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夕暮れはアイデアと共に④

「春一くん、終わったよ」


 ドローンを片手に持った少年は先生に終わりを報告したが、隣に立っていた僕らを不思議そうな目つきで見ていた。


「この人たちは誰?」


「ここの生徒だよ。高校生。陽介くん挨拶しなさい」


「初めまして、安西陽介と言います」


 綺麗な言葉遣いと、どこかぎこちないお辞儀に小学生らしさを感じた。

 それでも育ちの良さを感じるほど陽介はしっかりしているという印象を受けた。


「こんな真面目な小学生と先生はどんな面識なんですか。もしかして隠し子ですか」


「陽介くんが俺の子供だったら何歳で産んでるんだって話なんだが。それにさっき言ったろう。知り合いの息子さんだって」


 先生は僕の肩を軽く叩いた。


「陽介くんは、ドローンを操縦するのがうまいんだね」


 僕は陽介くんに尋ねた。


「そんなそんな。僕なんかよりもうまい人はたくさんいます。まだまだです」


 プロサッカー選手が行う、試合後のインタビューで答えそうな返しだった。

 試合終了後に課題ばかり見つけそうな姿勢に僕は驚いた。


「陽介くんは将来の夢とかあるの? やっぱりドローン関係のお仕事に就きたいのかな?」


「そうですね。でも、お父さんに相談したらドローンを使ったお仕事ってまだまだ少ないって言われました。それに、あっても動画の撮影とかみたいなんです。もちろんそういう仕事が嫌っていうわけではないんですけど」


 やはりこの子は真面目である。最近の小学生はこんな感じなのだろうか。

 僕なんて学校のグランドでボールを蹴ったり、家でテレビゲームをずっとやっていた思い出しかない。


「この子は僕の昔のクライアントの社長さんのお子さん。お父さんはドローンのベンチャー企業を営んでいて、株式公開を目指してるんだ。だから、小さい頃から彼にとってはドローンはおもちゃみたいなものなのさ」


 ベンチャー企業の社長さんと知り合い、というフレーズに謎の力強さを僕は感じてしまった。

 本当に坂下先生には驚かされるばかりである。


「映像関係より、人の役に立てる仕事に就きたいんです。人に直接関わっていく。ドローンならそれが可能だと思ってます」


 小学生とは思えないほど、しっかりと自分の将来を考えていることを改めて感じだ。

 そして、改めて自分のことを考えてしまった。


「三日月くんも頑張らないとね!というか私もだけど。陽介くんすごいね」


 僕の空気を察したのだろうか。

 四分一さんが、励ますように僕に声をかけた。そして、女の人から褒められたのが嬉しかったのだろう。陽介くんは頭を掻いて照れていた。

 小学生のくせに、どういう女性が素敵な女性なのであるかということも知っているようだ。さすが、社長の息子である。そのあたりも僕は嫉妬した。


「次のドローンレースの日本大会で優勝したら、世界大会に出れるんです。世界大会はドバイで行われるんで頑張ります!」


 そう言い残して、陽介くんは見たいテレビアニメ番組があるらしく家に帰っていった。


 世界大会、ドバイ。

 陽介くんから放たれる言葉が、最後まで年齢と見た目から合わなかった。

 本当にすごい、というしかなかった。本当は見た目が子供なだけで、中身は大人なのかもしれないと疑うしかなかった。


「で、お前らはこれからファミレスにでも寄ってケーキでも食べて帰るつもりかい?お熱いね」


 坂下先生は陽介くんが帰った瞬間に僕らをいじり始めた。


「普通に帰りますから。なんですかその昭和ないじり方は」


「昭和をバカにするんじゃない」


「それにファミレスなんてこの辺りにないじゃないですか。最近の高校生のデートって、おしゃれなカフェとか行くんですよ。ラテアートが描かれたカフェラテとか飲めるお店とかですよ。やっぱり昭和ですよ先生」


 四分一さんは、僕に合わせて坂下先生をいじった。さすがに四分一さんにいじられたのがショックだったのか、先生は「へいへい、昭和ですいませんでした」と言って少し落ち込んだ。


「冗談はこのあたりにしておこう。うん。確か今日は今度の夏祭りの企画を考えるために学校に残ってたんだよな。そういう風に相沢くんから聞いてるよ」


「そうですよ。ちゃんとアイデアもまとまったので明日先輩たちに話す予定です」


「一応、俺顧問なんだけど教えてくれたりする感じ?」


「名ばかり顧問じゃないですかー」


 四分一さんは引き続き鋭いツッコミを入れた。僕からしても四分一さんのツッコミは、坂下先生の芯を深くえぐるような鋭利さを感じた。


「まぁ、最終的に決まった段階でいいけどね。一応最終的に承認をするのは俺の役目だし。名ばかり顧問と侮るなよ。役職というのはこういうところで生きてくるのだ。ははは」


 先生は、高笑いをした。

 

「じゃ、お疲れ様でしたー」


 先生の高笑いを最後まで聞くことなく、僕と四分一さんは颯爽と帰っていった。

 先生は、虚しかったのだろう。誰もいない暗いグラウンドで、暫く一人で笑っていた。

 

 なおグランドを無許可で使用した上に、謎のラジコンヘリを飛ばしていたということで校長先生からこっぴどく怒られたことを後日、人づてに僕は聞いた。 

 

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