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第1話 雷鳴

次回作案、

少し落ち着いたら継続して執筆に入ります!

 薄暗い空から雨が降り注ぐ、激しい雨音で暴走する馬車の音がかき消されている。

 時折激しい雷が、まばゆい光と、激しい音を奏でるが、雨音が全てをかき消している。

 激しく揺れる馬車の中、一人の少年が必死に自分の体を馬車にしがみついて支えている。

 

「イーサ! カイン! 無事か!?」


 馬車に並走する場上から男が馬車に乗り込んでくる。

 馬車の中にいる女性と少年がいることにフッと安堵の息をつく。

 血塗られた剣を鞘に収め、二人を抱き寄せる。


「護衛は全てやられた……追いつかれるのも時間の問題だ……」


「貴方……」


「イーサ、俺が奴らを食い止める。

 カインと共に落ち延びるんだ……」


「そんな……」


「それしか無いんだ! カイン、これを……」


 男は懐から首かざりを少年の首にかけ、シャツの中にしまう。

 

「父様……僕も戦います!」


「カイン、お前がイーサ、母さんを守らないでどうするんだ!」


「……父様……」


「頼んだぞ、カイン」


 ごしごしと頭をなでる大きく温かい手。

 カインが大好きな父アデルの手だ。

 

「イーサ、愛しているぞ」


「貴方……」


 アデルは力強くイーサを抱き寄せ、再び馬車の扉を開けて愛馬の名を呼ぶ。


「ヴァッセル!! 最後の戦場を駆けるぞ!!」


 激しく揺れる馬車からふわりと場上へと戻るアデル。

 その身のこなしは、達人のそれだとひと目で分かる。

 

「なあに、全てを倒して、また会おう!!」


「父様!!!」


「貴方ぁ!!」


 馬車の扉を蹴り、激しく締め、アデルと愛馬ヴァッセルは踵を返す。


 激しい雨の中、馬車は相変わらず激しく揺れながら進んでいく。


「母様、父様は敵を討ち果たし再び相まみえますよね?」


「ええ、そうよカイン。必ずまた皆で静かに暮らすの……」


 その時、馬のいななきの声が二人に聞こえた。


「父様だ!! 父様が凱旋なさったんだ!」


 しかし、カインが馬車の窓を開けて見えたものは、彼の望むものはなかった。

 彼の父であるアデルが持つ名剣ファーサル、その美しい刀剣を持つものは漆黒の鎧に身を包み、黒馬に跨る騎士だった。


「ああ……アデル……!!」


 イーサはカインの身を窓から引き離し、強く抱きしめた。カインの柔らかい金色の髪に、幾重ものしずくが落ち、その髪を濡らしていく。

 アデルが自らの剣を手放すことはあり得ない、その剣が他人の手にある理由は一つしかなかった。

 

「カイン!」


 漆黒の騎士が、馬車に並走し、扉を蹴破って内部に乗り込んでくる。

 カインを庇うようにイーサが立ちふさがる。


「母様は僕が守るんだ!」


 ずぷっ……とても嫌な音が、豪雨と激しく揺れる馬車の中で確実にカインの耳に入った。

 ボタボタと大量の真っ赤な液体が馬車の床に広がっていく。


「かあ……さま……?」


 イーサの腹部から、カインの目の前に血塗られた刃が突きつけられていた。


「アデ……ルの剣……返して、もらいます!」


 イーサの指輪が激しい光と炎を放ち、黒騎士を馬車の外に吹き飛ばす。

 その衝撃で馬車の屋根が吹き飛び、激しい雨がイーサとカインを打ち付ける。


「母様!! しっかりして母様!!」


「カイ……ン……剣を……アデルの剣……を……」


 倒れた時にイーサの腹から抜けた剣をカインに渡す。

 剣が抜けたことで、さらに出血が激しくなり、そのドレスが真紅に染まっている。


「父様の剣、このカインが必ず、母様を守る剣となります!」


「愛し……てるわ……カイ……」


 カインが剣を受け取ると、イーサはだらりと力なく横たわる。


「嫌だ……母様……父様との約束が……」


 ガタンッ!

