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準備期間③

 夏祭りの会議は、僕らをのぞいてサクサクと進んでいった。

 夏祭り自体は例年行われているものであるから、会議の内容もいつも同じなのだろう。町内会の人々はこの夏祭りの会議で会う人もいるようだ。この会議が終わるとちょっとした懇親会も行われる。


「今年のイベントは港口小学校の児童によるダンスと地元のバンドメンバーによる演奏で......」

 司会の女性が淡々と決まっている内容を読み上げていると、金沢さんが発言した。


「そう言えば、今年の高校生の皆さんは何をやるんだけっか。相沢くん説明してよ」

 金沢さんは汗をハンカチで拭いながら、相沢さんに話をふった。エアコンが効いているとはいえ、金沢さんにはこの部屋はまだまだ暑いようだ。


「はい、わかりました」

 相沢先輩は返事をして、右膝に手を当てて立ち上がろうとした。となりに座っていた川上先輩は慌てて相沢先輩を座らせた。「べ、別に立つ必要はないわ。こら」と小声で話かけているのが僕に聞こえてきた。


 相沢先輩は、少し悲しそうな顔をしながら座り直した。

 そして、今年は夏祭りでカフェをやりたいこと、持ってきたカップの試作品を手に僕らが考えた構想を先輩は話した。


「なるほど。夏祭りカフェか。高校生はいつも斬新なアイデアを出してくれるよね。その飲料カップも可愛らしくて良いよね」

 金沢さんは、感慨深そうにうなづいた。その姿を見て僕らの考えたアイデアに共感してくれたような気がして、ほんの少し僕は嬉しかった。


「カフェとは言え、飲料販売か......諸星さんところと被っちゃうわね」

 会議に参加していた、おばさんがふと発言をした。僕らとしてもその発言は想定内ではあった。しかし、大人と子供であれば大人の意見が尊重されるに違いないと思った。


 諸星さんは今回の会議には参加していない。

 酒屋の会合が同日にあり、そちらに参加していた。


「まぁまぁいいじゃないの。被ったってさ。諸星さんには僕から話しておくよ」

 金沢さんは大きな声で笑いながら周りを諭すように喋った。


「この夏祭りは、もちろんお店を出す人たちからしたら売上や利益は気になるかもしれない。僕の電気屋だって焼きとうもろこしを売るから、売上だって多いに越したことはないよ? でもさ、夏祭りはこの地域のみんなが仲良くなる場であって欲しいと思う。それと、運営側で参加する若者たちには成長するために挑戦する機会であっても欲しいんだ。彼らが考えたアイデアがどれだけ夏祭りにきてくれた人たちに受け入れられるか。ひょっとしたら、総スカンを食らうかもしれない。それでも彼らにとっては良い糧になると思うんだ。若者には挑戦をもっとして欲しいと思う」

 金沢さんは、ニコニコしながら僕らのほうを見ている。汗はひいたのだろうか。ハンカチはテーブルの上に置いてあった。


「あ、ありがとうございます」

 思わず僕は声を出してしまった。


「君、お名前は?」

 金沢さんは僕に話しかけてしまった。


「さかい......境三日月です」

 僕は緊張しながら自己紹介をした。こんなにも大勢の前で自己紹介をしたのは、高校入学時の自己紹介以来かもしれない。慣れないことをした結果、脇汗がとまらなかった。


「境くんか。1年生かな?」


「はい」


「そうかそうか。よろしくね。怖そうなおじいちゃんから、優しそうなおばさんまで、沢山の大人がいて緊張しているかもしれない。けれども、みんな君たちに期待しているんだ。期待しているとはいっても、ジャンジャン失敗していいから。そんなにプレッシャーに感じる必要はないから。まぁ、夏祭りで食中毒とか起こされちゃうと困っちゃうけど基本的にはいろいろなことにチャレンジして欲しいかな」


「だれが、怖そうなおじいちゃんじゃ」

 堀井のじいさんは、金沢さんを睨みつけた。睨みつけたものの、視線にはどこか優しさを感じた。


 その後も会議は順調に進み、僕らの夏祭りのアイデアは受け入れてもらえた。

 自分で考えたアイデアが他人に受け入れられ、それを実行することができることがこんなに嬉しいものだなんて僕はしらなかった。もちろん、まだ実行したわけではないのだけれど。


 会議の終了間際に僕は五島さんに話しかけた。

 五島さんは会議中、ずっと何かを見つめているような見つめていないような微妙な表情をしていたのが気になっていたからだ。

「終わったね、五島さん」


 彼女からの返事はなかった。

 僕はもう一度彼女に話しかけた。


「...たい」


「ん?」


「足が痛い。足が痺れて痛い」


 町内会の会議は、痩せ我慢をしている五島さんの表情とともに終わったのだった。

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