並行世界と僕 番外編④
僕は、音が鳴っている公衆電話で立っていた。
音は鳴り続けていたが、公衆電話の横を通る生徒たちは特に何も気にはとめていなかった。
僕はその光景を不思議に思っていたが、公衆電話の受話器を一人の生徒が取った。
しかし、受話器を取る瞬間に電話の音は止んだ。
受話器を取った生徒は、ポケットから小銭を出して公衆電話にお金を投入してボタンを押した。
しばらく電話した後、その生徒は受話器を置いた。
さすがにもう電話は鳴らないだろうと思っていたが、すぐに公衆電話は鳴り始めた。
僕はその光景に少し戸惑いを感じたが、意を決して公衆電話の前に立ち受話器を取った。
「もしもし」
僕は、受話器を取って声を出した。
「…き…。おき…。…きて」
受話器の奥で声がするのだが、うまく聞き取れなかった。
「もしもし?誰ですか」
僕はさらに声を出した。
「…きて。起きて」
起きて、と聞こえた瞬間。僕の意識は飛んだ。
公衆電話に受話器を置く間も無く、僕はそのまま後ろに倒れた。
次に意識が戻った時には何時間経ったのかもわからない。
目を開いた瞬間、真っ暗であったため僕は勢いよく顔を上げた。
「あ、あぶないじゃない」
僕の頭の振り上げを察知した五島さんはタイミングよく避けた。
そして、五島さんの髪の毛を僕の頭がかすめた。
「あ、あの!ここはどこ!?」
五島さんは、僕をじっと見つめている。その姿は、怪しい人物を見ているような雰囲気だった。
「高校の部室だけど」
「今何年何月何日!?」
五島さんが答えた年数は、僕の記憶と一致している。
「スマートフォンは!?」
五島さんはポケットから取り出して、僕に見せてくれた。ピンク色のスマートフォンを五島さんが使っているとは意外だった。
「先生は!?ふ、太ってる!?」
「あなたが机に突っ伏して寝ている間に先生は来たけれど、別に体型は変わってなかったわ。ただ新種のウイルスにかかって頭が痛いとか言ってたけど、どう見ても二日酔いにしか見えなかったわ」
五島さんは呆れた口調だった。
「大丈夫?さっきまでと別人のように見えるわ。何かあったのかしら」
「並行世界があって...」
僕は感情が高ぶりすぎて、何を話しているのかよくわからなかった。まとまりのない言葉の羅列がただただ口元から発せられた。
「並行世界だの、タイムトラベルだの。その類のものは現実世界が嫌になった人間が考え出した妄想よ。そんなものあるわけないじゃない。私には、机に突っ伏して寝ている間に夢でも見ていたとしか見えないのだけれど」
五島さんはこのまま話していても解決しないのだろうと思ったようで、そのまま元に座っていたパソコンの前に座った。そのパソコンはしっかりとでかいブラウン管のモニターがあった。
僕はポケットの中に入れておいたハンカチで汗を拭いた。
そして、トイレに行くために部室から出た。
「あら。何かしら」
僕が出て行ったあと、僕の座っていた付近に落ちた見慣れない包み紙を五島さんは拾った。
「ゴミね」
五島さんはそのまま部室のゴミ箱に捨てた。
そのゴミを触った手が少しだけベトついたのが気になった五島さんは、指先の匂いを嗅いでみた。
「臭いわね」
番外編 おわり




