並行世界と僕 番外編①
クーラーの効いた教室で、セミの大合唱を聴きながら僕は机に突っ伏していた。
僕の隣では、五島さんが何やら古いパソコンと格闘している。
「何をしているの五島さん」
「文章制作」
彼女に何をしているか聞いたはものの、実際のところ僕は彼女が何を作っているのか具体的な中身までは気にならなかった。
机の上に突っ伏して寝ていて、ガソゴソと音がすると思ってはいたがそのまま寝続け、起きたら机の上に古いブラウン管タイプのデスクトップパソコンが置いてあった。
「他の人は」
「もうすでに夏休みよ。他の人はお休み」
「さいですか」
僕は再び机に突っ伏して、寝ようと思った時に五島さんが小さい声で小言を言った。
「このキーボード打ちづらいわ」
五島さんはクラスでもタイピング早いほうだった。
情報処理の授業の開始にタイピングの練習をクラスメイト全員と競いながら練習するが、大抵1番だった。
タイピングの名手である五島さんが、そう呟くのであればきっとキーボードのほうに欠陥があるに違いない。
「時代が時代なのよ。もう体にチップでも埋め込んで、自分の考えていることがそのまま文章として書き起こされたらいいのよ。完全にそうまでいかないにしても、体に線でもつないで勝手に自分の脳内でイメージした変換が勝手にされればいいのに」
五島さんも独り言を言うのだなと思った。珍しい光景に立ち会えた。
部活動の持ち回りであったとはいえ、夏休みに学校に来るのも悪くないと思えた。
そして、気が付くと僕は深い眠りについていた。
目が覚めると、依然として教室にはクーラーの聞いた涼しい部屋にセミの大合唱が鳴り響いていた。
僕は机から離れて、軽く天井に向かって体を伸ばした。
あたりを見回すと、さっきまでの古いパソコンはなく、五島さんの姿も見当たらなかった。
僕は頭をかきながら「どこいったんだか」と呟いた。
部室内を見回すと心なしか、綺麗に整理されている気がした。
部室の扉が開いて、五島さんが現れた。
「あら、起きたの?」
五島さんは本を持って現れた。
そして、そのまま僕の座っている机のほうに戻ってきた。
五島さんはそのまま座って、何かのボタンを押した。
そして物理キーボードの前に、映像が現れた。
僕はその光景に驚き開いた口が塞がらなかったのだが、五島さんは何事もなかったかのようにタイピングの続けた。
「五島さん」
「なに」
「なにそれ」
「なにそれ?ああ、これのこと?」
五島さんは、指をした。
「それ」
「パソコン」
五島さんは、表情を変えずに答えた。むしろその表情からは何を言っているのか?という感情が読み取れた。
僕は、自分の知っているパソコンの形をジェスチャーを交えて説明した。
彼女は相変わらず表情は変わっていない。
「あなた」
「はい」
彼女の低い声に少しドキッとした。
「もしかして別の世界の人?」
彼女から発しられた映画や漫画で良く出る類のセリフに僕は驚きを通り越して、唖然とした表情となった。
そして、彼女は冷静に並行世界について話し始めた。
並行世界。彼女曰くこの世界には同じ時間軸の世界が存在しているらしい。
同じ時間に同じ人物が存在している。しかし、世界というのはそれぞれの選択によって成り立っているという。その選択によって世界は変わっており、並行世界はその選択によって景色が違うのだという。
パソコンの形が違うのは過去に行った誰かの選択によって、パソコンの形がそうなったのだという。
あなたの世界では、筐体の中に色々と詰め込んでパソコンの形にしたのが始まりだったのかもしれない。
しかし、この世界では筐体の中に色々と詰め込むという形でのパソコンは制作されず、モニターという概念も存在しない。そのように誰かが選択したのだ。
頭の中がパンクしそうになるのを我慢して、僕は彼女の話をつづけた。
「人々の選択の結果が、世界を作るの」




