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試験終了の瞬間は頭が真っ白になる

 試験は何事もなく終わった。

 試験中の教室は、回答用紙の上でペンがスラスラと動く音と、電卓の音がずっと鳴り響いた。


 試験の中盤で雨足が強くなって、雷のような音も時折聞こえていたが、僕は平常心を保って試験に集中した。


 解答用紙の回収も終わり、解散となった。

 試験終わりに教室の近くで相沢先輩を探したが、見当たらなかった。

 どうして試験会場で問題用紙を配っているのか聞きたかったのだけれど。


 いつもの学校が試験会場になっている。

 やはり終わってみても、この事実は僕にとっては新鮮だった。

 商業高校にいれば、簿記の試験に関してはホームで受け続けられるのだろう。いつか、自分が受けた時に自分の席で受けるというミラクルが起きないだろうかと僕は期待した。


 学校から帰ろうと昇降口で上履きからローファーに履き替えていると、後ろから声をかけられた。


「試験どうだった」


 聞き覚えのある、男の人の声。


「あ、坂下さん」


「ここでは、先生と呼びなさい」


「二人きりだったので、つい」



 外は雨こそは降っていないものの、曇り空が広がっていた。

 水たまりも、あちこちにできていて、外に止めてあった自転車はびしょびしょに濡れていた。


 坂下先生と僕は、昇降口で立ち話もなんであるということで、学校の食堂に移動して話をすることにした。(結局僕は、上履きに履き直した)


「試験、難しかったろ」


 先生はニヤニヤしながら、僕を見ていた。

 正直に言うと難しかった。実際に問題集で解いていた通りに問題は出ないし、過去問のような問題もいくつかはあるものの新しいものがたくさんある。単純に問題集だけを解いているだけでは、試験は合格できないのだろうと感じた。


「まぁ、難しかったですね。こういう検定試験って初めて受けるんで」


「だろうな」


「先生は、試験を受ける時は緊張しなかったんですか」


「いや、緊張しまくりだったよ。初めのうちは特にね。さすがに3級とかではならなかったけど、1級の時は頭痛くなったし、吐き気があった時もあったな」


 さらりと僕が受験していない級の感想を先生は話をしてくれたが、そんなに厳しいのかと僕は驚いた。


「でも何回も受ければ慣れてくるし、何より勉強してきたことが実際に試験問題に出てきたり、今までの勉強してきた基礎的な内容で、応用問題を試験中に解けた時は嬉しかったな」


「そう言うことで喜べるなんて、先生も人なんですね」


「何を、失礼な。こんな好青年、日本を探してもどこにもいないと思うくらいの人間だと思うぞ」


「自分で言います?それ」


 僕が冗談で先生をいじっていると、「ちょっと待ってて」と言って席を外した。

 

 少しいじりすぎたかなと思ったが、先生はすぐに戻ってきた。

 両手には缶ジュースを持っていた。


 先生は、合格祝いだと言って片方の缶ジュースをくれた。炭酸飲料のようだ。

 普段あまり炭酸飲料は飲まないが、ありがたく頂戴した。

 プルトップをひねって、缶ジュースを開けるとシュワっと気持ちの良い炭酸が弾ける音がした。


「って、合格は早いですよ」

 

 缶ジュースを開けてから僕は気がついた。


「大丈夫、受かるから」


 先生は笑いながら缶ジュースを飲み始めた。僕も早い前祝いだと思いつつも、缶ジュースから出る炭酸が弾ける音に我慢ができず、中身を喉に流し込んだ。


「そういえば、相沢先輩が試験会場で問題配ってたんですけど、なんでいたんですか。ボランティアですか」


「居たんだ。結構な港口の高校生は人数いたはずだから運が良かったね」


「そういう問題じゃないと思うんですけど」


「運も実力のうち、ってね」


「いや、だから......」


 相沢先輩がなぜ試験会場にいたのか。「あれは、ボランティアじゃなくてアルバイト。かなり楽な割に結構時給がいいんだよね」と先生は説明をしてくれた。あまりの時給のよさに、生徒からは毎日簿記試験があればいいのにと言われるくらいらしい。

 ただアルバイトできるのは3年からで、簿記検定も2級以上受かっている人じゃないとバイトはできないというのが暗黙のルールで決まっているらしい。

 特に学校の掲示板に掲示されるというわけではなく、先生側から生徒にやってみない? と声をかけているそうだ。


「相沢くんは僕が誘ったんだよ。君も、2級受かったらアルバイトを紹介してあげよう」


 アルバイトがやりたいがために簿記2級まで頑張るというのもいささかおかしな話ではあるが、これも一つの経験になるのかもしれない。また一つ、検定試験を頑張ろうという気になった。


「あ、そうそう。検定試験が終わったら次は夏祭りの企画を考えるんだよね。川上さんがすごく張り切ってたなぁ」


「そう言われてますね。夏祭りって何をするんですか?もしかして、屋台を出店してお金稼ぎですか?」


「さすがに、屋台を出してお金を稼いでいたら教育上保護者の方からなんか言われそうだから、ここはボランティアかな」


 さっきまで、アルバイトの話してたのに......と僕は悔しがった。


 いずれにしても、僕の試験はここで一旦終了した。

 あとは1ヶ月の合格発表を待ちつつ、通常の高校生活を送るのみである。

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