これって任意同行なのか?
「ん、ん~。」
俺は昨夜作った簡易の屋根なし小屋で目を覚ました。
昨夜はこの簡易小屋を作るのに精一杯で飯は食えなかった。
(腹が減ったなぁ。)
簡易小屋を作ったはいいが敷布団なんてないから、地面に直に寝たからかやはり寝心地は最悪だった。
ボーッとする頭が覚醒していくとなんだか周りが騒がしいことに気が付いた。
「おい、なんだと思うよこれ。」
「知るかよ。土の壁?四方を囲むようになってるな。」
「扉も何もないがこれは大きさ的に小屋に近いような。」
「ってことは誰かいるってことか?」
「んなわけないだろ。こんなところに誰がいるっていうんだよ。」
「俺が知るかよ。」
ザワザワザワ
(やかましいなぁ。)
(ん?人の声がするってことは街の門が開いたってことか?)
(こうしちゃいられない、さっさと起きて街へ行こう。)
俺は凝った体を解きほぐすように軽く伸びをして、小屋の一面を崩した。
「おい、誰か出てきたぞ。」
「ホントだ。誰か街の警備兵呼んで来い。」
「もう呼びに言ってるからもうすぐ到着するはずだ。」
(な、なんだぁ?なんだってこんなに人が集まってるんだ?)
(それに警備兵って。俺って逮捕されるのか?)
「こっちです。こっち。」
「わかったからそう急かすな。」
何人かが走ってくる足音が聞こえる。
(こ、これはやばいんじゃなかろうか。)
「あ~、君かねこんなところにこんなものを作ったのは?」
チェストプレートというんだろうか、胸の部分だけの鎧を付けている男が俺に声をかけてきた。
(なんか、しゃべり方がおじさんっぽいな。)
その後ろには2人同じ鎧を着込んだ若い男がいる。
「あっ、はい。昨日の夜に街に到着したんですが、門が閉まっていたので。」
「門が閉まっていた?君はどのくらいにここに着いたんだね?」
「えっとお月さんが2つあっちのほうにあったくらいですね。」
俺は自分が覚えている限りの方角と高さを指差した。
「ふむ。月がその高さであるなら門はまだ開いているはずなんだがな。
それに門の近くには警備兵もいたはずなんだが。」
「えっ?でも閉まってましたし、誰もいませんでしたよ?」
「君が確認した門はあそこの門かね?」
警備兵のおっちゃんは俺が到着して呆然と見ていた門を指差した。
「はい、そうです。」
「ふむ。嘘は言っていないようだが・・・。おい、昨日の門の閉門時間と担当者を調べてこい。
それから、この男が言っている時間の門の警備兵もだ。」
「「はっ。」」
「君も悪いが警備兵の詰め所に来てもらえるかな?」
「あっ、はい。かまいませんよ。」
「助かるよ。ほら、野次馬をしてないで解散、解散。」
警備兵のおっちゃんがそういうと小屋の周りに居た野次馬達は移動していった。
「それと申し訳ないんだが、これを何とかしてもらえないかね?」
「そうですよね。直ぐに崩します。」
俺は小屋に向き直ると平らな地面になるように魔法を発動した。
「土」
すると土は俺の意思を組んだように地面へと還っていき、小屋ができる前の平らな地面がそこにはあった。
「な、なんだと!?」
「えっ?何かまずかったですか?」
「い、いや。初期魔法である土だけでこのようなことが出来るのに驚いただけだよ。(宮廷魔道師でもこのような芸当が出来るとは聞いたことないのだが。この男何者だ?)」
「えっと、これから詰め所に行けばいいんですかね?」
「うん?ああ、そうだね。そこでちょっとした質問と検査を受けてもらうことになる。
君が嘘を付いていなければ直ぐに解放となるだろう。」
「そうですか。」
「ただ、嘘を付いていた場合は、それなりの処罰を受けてもらうことになるからね。」
「それは、そうでしょうね。ただ、俺は嘘なんか付いてませんので。」
「ふむ、では詰め所へ行くとしよう。着いてきたまえ。」
こうして俺はいわゆる任意同行という形ではあるが、街へ入ったのだった。