入学式
一年後。僕は高校の入学式に出ていた。
今年は例年よりも早く桜が咲いてしまったようで、多くの桜が地面に落ちてしまっていた。地面に落ちた桜は、沢山の人に踏まれ色が茶色くなっていた。それでも新しい高校生の誕生を祝うために、いくつかの桜の樹は花びらを落とさないよう懸命に頑張っていた。
体育館はいつもとは違う装いであった。
体育館の奥の舞台には国旗といくつかの旗が立てられていた。舞台の真ん中に置いてある壇上にはマイクが設置されていて、この後校長先生が挨拶をするのだろうと想像がついた。また舞台の袖にはマイクスタンドが設置され、司会役の先生が喋るのだろうと想像した。
体育館の中にはこれでもかと生徒が集められていた。真新しい制服に身を包んだ周りの生徒たちは、光り輝いて見えた。
僕は、生まれて初めて学ランというものを着ている。初めて学ランの袖に腕を通した時、首の周りについている白いプラスチックが気になった。これは着始めた時には外すものだろうと思っていたが、常時つけるものだと知った時は驚いた(なお、イケてる人たちはこの白いプラスチックは外すらしい)。
今日は教室に集まらず最初から体育館集合だったため、特段誰かと話す機会はなかった。
そのため、僕の周りにいる生徒のことは何もしらないし、周りの生徒も僕のことは知らない。
何人かは友達と一緒に入学したグループいるようだった。
この後のクラス発表でどんな人と一緒のクラスになるのだろうかと不安になっている時、舞台の袖から一人の女性が現れ、マイクスタンドに刺さっているマイクに電源を入れた。そして、女性が話し始めた。
お祝いの言葉と、入学式の内容を説明したのち、校長先生の話が始まった。
「えぇ、皆さん。ご入学おめでとうございます。校長の山口でございます。我が校は、今年で創立100周年を迎え...」と淡々と長い話が始まった。
学校の歴史を語り始めたと思ったら、今度はプロ野球選手の話になった。現役のプロ野球選手がこの高校出身だったらしく、学生時代の思い出を語っていた。そして、最後に校長先生は自分の思いを語った。
「我が校、港口商業高校は多くの商人を排出してきました。商いの基本は物を安く仕入れて、その物を仕入れ値よりも高く売ることでした。しかし最近は技術が進歩し、実体のあるものだけではなく、実体の無いものも売るようになりました。このように現代社会は大きく進歩しております。皆さんは、この大きく変化している社会の中でこれから生きていかなければなりません。ぜひ、このミナショウでその変化に耐えられる人に育ってください。期待しております」
校長先生は、軽くお辞儀をして舞台の袖にはけていった。多くの生徒たちは、拍手をしていた。
その後、学校生活に関するお知らせのち、野球部の応援練習をすることになった。
たぶん2年生であろう野球部の男子とバトン部の女子が体育館の舞台に立ち、応援練習がはじまった。
応援は、主に大きな太鼓をリズムよく叩き、その太鼓のリズムに合わせて野球部の応援歌を歌うというものであった。たぶん他の学校ではなされていないであろうこの行事に僕はおどろきつつも、頑張って声をだした。どうせ声を出すのもの今回限りだろうとも思っていた。(なお、残念なことにこの声出しは夏休み前と冬休み前、始業式には必ず行われる行事であるということは、しばらくしてから知った)
その後も入学式は、なんやかんやと進んだ。
周りを見る限りほとんどの生徒たちが飽きてきているように見えた。
頭の中は、自分のクラスがどこになるのかで頭がいっぱいなのだろう。隣にいる旧友とは同じクラスになるのか、それとも全く違うクラスになるのか気が気じゃないはずである。
入学式が無事に終わり、体育館から退出した。
昇降口の前に大きな紙が張り出され、そこにあいうえお順で名前が書かれていた。
名前の横にクラス番号が書かれており、1組から6組まであった。
僕は自分の名前がありそうな場所を上から順番に名前を眺めて、自分の名前を探した。
境という名字は僕だけだったため、すぐに見つかった。5組だった。
僕が多くの生徒がいる中から昇降口に向かおうと振り返った時に、一人の女子生徒にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
僕はすぐに謝った。女子生徒は、僕の顔をぼーっとした顔つきでしばらく見つめたあと、小さな声で「気にしなくて平気」と言ってそのまま人混みの中に消えていった。
中学校にはいないような雰囲気の女の子であったため、僕は驚いた。これが高校か。
そして、いよいよ僕の高校生活が始まったのであった。




