中学生の春⑦
夜ご飯を食べ終えた僕は、自分の部屋にいた。
僕が小学生の頃から使っている机は、古臭さを感じつつもまだ現役だった。当初は透明なゴムのようなものが机の上に敷かれていたが、中学生に上がった時に捨てた。下敷きのような役割と、色々なものをスクラップする役割をしていて、使い勝手が良かったような気がしたが小学生気分が抜けないと思っていた。
その机の上にあるパソコンを開いて、僕は商業高校について調べた。
検索ボックスに、商業高校と入れれば何件か商業高校に関する記事が出てきた。
そのいくつかを適当にクリックして僕は商業高校とはこういうところだ、ということを学んだ。
商業高校の授業の中でも、簿記という授業は特に特殊らしい。
僕が読んだブログ記事によれば、社会人に必要とされる3大スキルは、IT、英語、会計らしく、その会計の分野における超基礎知識だというのだ。そして、その簿記の授業を高校からやるのが商業高校らしい。
簿記には単式簿記と複式簿記というお話がある。単式簿記は単なるお小遣い帳と同じ書き方をするらしい(僕が読んだ記事全てがこの表現を使っていたが、今時お小遣い帳をつける子供はいるのだろうか......)。そして、複式僕は借方貸方を用いて、どんどん記帳していくやり方のようだった。
正直、単式だの複式だのよくわからなかった。そもそも簿記がなんであるか、ということがわかっていない僕にはまずそこからであった。
次に会計というものについて調べた。これは、さらに難題であった。
簿記で記録したものを、財務諸表の形にして現す。それはまさにカメラのレンズが写像を...(もはや難しい内容を通り超して芸術的な域のフレーズが出たため、僕はそっとパソコンの画面を閉じた)
検索してわかったことがあった。
これは、難しい。簿記は難しそうであるということ。
しばらく、僕は椅子に座って天井を見上げた。僕の座っている椅子は、近所のホームセンターで売っている安物のオフィスチェアである。
最初はくるくる回ったり、背もたれがぐわんぐらん倒れるものだから楽しんでいたが、ある時に曲げすぎて椅子から転げ落ちてしまった。ぼくはこの日を境にして椅子で遊ぶのをやめた。
僕はやっぱり商業高校のことが気になって、再度パソコンを開いた。
再び検索ボックスに「商業高校」という検索ワードを入力して、検索をした。
女の子の比率が多い、制服が可愛くない、野球部が強い学校が多い、頭が悪い、でも最近は大学の進学率もあがってきている......などなど多くの情報が得られた。さっきの簿記の話に比べたら、だいぶ楽しそうだった。だいぶではない、かなりである。
他の普通科高校とは違って、専門科目というのがあるらしい。その中に簿記やパソコンがあるらしく、普通科では学べないようなことが多く学べるようだ。その専門性が高いが故に、高校から就職する子が多いらしい。そのため、女子生徒からも人気高いようだ。
この時点で、僕は正直に言うとかなり興味が湧いていた。
それは、なぜか。
人と違う道が歩けるからである。
僕は、頭は良くないし勉強もできないくせに昔から人と違う道を歩きたがった。天邪鬼なところがあった。
友達がゲームにハマったら、外に出てボールで遊び、友達がボール遊びにハマったら、ゲームにハマる。これで友達ができるのかといえば、多くはできなかった。
それに、中学校の時にやっていた主要5科目と言われるものが僕の肌には合わなかった。なんとなく将来に使えるのかもわからないし、覚えるのが苦手だった。
テストは正しい答えを事前に覚えてテストで答えることが正義。覚えてこれなかった赤点。この繰り返しが、僕には意味がわからなかった。
それは、テストの解き方を覚えるのであって、内容を理解しているわけではないからである。もちろん、内容を理解しないと回答できないものはあると思う。でも、本質的にはただ単に解き方を覚えているだけだ。
そんな意味のないことを繰り返すよりも、僕は意味のあることがしたかった。
そして、人と違う自分になりたかった。
僕はカバンの中から、A4のクリアファイルを取り出した。
そこには、くしゃくしゃになった一枚の紙が伸ばされて収納されていた。
僕はその紙をクリアファイルから取り出して、机に広げた。
机の上にあるペンたてから、一本のボールペンを取り出した。ボールペンの上部をノックし、ペン先を出してくしゃくくしゃの紙に押し付けた。
僕は、息を吸った。そして、そのまま紙にすらすらと文字を書いた。
くしゃくしゃの紙に書かれた文字は、かなり見づらかったが自分の意思を表明するには十分な見栄えであった。
僕は明日、それを秋山先生に出す。もう後戻りはできない。後戻りはできないけど、嫌なら、目標は上書きすればいい。
この出した僕の結論が、間違いか正解なのかはわからないけど、僕が大人になった時にこの選択が正しいかどうかわかるはずだ。
中学生の春の夜、僕は将来を一つ決めてみた。




