうだ。
「……火起こしが楽になるね……」
『ですね……』
実際、めっちゃ使う日常魔法になるとはこの時二人は気がつくことはなかった。
二つの勢力から狙われて、逃避行が更に険しくなるかと思うと、そうでもなかった。
最初に侵入した龍のテリトリーからどうやら離れたようで、追っては差し向けられなかった……
魔法竜がたまに襲いかかってきたが、数体倒すと遠巻きにこちらを監視するようになった。
好戦的という意味では、最初の龍の軍勢のほうが好戦的と言える。
決定的な違いは、一週間ほどで現れた。
日々魔物を倒しながら点々と森を移動しているカインに、魔法竜が接触を図ってきたのだ。
「戦う気はない、お前は人間ではないのか……何者だ?」
見事に人語を操る竜。
大きさは人よりも一回り大きいくらい、魔法を使う竜に似ていて、二足歩行を行っている。
顔は完全に竜だが、人語を話すせいでどことなく表情豊かに見えた。
「私の名はカイン=マクスウェル!
竜の森に落ちた人間だ。竜の縄張りに入ったことは謝罪するが、こちらもこの森を抜けるために必死なのだ……」
「人間が竜を倒すか……しかも、その剣に鎧……それに我らの術を使う、ただの人間ではない……」
「父と母を殺され、崖より落とされ、おぼろげな記憶しかないが、巨体の古龍の龍玉を貫いた。
気がつくとこの不思議な力を手に入れていた」
「嘘は無いか……巨大な古龍……怠惰なる奴か?
で、あれば、その力……
汝の願いは森からの脱出か?」
「ああ、そして父と母、そして祖国の敵を打つ!」
「ふむ……ならば我らと協力できるかもしれんな……」
『竜種はくだらない計略などはしません、信用できるかと』
カインが相手の発言に警戒すると、バハムディアが助言してくる。
そして、バハムディアの声ははっきりとカインの耳に届くほどなのに、目の前にいる竜の耳には届いていない、カインだけがその声を聞くことが出来ることが判明する。
「カイン殿があの古龍の力を受け入れられたのであれば、我らのちからの近郊を崩すことが可能になる。最初に目をつけられたのは氷炎姫グゥエンドリン。そして、我らの王、賢龍王アブデル様。そして黒暴王ヴォリゾアキス……この3龍がこの森を支配している」
「ええと、私が倒したと思われる古龍は……」
「言いづらいのだが、彼の者は群れを持たない、いや、持てなかった……
その、弱い者相手に、力を振るう愚者と呼ばれていた……
ただ、誰よりも長く生き延び、喰らい、大きくなり……
相手をする価値もないと、放置されて居た……」
「……なん、ですと……」
「いや、実際には強大な力を持つし、誰よりも頑丈で、回復力もすごく、非常にめんどくさくて相手するのも嫌になったほどだ」
「褒め、られてませんよね?」
「……まぁ、やつも寿命を前に、討たれたのなら、その、戦いで生命を落としたわけだから……
その……すまん」
「謝らないでください、確かに私は落ちてきただけですから……」
「その、すまん」
謝られるたびに、落ち込む一方だ。
『マスター……』
「そ、そうだ。この剣も鎧も父や母から受け継いだもの、何も恥じることはない」
「そ、そうだな。素晴らしい趣向の武具だと思うぞ。
我が主などは気に入りそうだ」
龍は宝を好む。
物語で何度も見た話だ。
その噂が本当だとわかって、すこしカインの心は暖かくなった。