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夕暮れはアイデアと共に②

 四分一さんが出してきたアイデアはなかなか良いものであると思った。

 高校生らしいアイデアだし、ペットボトルで飲むよりも楽しい気分にさせてくれる。


「なかなかいいと思う」


「でしょ〜」


 四分一さんは嬉しそうに、目の前ではしゃいだ。


「でも、酒屋さんとかがそういうのやらないかな?」


 四分一さんは喜んだ次の瞬間には、次の問題ごとを考え始めていた。

 なかなか感情表現が豊かなお人である。


「やるとは思うけど、ペットボトルで販売とかじゃないかな。それに、飲料販売の出店なら何店舗かあってもいいと思うんだよね」


「確かに」


 四分一さんは、納得して頷いた。


 その後も僕らは出店のコンセプトを詰めていった。

 ロゴデザインはどうするのか、容器はどこで買うのか。そもそも何の飲料を販売するのか。

 僕が持ってきていたノートに、一つ一つアイデアを書き記していった。



「それにしても、三日月くんは真面目だよね」


「真面目だけが取り柄だからね」


「モテないでしょ」


「いや、それと真面目って関係なくない? むしろ、真面目な方が僕はモテると思ってるけど」


「わかってないなぁ。女心。女の子ってちょっと悪いそうなくらいが好きなのよ」


「そうなの?」


「そうそう。それに、悪そうな感じの男の子が自分と関わりを持つことによってどんどん優しくなっていったり、自分だけに優しくしてくれたり、意外な一面を見せてくれたり。そういう姿に女の子はキュンとするんだよ」


 四分一さんは、僕の前で熱弁をしてくれた。

 たしかにそういう点からいくと、僕はまったく該当しない。


「でも、それってちょっとわがまますぎない? なんというか、自分の趣味嗜好に変化していくのを期待しているというか」


「あら、そんな風に感じるんだ三日月くん」


 四分一さんは、目を細めて僕に疑いの眼差しを向けた。


「い、いや違う違う。うまい言葉が見つからなくて......なんというか、なんというかだよ」


「まぁ、人間誰だってわがままじゃない? 誰かのためとか言ったって、めぐりめぐって自分に返ってくるようなことしかしない人もいるくらいだしさ。いいのよ、わがままで」


 四分一さんは伸びを軽くして、一息ついた。


「さぁて、そろそろ帰ろうよ。もう気がつけば日が暮れそうだし」


 話に夢中で気がつかなかったが、部室内も暗くなっていた。

 僕らは荷物をまとめて、帰り支度をすることにした。

 


 部室から出るとき、僕らは暗い廊下に驚いた。


「お、お化けとかでないかな」


 四分一さんは、怖そうに僕に訴えかけた。


「出ないでしょ」


「本当かなぁ」


 その後、なぜか僕が先頭を歩きその背後を四分一さんがゆっくりと歩く陣形をとった。

 学校の廊下でこんな隊列を組んで歩いているのは、世界の現在時刻においては僕らだけであろう。

 学校の中に棲まうモンスターを僕らは倒しにいくのだ。武器は、ペン。防具は、分厚い教科書が入った学生鞄である。


 ゆっくりゆっくりと、下駄箱に向かって進んでいると大きなガラスのようなものが割れる音がした。


「わぁ!」


 僕は思わず大きな声を出した。


「ちょっと、大きな声出さないでよ!」


 まさかの僕の方が大きな声を出してしまった。

 暗闇の中ではあったものの、背中には四分一さんから無言の圧力を感じた。


 ガラスのようなものが割れる音がした付近を通り過ぎると、その場所は理科の実験教室だった。

 教室内に明かりも付いており、教室の中から「ああ、大変大変」やら「ごめんなさい、ごめんなさい」と慌ただしい内容が聞こえてきていた。

 どうやら、お化けの仕業ではなく人間の仕業だったようだ。


 僕は安心してそっと胸をなでおろした。

  

「三日月くん、三日月くんてば」


 僕のシャツの背中を、つんつんと四分一さんが引っ張った。


「な、なに」


 僕は振り返ると、四分一さんは校舎外のグランドを指差した。


「何か、光ってるものが動いてない?」


 四分一さんは窓ガラスに近づき、グランドを見下ろした。

 僕も合わせるように校舎の外を覗くと、確かにグランドを光る何かが高速で動いている。

 何が動いているのかはわからないが、緑色に光る物体が上下左右自由自在に動いているのだ。


「もしかして.....幽霊?」


「いやいや。そんなことはないと思うけど......」


「い、行ってみようよ」


 四分一さんは、言った。


「ええ?!」


 いつの間にか立場が逆転している。

 最初はあんなに怖がっていたのに、気がつけば四分一さんはこの状況を楽しんでいるようにも見えた。

 学校が気がつけば遊園地のアトラクションのような作りになっている。

 なんだか二人で遊園地に遊びにきたような気分である。ここに甘いお菓子とジュースがあれば、もうそこは夢の国のような気がしてきた。


「早く! ほらいくよ!」


 四分一さんは、先陣を切って階段の方へと歩いていた。

 僕はその姿に気がついて、急いで彼女の後を追った。

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