第6話 逃走と闘争
『だめだ! 囲まれている!!』
「くっ! やるしかない!」
目の前に小型の竜が飛び出してくる。
小型なのは若いからではない、速度に特化した竜。
飛走竜。
飛ぶように走る竜。そう呼ばれている。
名を表す文字通り、森の木々を飛ぶように移動しカインの前に踊りだしてきた。
ギインっ!
次の瞬間竜が消え、するどい牙がカインを襲い、とっさに剣で受ける。
「は、早い!!」
『マスター! 武技を!』
「もう、使ってる!!」
【兎足】【加速】【跳躍】全て同時に発動して避けようとして、前に躍り出られた。
森の中では飛走龍の動きに勝てる要素がない、しかも数体の増援が向かってきていることが感じられている。
後少し森を進めば開けた場所へ出られる。
なんとかそこまで逃げ切るつもりだったが、それは叶わなかった。
「こうなったら……」
カインは危険な賭けに出るしかなかった。
「【毒ガス】【火種】、そして、【堅硬】!」
次の瞬間、爆発が起こり、身体を広げて爆風を受けたカインが森から吹き飛ばされた。
「ぐはっ……でも、これで……」
計算通り、爆風で森の外まで吹き飛ばされた。
身体の痛みに耐えて身構える。
飛走竜は、カインの奇行に一瞬ひるんだが、すぐに獲物に的を絞り、その速力を持って突撃をしてくる。
「うおおお!! 【熊爪】!」
直線的な突撃を迎撃するように武技を重ねる。
切り上げるように敵を爪撃が襲う、飛走竜のするどい爪とぶつかりあい、その体を上空へと弾く。
「木々がなければ、空中では躱せない!!
【兎足】【加速】【飛翔】ぐううううぅっ……【一角突き】ぃ!!」
複数の武技の同時発動に身体が軋む、歯を食いしばり、カインは剣を竜に突き立てる。
空中で躱すすべのない竜の胸板をカインの剣が貫き、戦いの勝者が来まる……
どさりと竜の身体が大地に叩きつけられる、なんとか着地したカインだが、剣を使ってようやく立ち上がる。
『マスター、竜石を』
「『食事』は出来ないのでは?」
『ええ、ですが、力を奪います』
カインは竜の体内から竜石を剥ぎ取る。
まだそれほど歳を重ねていない竜でも、その力の源として持つ竜石、永劫のときの末に龍玉となるその種のような存在、しかし、それでも圧倒的な強者である種の力に満ち溢れており、魔石とは比べ物にならない力を秘めている。
『その石を、柄の宝石に当ててください』
バハムディアに言われるように、剣に石を合わせる。
竜石から強大な力が剣に流れ込んでいく。
剣が光り輝き、形態を変化させる。
同時にカインの身体にも力が溢れていく。
常に消えることなく存在していた『飢え』の感覚が、刹那忘れることが出来た。
見事な竜の意匠の剣、バハムディアが進化した。
同時にカインを包む服の一部が変化し、軽鎧のようになった。
『逃げられないのならば、戦える力を手に入れるしかありません』
「追ってた奴らは、去っていったね」
『完全に、敵になりましたね』
「はぁ……とりあえず、膝をついていいかな……
限界……」
その場に崩れ落ちてしまう。
いくつもの武技を並行発動するだけでも辛いのに、仕方がなかったとは言え爆風をモロに受けた身体のダメージは小さくない。
カインは、こんな開けた場所で一瞬、気を失い眠りについてしまった。
普段なら大変危険な行為だが、ある理由で魔物に襲われることはなかった。
「ん……眠っていたか……」
『おはようございますマスター、竜の血のおかげで魔物は近づいてきませんでしたよ』
「ああ、手傷を追った竜は気が立っているから、魔物は近づかないんだっけ……」
『ですので、しっかりと回収しましょう。
竜は宝の宝庫です』
それから飛走竜を解体し、余すことなく素材を回収する。
魔物の素材など、少量であれば『収納』していたバハムディアの能力が飛躍的に成長しており、これからは素材集めも捗るよになる。
しかし、内部の大半を占める部分の開放は固く閉ざされている感覚があった。
「まだまだだな……」
『一歩づつです』
「……腹減った……」
『今日の糧のために頑張りましょう!』
それから、暗殺者のように送り込まれる竜との戦闘を重ね、飢えを満たすために魔物との戦闘を重ね、戦いと逃走の日々が続いていくのであった……
「ついに、本腰を入れてきたね……」
『テリトリーの外にこれほどの竜を送ってくるとは……』
カインの目の前には、10メートルを超える巨大な竜がこちらを睨みつけている。
ただそこにいるだけで、まるで重圧に押しつぶされそうなる……
【威圧】【恐怖】【動揺】竜という存在だけで、前に立つものにそれだけのデバフを与えてくる。
「なんとか……立っていられるな」
『立派なのです』
人間でありながら、亜竜ではなく、成竜の前で武器を構えられる存在は、多くはない。
ブルリ……
カインは自然と体が震えた。
そして、それは恐怖からくるものでないことを知っていた。
カインの心中は、ようやく自分の手で、本当のドラゴンバスターに、英雄になることへの期待で熱く燃えたぎっていたからだ。
「行くぞ!!」