土小屋
アイナから質問に対し、スルーを決め込んで俺は食事の準備を終えた。
「とりあえず、白パンは1人1つだからな。スープはそこそこの量あるから、おかわりの場合、自分でついでくれ。水はエレナ頼めるか?」
「はい。それくらいはさせてください。」
「んじゃ、いただ「「「天にまします我らが主よ。今日の糧に感謝いたします。」」」きます。」
「あんた、何やってんの?」
「いや、俺のいたところでは食事前にこうやって、感謝の挨拶をするんだ。」
「ふ~ん。変わってるわね。いただきますだっけ?感謝って言ってたけど誰に感謝してるの?」
「誰ってわけじゃないな。しいて言うなら、食材そのものやそれを作ってくれた人、料理を作ってくれた人、全てに感謝って感じだな。」
「ふむ。全てに感謝か。それは素晴らしいな。私もやってみよう。」
「私もやりたいです。」
「そうね、私もやろうかしら。カズマ、もう一度構わない?」
「ああ、構わないぞ。じゃあ、まず手を胸の前で合わせて、目をつぶってから挨拶だからな。」
「それじゃあいくぞ。」
「「「「いただきます。」」」」
こうして、俺たちは食事を始めた。
4人でワイワイと話をし、食事を楽しんだ。
食事終わりの挨拶「ごちそうさまでした」も勿論教えた。
食事も終わり、食後のゆったりとした一時を楽しんでいる時に、アンナから疑問を投げかけられた。
「そういえば、カズマは1人旅をしていたのだよな。夜はどうしていたんだ?
食事は今日のでわかったが、野営の経験はなさそうなのだが?」
「うん?寝床のことか?」
「ああ。普通なら食事の前にテントを張って寝床を確保するものなんだ。
しかし、カズマは最初に食事の準備をしただろ?ふと気になってな。」
「それに夜番はどうしてたのよ?1人旅なら夜番は出来ないわよね?いつ魔物に襲われるかわからないのにどうやってたの?」
「ああ、それは簡単だ。小屋で寝てたんだよ。」
「小屋?小屋とは一体?」
「百聞は一見に如かずだ。ついでに今日の寝床も用意するから、ちょっと待ってろ。」
俺は3人から少し距離をとり、土で土小屋を作成し始めた。
(3日も連続で使ってるとやっぱり慣れてくるよな。これが使えない魔法だとは思えないんだが・・・。
さて、あの3人は一緒のほうがいいだろうから、余裕をもって4~5人が寝れる程度の小屋を一つと俺用の小屋を作ればいいか。あとは蚤と金づちを利用して、明り取り用兼空気入れ替えの小さい穴を上のほうに開けたら完成だな。
3面と天面は作っといて、最後は3人が小屋に入ってからでいいか。)
俺が土小屋を作成していると、やはりアイナが声を上げた。
「ちょっとあんた!やっぱりおかしいわよ!一体何者なの?正直に言いなさいよ!」
「アイナさん、落ち着いてください。」
「アイナ、落ち着け。」
「落ち着けるわけないでしょ!?目の前でありえないことが起こってるのよ?逆になんであんた達は落ち着いてるよ!」
「私も驚いてはいますが、それ以上に驚いているアイナさんを見ていると、冷静になれたというかなんといか・・・。」
「うむ。私も同じだな。自分以上に驚いている者がいると逆に冷静になるんだな。初めて知ったよ。」
「むが~~。あんた達ねぇ~~。」
「どうどう、落ち着けアイナ。ほれ、水飲むか?」
「あたしは牛や馬じゃない!!」
「わかっている。水を飲んで息を整えていろ。それで、カズマ。
君は旅をしている間、ずっとこうやって小屋を作って寝泊まりしていたのか?」
「ああ、これなら魔物に寝ている間に襲われることはないからな。」
「確かにそうだろうが、なんというかカズマにしか出来なさそうなことだな。」
「そうか?慣れると誰にでも出来ることだと思うぞ?ただ、そんなことは無理という先入観が邪魔してるだけじゃないのか?」
