黒い影
牛丼と同じようにTボーンステーキも俺たちは夢中で平らげた。
「クレイジーカウの肉がここまでとは・・・。」
「本当よね。調理も勿論だけど素材がいいとここまで美味しく食べれるなんて。」
「こんなに美味しいならクレイジーカウをもっと討伐してもいいかもしれませんね。勿論訓練をおろそかにはしませんけど。」
3人は牛肉の虜になったようで、もう少し討伐するかどうかを悩んでいるようだ。
「悩んでるところ悪いが、そろそろ風呂に入ってもらえるか?」
「えっ!?もうそんな時間なの!?」
「ああ。もういい時間だな。3人が入らないなら、俺が先に入らせてもらうが?」
「ちょ、ちょっと待って。解体をして汚れてるから出来れば先に入りたいんだけど・・・。」
「なら、さっさと入って来いよ。片付けは俺がしとくから。」
「むっ。任せてもいいのか?」
「構わないぞ。」
「では、お言葉に甘えさせてもらうとしよう。アイナ、エレナもそれでいいな?」
「カズマがいいなら、あたしは構わないけど。」
「私もです。」
「なら、さっさと入って来よう。カズマも早く入りたいだろうしな。」
「ゆっくりでもいいぞ?女性の風呂は長いのが相場だからな。俺に気を使う必要はないぞ?」
「あんた、一言余計なのよ。もうちょっと配慮ってものを考えなさいよね。」
「はいはい。気を付けますよ。」
「ほらほら、アイナさん。行きますよ。」
「ちょ、ちょっと。引っ張らないでよ。引っ張らなくてもちゃんとあるけるわよ。」
「では、先にいただいてくる。」
3人はそう言いながら車へと向かって歩いて行った。
(いやはや、俺と旅をするようになってから3人の口が肥えて来てるんじゃないか?俺がいなくなったらあの3人は普通の食生活に戻れるんだろうか?)
俺は不意にそんなことを考えながら、食事の後片付けを始めた。
後片付けも終わり、テーブルで一息入れたのちに車へと戻った俺は、これからのことを考えていた。
(3人の手前ああは言ったが、確かにパーティーを組むのも悪くはないんだよな。あの3人なら信用できるし、なにより美人だしな。それにこの世界に疎い俺にはアドバイスをしてくれる仲間は必須。奴隷というのもありなんだろうが、下手な奴隷をつかまされたも困るしな。パーティーを組むなら斥候、前衛、回復、楯は欲しいがその全てを奴隷でとなるとおそらくは無理だろう。だがあの3人なら前衛と回復は任せられるし、斥候はある意味俺が担っても問題ない。残るは楯だが、これに関しては無理に必要というわけでもないしな。テイマーのスキルがあれば従魔という選択肢もあるんだが、持ってないものを強請っても、な。)
俺がそんなことを考えていると階上からにぎやかな声が聞こえてきた。
おそらく3人が風呂から出たのであろう。
俺は以前のような事故が起こるのを避けるべく、座っていた場所を移動しようと腰を上げた。
その時だった。
目の前一面に黒い影が覆いかぶさってきたのだ。
「なっ!?」
俺はとっさに顔面をカバーしようと両腕を顔の前でクロスさせて防御の態勢をとったのだが、これが間違いだった。
ドサッ
俺と黒い影はもつれるようにソファーに倒れこんでしまった。
(くっ。魔物が車の中に侵入していたのか?だが階上からというのはどういうことだ?階上ならばあの3人が何かしらのアクションを起こしていてもおかしくはないはず。)
俺が頭の中でそんなことを考えていると、手の平にやけに柔らかい感触が伝わってきた。
俺は手の平から伝わってくる感触に戸惑いながらも手を動かした。
フニョン
「あん。」
フニョン
「ん。」
俺が手を動かすたびに頭の上から艶めかしい声が漏れ聞こえてくる。
嫌な予感がする中、俺は何とかこの場から脱出しようと身じろいだ。
「ちょ、ちょっとあんまり動かないでよ!特に手!手は動かしちゃ駄目だからね!」
頭の上から聞こえてくる聞き慣れた声。
「アイナ!お前何してるんだ!?」
「アイナさん。それはちょっと・・・。」
おそらく階上から俺たちの様子を見たのであろうアンナとエレナであろう声が聞こえてきた。
「あ、あたしだって好きでしてるんじゃないわよ。んっ。カ、カズマ!手は動かしちゃダメって言ってるじゃない!」
「んなこと言っても俺もこの態勢は辛いんだが・・・。アンナ、エレナ。すまないがアイナを俺の上からどかしてくれないか?流石にこの態勢が長く続くのはキツイものがある。」
「そ、そうだな。エレナ。行くぞ。」
「あっ、は、はい!」
トタタタタッ
階段を下りてくる音が聞こえたかと思うと、俺の目に光が差し込んできた。
どうやら、アンナとエレナがアイナを動かしてくれたようだ。
俺は暗闇から光の当たる世界へと生還したのだ!
俺はクロスしていた両腕をとき、少し痺れがあったので上に伸ばそうとした。
だが、それが失敗だった。
ポヨンッ
完全に俺の上からは退いていなかったアイナの胸に両手が当たってしまったのだ。
当たったことで上下に揺れるその果実
その果実に実った綺麗なピンク色のサクランボ
俺はそれに目を奪われてしまった。
「き、きゃあ~~~~~~!」
甲高い悲鳴とともに振り下ろされる細いが肉付きのいい腕
その行きつく先は
俺の頬
その先に待つものは
バッチーン
首が捥げるのではないかと思うくらいの衝撃
キィーン
耳の奥で鳴り響く金属音
「あ、あんた。前に言われたこともう忘れたの!少しは配慮しなさいよね!」
「アイナ、落ち着け。誰も階上から人が降ってくるとは思わないと思うぞ?」
「確かにそうですね。それにカズマさんがいたから、アイナさんは怪我をしなかったんですから逆にカズマさんに感謝をするべきかもしれませんね。」
「確かにそうだな。」
3人は何かを話しているようだが、俺はそれどころではない。
いつまでも鳴りやまない耳の奥からの金属音
それにプラスして手の平から伝わった柔らかな感触と目に焼き付いた果実とサクランボ
目の前がチカチカしながらも記憶に鮮明に焼き付いてしまったそれらをどうするか。
そして、どう言い訳をするかを脳をフル回転させながら考えていた。




