2級と3級に使える、直前2週間前の必勝法
簿記検定試験が近づいているのは意識はしていたし、ここ最近は本当によく勉強していた。
学校の授業だけでは、6月の3級試験の範囲は終わらない。
そのため、自主的に本屋で参考書と問題集を買った。直前予想問題も売っていて、合わせてそれも買った。
僕はいつも勉強をするようなタイプではなかったので、お母さんにお小遣いが欲しいと頼んだら驚かれてしまった。
流石にこのタイミングで、坂下先生が現れたということはきっと簿記検定に関係することを何か言ってくれるのだろうと僕は期待した。
「みんなお揃いだし、たまには顧問っぽいこともしてみようかな」
坂下先生は、立ち上がってホワイトボード前に立った。まるで、僕の期待を察したかのような動きだった。
さすが、僕をこの高校に引き連れてきただけある。
そしてマジックを手に取り、ホワイトボードに文字を書き始めた。
マジックがホワイトボードの上を滑るたびに、きゅっきゅと音が鳴った。
「まぁ、今回はこんなところで。1年生の3人はこれを意識してみようか」
僕はホワイトボードを眺めた。
・先輩の言うことはよく聞くこと
・率先して雑用業務は行うこと
・みんな仲良く
「先生」
僕は思わず声が出た。
「おお。そんなに私の書いた内容に感動したか」
「これのどこが顧問らしいことなんですか」
「部活動の輪を乱さないような発言をしたまでよ。特に最近は、結構上下関係とかガミガミ言いづらい雰囲気でしょ?ご時世的に。でもね、俺は大事だと思ってるんだよ。組織にはポジションというものが必要だからな」
「そういう難しいことが今聞きたいわけじゃないですよ。簿記検定の話をしてくれると思ってました」
僕の発言に、四分一さんもうなづいてくれていた。五島さんは相変わらず一人で本を読んでいるだけであった。
「いや、僕から検定試験がどうとかっていうのは特に言うつもりは......」
「ないんですか」
「ないねぇ」
僕は、思わず深くため息をついた。
「ないと思ったけど、境くんの深いため息を見たら流石に何らかのアドバイスをあげたい気持ちが込み上げてきたなぁ」
坂下先生の言葉を聞いた四分一さんは、謎の拍手をしていた。
しかし、なんとなくだだをこねた子供のような立場になってしまった。僕はこの場から立ち去りたいと思ったが、相沢先輩がその空気を破ってくれた。
「そうですよ、先生。彼らは将来有望なプレゼン部の部員です。僕だって先生の指導があったらか簿記1級を合格できたんです。少しぐらいアドバイスしてあげてください。そうしたら、今日の今日まで部活に顔出ししなかったことを、川上は許してくれると思いますよ」
「って、急に何で私が出てくるのよ」
お茶をゆっくり飲みながら状況を遠目から見ていた川上先輩は、急な振りに動揺して喉にお茶を詰まらせてむせた。
坂下先生が、髪の毛を触りながら「やれやれ」とつぶやいた。
そして再びホワイトボードに戻り、今度は1年生3人に対して簿記試験合格必勝のアドバイスを送った。
「真面目な先輩を持ったねぇ、君たちは。ということで、直前の2週間でできる合格率を飛躍的に上げる必勝テクニックを授けるとしよう」
先生は、ホワイトボードに文字をスラスラと書いた。
(これは2級でも3級でも通用するテクニック)
・過去5回分程度の仕訳問題を集めたオリジナルの暗記ペーパーを作る。
・とにかくT勘定を書く癖をつける
「まず、1点目。オリジナルの暗記ペーパーを作ること。簿記検定試験の試験には仕訳作成問題が必ず出る。そしてここは確実に得点源になる。しかも過去に出た問題に似た内容の仕訳が例年出ているから、過去5回分くらいの仕訳問題と答えを集めたものを作るんだ。そうすれば合格の可能性はうんと高まる。英語の単語を覚えるような形で、気づいた時にいつでも見れるようなツールになれば理想的。たった5分のチラ見だったとしても、隙間時間でチラチラと見ておけば自然と仕訳を体で覚えられるはずだ」
作り方はなんでもいいらしい。
折りたためるように、紙に貼り付けて作るパターンも考えられるし、A5サイズくらいノートに貼って、ポケットから取り出してみれるようにするのもいいらしい。
「次に、2点目。T勘定を書く癖をつける。これは、試験を頭の中で解こうとしようとしないということだ。簿記検定には計算用紙が配布される。これは有効活用すべき。そして、活用の仕方としては問題を視覚的に解くことが重要だ。仕訳をつらつらと書くよりも、T勘定を書いて視覚的に問題を解くんだ。この視覚的に問題を解くことに慣れるのが、試験を攻略する上では非常に重要」
先生曰く、自分なりに解答するための形を身につけておくといいらしい。
精算表であれば、各仕訳の集計方法はどうするか。仕訳問題は、どうやってとくか。伝票問題が出てきたらどこから手をつけるか。試験に挑む前に自分なりにイメージトレーニングをして、解き方を覚えるのが大事なようだ。
そして坂下先生は疲れたようで、部室である教室の入り口の方へとふらふらと歩いていった。
「もう疲れたから今日は帰るわ。みんなあとは頑張ってね......」
先生は力のない言葉を残して、そのまま去っていった。
僕は、先生がホワイトボードに書き残していったメモ書きをスマートフォンで撮影し保存した。
五島さんの方を見ると、彼女は空中で手を動かして何かを書くようなそぶりをしながらホワイトボードを見つめていた。
「先生からありがたい必勝法もいただけたことだし、みんな合格間違いなしだな」
相沢先輩は、パイプ椅子に深く座り、両手を頭の後ろにやって天井を見つめた。
「そうね。これで合格してもらって、夏祭りへの準備に移りたいところね」
こうして、僕らは坂下先生から必勝法を授かった。
いい加減プレゼン部なのだから、簿記の勉強から離れたいという気持ちも少しはある。
とはいえ、検定試験に合格してみたい気持ちも大きいのだ。
そして、2週間はあっという間に去っていった。