 激しく馬車が揺れた。

 カインは剣を力強く握る。

 次の瞬間ふわりと身体が浮いたような感覚に襲われる。

 

 それは、事実として空に放り出されていた。

 馬車を操る行者はすでに弓によって打たれ、馬は狂ったように走るだけになっていた。

 そして、崖沿いの道を曲がりきれず、大きく跳ねて大空へと放り出されたのだ……

 

 眼下に広がる広大な森、死の森と呼ばれるその森に入ったものは決して帰ることが無いと言われている。

 その脇にある巨大な山脈をカイン達は必死で逃げていた。

 険しい山道を黒騎士たちに追われながら……


「ちっ……あのババァあんなもの隠し持ってたのか……ガキを殺しそこねたぜ」


「まったく油断し過ぎだぞ、かの名剣ファサールと宝具が死の森に消えてしまった……

 はぁ……めちゃくちゃ怒られるぞ……」


「なあに、あのアデルを仕留めたんだ!

 それに死の森にこの高さから落ちたんだ、文句は言わせねぇ!

 それにしても、あの女綺麗だったなぁ、いい感覚がったなぁ……

 あのガキも細切れにして泣かせたら気持ちよかったろうなぁ……」


「はぁ……」


 二人の黒騎士が、山道から森を見下ろしていた。


 この森に落ちたものは、絶対に助からない。

 巨大な山脈に囲まれ、人間の手ではその崖を登ることは出来ない。

 唯一の脱出出来る場所は、森の入口でもある死出の谷からだけだった。

 この森には魔物が溢れている。

 そして、最上位の魔物である竜族のすみかでも有る。

 子供の竜が、谷から外に出て暴れるだけで国が半壊する。

 幾度もの戦いの末、死出の谷に、人間は巨大な壁を作った。

 こうして死の森は封鎖され、さらに人間が生き残れない場所となっていた。


 その死の森に向かって、カインは落下していた。

 

(父様、母様……)


 カインは、目を見開き、現状を観察していた。

 雨粒の一つ一つさえもはっきりと見える程に集中していた。

 まるで時間の流れが緩やかになったように、はっきりと現状を理解できた。

 自分の下には母親を乗せた馬車が落ちていく。

 ゆっくりと真っ黒な森に……


(あれは……竜……いや、龍!!)


 落ちていく先に、巨大な存在が居た。

 竜族、その中でもはるか古代より生きたものは龍と呼ばれ、魔物の中でも神格化される。

 そして、カインが落下した先に居たのは竜属の中でも最古の龍だった。

 

 本来龍のそばにはその配下の竜が付き従えている。

 しかし、その龍は一人だった。

 この龍は、はるか古代より生きてきたが、今まさにその寿命を静かに終えようとしていたのだ。

 龍が死ぬと、その身に蓄えた生命と魔法の力で、周囲に大いなる恵みを与える。

 そう、この老龍はその身をこの地に捧げ、同族が豊かに暮らせる場を作ろうとしていたのだ。


 静かに横たわり、決して他者に見せない竜族の弱点である逆鱗の下にある龍玉を大気に曝している。

 生憎の雨だが、空気が、雨粒が龍玉に触れる感覚を楽しみながら次第に意識を失っていく。


 いい龍生だった……


 今際のセリフはそんなものかもしれない。

 穏やかな死……


 を、邪魔したものが突然空から現れた。

 落下エネルギーを得た馬車は、見事に逆鱗に激突し、粉々に粉砕した。


(父様、母様、カインをお守りください……)


「でりゃあああああああああああ!!!」


 カインはアデルの剣、ファサールを突き出し、龍玉にそのまま落下した。

 ファサールは龍玉の表面を見事に突き刺し、そのままカインの身体は龍玉にとぷんと吸い込まれるように落下した。


【ギャアオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーー!!】


 断末魔……

 長き生を静かに終えるはずの老龍は、カインに討ち取られ、断末魔を上げて、滅びるのであった……


 未だ滝のような雨が、その断末魔さえもかき消していた。

いかがでしょう、もし続きを読みたいと思っていただいたら嬉しいです!

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