「確かに。カズマさんに会うまでは土は役に立たない、と思っていましたね。こんな使い方考えもしなかったです。」
「何事も固定観念を捨てるのは大事だと思うぞ?街にも土壁の家があるんだから、土だけで家を作ったって問題ないじゃないか。」
「確かにそうですね。一晩だけの簡易な小屋。しかも使い捨て前提。材料はどこにでもある土。
これならわざわざ、重いテントなんて持っていこうなんて思いませんね。」
「場所にもよるがな。森は場所がないし、砂場は直ぐ崩れるだろうからな。」
「基本、野営をするのは平地です。森や砂場で野営をするのは極稀なことですよ?」
「そうなのか?」
「ああ。そして平地で野営するからこそ、夜番が大切になってくるんだ。パーティーの場合は時間を決めて交代で行うのが定石だ。」
「ふぅ~ん。まあ、俺はこれで今までやってきたからなぁ~。でも、お前たちだって今日は困ることになったんじゃないか?テントなんて俺は預かってないぞ?」
「うっ、それはそうなんだが・・・。」
「何か考えがあったのか?」
「正直に言うと何もない。夜番の近くで固まって寝ようかと思っていたんだ。」
「それはそれで危なすぎるだろ・・・。まあ、今日のところはこの小屋で寝ろよ。
確かシートがあったろ?それを敷いてりゃ汚れはしないだろ。」
「そうだな、すまない。そうさせてもらう。」
「そういえば、3人の中に土魔法の適性を持つ奴はいないのか?」
「あたしが持ってるわよ。」
水を飲んで落ち着いたらしいアイナが答えた。
「おっ、落ち着いたようだな。」
「おかげさまでね。それより、土魔法の適正よね?あたしが持ってるわ。」
「おお、ならアイナが小屋を作れるようになれば、野営が楽になるんじゃないか?」
「確かにそうでしょうけど、そこまでのMPも魔力もあたしには無いわ。」
「ん?MPなんてほとんど使って無いぞ。なんせ初期魔法なんだからな。試しにやり方教えてやるから、やってみたらどうだ?」
「そこまでいうならやってみるけど、出来なくても知らないからね。」
「おう。それなら、いっちょやってみますか。」
俺はアイナに自分がどうイメージして土を動かしているか、魔力をどの程度込めているかを話した。
「理解したか?」
「ええ、なんとか。それじゃあやってみるわ。」
「まず、自分の背丈より少し高い壁をイメージして、込める魔力は・・・。」
アイナはぶつぶつと俺の教えたことを口に出しながら、集中していった。
「アイナは上手くいきそうか?」
「さあ?でも理解はしてるみたいだから、後は本人次第だと思うぞ。」
アンナと話をしているとアイナの声が聞こえた。
「土」
するとアイナの目の前に、アイナの腰ぐらいまでの高さの壁が出来上がった。
「おお~。出来たじゃないか。」
「はぁはぁはぁはぁ、これ結構キツイわね。結構な魔力を込めた初期魔法の制御がこんなにキツイだなんて。
普通にスキルを使うほうがずっと楽だわ。」
「まあ、キツイのは最初のうちだけだと思うぞ?後は慣れだ、慣れ。」
「すごいです、アイナさん。聞いただけでこんなこと出来るだなんて!」
「ああ、これは見事だ。慣れてしまえば本当にカズマのような小屋を作れるかもしれんぞ。」
「ふぅ~。でも小さな壁一つ作るのにこの様よ?小屋を作るだなんて夢のまた夢よ。」
「そうでもないぞ?言ったろ?慣れだって。小さいものでもいいから、作って慣れていけばいいんだよ。
そうだな、例えばあの窯ぐらいの大きさとかなら丁度いいんじゃないか?」
「確かに慣れるには丁度いいかもしれないけど、今日はもうやめとくわ。なんだか物凄く疲れちゃったのよ。」
「了解。後はゆっくりしといてくれ。俺は小屋に少し手を加えてくるから。」
俺は3面全てに明り取り兼空気入れ替え用の穴を開けるためにその場を離れた。