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中学生の春④

 僕は図書館に居た。

 

 今朝、見知らぬ成人男性に声をかけられた。話している内容のほとんどは理解できなかったが、大人の人と話すことのない機会がほとんどないから新鮮だった。


 そんな機会に触発されたのか、図書館で高校ガイドを読んでいた。

 高校ガイドには近隣の高校の案内が載っている。これだけネットが発達しているご時世でも、この本から得られる情報はとてもしっかりしていると思う。それに、何より誰かの偏った情報ではないというところが良いところ。


 ペラペラと、ページをめくって僕が行けそうな高校を探した。

 図書館は何人か人はいるものの、皆黙々と本を読んだり、勉強をしていた。不思議と誰も話していなかった。


「あれ、ミッカじゃん」


 僕は、声がする方向に振り向いた。そこには、よく見る友達の姿があった。


「あ、コウちゃん」


 コウちゃん。彼は僕の小学校からの幼馴染であり、仲が良い友達である。

 彼はいつも前向きで元気、クラスでも自然と中心にいるような人である。本来、某は教室の隅っこにいるような人間のはずなのだが、コウちゃんのおかげで時々クラスの中心にいるような人になっていた。


「ミッカは、なにしてんだよ。高校ガイド?ああ、進路表出してないんだっけ」


「出してないよ」


 僕たちが話していると、周りで本を読んでいる人たちが冷たい視線を送っているのを感じた。

 コウちゃんが小さな声で「外で話そうぜ」と僕に言い、僕らは図書館を出て廊下で喋り始めた。


 中学校の廊下は不思議なもので、高校生になるのが近い人と小学校から上がってきたばかりの人が混在している。もちろん、大人の人たちから見たら僕らなんて子供にしか見えないと思う。でも、僕からしたら中1の時は、中3はやけに大人に見えたし、中3になると、中1の子は子供っぽく見えた。

 3年間という短い期間は人が成長する速度の速さを実感できる。中学生はそういう3年間なのだと僕は思っている。


 廊下を走る男子生徒が横を通りすぎた時、コウちゃんは自分の進路について話始めた。


「実を言うとさ、俺そろそろ進路表に書くべき進路が決まってきたような気がするんだよね」


 その言葉に、僕は少し動揺した。コウちゃんは決まったのだと。


「へぇ。どこにしようと思ってるの?コウちゃん、頭いいから進学校いけそうだよね」


「そんなことないよ。俺より頭いい人なんてたくさんいるし。それにそんなに進学って興味ないんだよね」


「興味がない?なんで?いい高校入って、ゆくゆくはいい大学に入りたいんじゃないの?そういうもんじゃないの?」


「いや、俺は...」


 それから、コウちゃんは自分の将来について少しだけ語ってくれた。


「思うんだ。このまま大学に行って、良い会社に入って。結婚して子供を作って、老後まで会社に勤めて、そして死ぬ。十何才そこらの俺でも思いつくほどの典型的な人生。もちろん、今のご時世会社に老後まで務めるのは難しいってことはわかってるよ。むしろそれができる人はすごいと思う。でもさ、それでいいのかなって。そんな人生で俺の人生はいいのかなって」


「ちょっと、中2病だね。中3だけど」


 僕は、ボケた。コウちゃんは僕の肩を叩いて突っ込んだ。


「まぁ、少し子供っぽいのはわかってるよ。でもさ、若いのに人生のゴールは見えちゃいけないと思うんだ。もっともっと、誰も想像したことのない人生を若いからこそ想像しないといけないんじゃないかって。それが生きる目標にもなるかなって」


「どうしたの。哲学的じゃん。なにか変なドラマとかアニメでも見たの。教えてよ」


 僕はとりあえずふざけた。真面目な話は苦手だった。


「見てないって。そして茶化すなよ。でもさ、そう思わない?誰かが考えたゴールに向かって俺は生きたくない。だから、自分が考えたゴールに向かって進路を決めたいと思うんだ。変かな?」


 コウちゃんは、笑った。僕にはコウちゃんの本気度がとても良く伝わってきた。

 確かにそうだ。僕らは、どこかの誰かが体験してきたレールの上に今はいる。

 義務教育なんて、日本に生まれてきたらみんな受けているはずだ。このままいくと、過去の誰かが設定したゴールに向かって生きて死んでいくだけだ。僕は、僕らしく生きたい。そして、それを選ぶ最初の機会がこの高校選びなのかもしれないないのだ。


「コウちゃんは、本当によく物事を考えている。すごいと思うよ。僕なんか全然何も考えてない。明日何しようって考えることくらいしかしてないや」


「そんなことねぇよ。でもさ、ミッカもあるんだろ。夢が」


 僕は少し口が詰まった。

 夢。そんな大それたものはない。さっき言った通り、明日何をしようってことくらいしか考えてないのが真実だった。


 僕が喋ろうとした時、目の前で女子生徒のスカートが、ひらっとめくれてふとももがあらわになったのを見てしまった。なんとなくその女子生徒が、睨みつけたような気がした。僕はそれに驚いてしまった。

 そして、何を話そうとしていたのか忘れてしまった...


「でも、コウちゃんに話せるほどの夢はないかな。今はどの高校にいこうかで精一杯だよ」


「ま、確かにな」

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