川沿いの本屋①
川上先輩と四分一さんと雑談をしていたが、しばらくして五島さんが帰ってきた。
五島さんは教室に入っていくるや否や、そのまま席に着いた。
僕は、何か声をかけようかと思ったがとりあえずやめておいた。
川上先輩はホワイトボードの前に戻ったが、授業を再開するまでには一瞬の間があった。
「うーん、なんか今日は終わりにしよっか。気がついたら、もう下校時間だしね」
先輩は、そういって時計に目線をやった。
教室の柱にかけられた時計は、17時を超えていた。
「ということで、この続きはまた今度ね。補助簿とか試験的には大事だから、ちゃんと覚えておいてね」
先輩はホワイトボードに黒いマジックでかかれた文字を、イレイサーでささっと消した。
ホワイトボードが古いのか、それとも黒いマジックの質が悪いのか、ホワイトボードにはうっすらと黒いインクの跡が残った。
「ありがとうございました」
僕らは、先輩にお礼を言った。先輩はお礼を言われるとは思っていなかったらしい。眼鏡をクイッと右手であげて「あらあら」と意味不明な独り言を言っていた。
「相沢先輩はどうするんですか」
「ほっとけばいいわよ。そのうち、起きて自分で帰るでしょ。それに、ここ学校だから最悪一晩寝てても死なないだろうし」
学校で寝て誰にも発見されなかったら、さすがに生死には影響しそうであると思った。
ただ、雨風がしのげるという点では間違ってはいないか。季節的にも風邪を引くような季節でもない。
「じゃあ、私は先に帰るから各自解散で。それじゃまた明日〜」
先輩はカバンを持って教室を出て行った。
僕らも帰り支度を整え、相沢先輩を残して教室を出た。
教室のドアを閉めようとした時、相沢先輩は「世界に衝撃を与えるんだぁあああ……」と小さな声で寝言を言っていた。
昇降口の下駄箱の前で五島さんが僕に話しかけてきた。
「今日はもう帰るの? 」
珍しい言葉を彼女が発した。なんとなく、生まれたばかりの子羊が力強く自分の力で立ち上がる姿をこの目で見たような嬉しさを感じた。
「まぁ、そうだけど」
「ちょっとだけ付き合って」
「え? 」
五島さんは相変わらず僕を無言で見つめる。四分一さんと一緒に帰ろうと思ったのだが、それ以上に彼女の視線が僕に向けられていた。
「私、先に帰るから大丈夫だよ。それじゃ、また明日ね」
四分一さんは気を効かせて、先に靴を履いてそのまま校門の方に向かって歩いて行ってしまった。
結局ぼくの前には、無言で立っている五島さんだけが残った。
僕は頭を掻きながら、これはどうあがいても逃れれらないなと思った。
「しょうがないな。いいよ。それで、何をすんの。ランニングでもするのかい」
「しないわよ。バカじゃないの」
「へいへい」
僕は、校門を出て五島さんについて行った。
特に何をするという事を教えてはくれなかった。しかし、教えてくれなかったというのは正確ではない。
僕自身が、特に彼女に何をするのか聞かなかったからだけである。
終始僕らは無言で歩き続けた。
四分一さんと二人で歩いてる時は、自然と会話が弾んでいたのに五島さんと歩いている時はそうはならないようだ。会話がなくても間が持つというのは、それはそれで仲がいいということかもしれない。
「ここよ」
学校裏の川沿いを歩いていたが、そんなに距離を歩いた気はしなかった。
僕らの前には、本屋さんが現れた。しかし、よくある商店街などにある書店ではなさそうだ。
コンクリート打ちっ放しの壁に、黄色い木材家具が置いてた。
黄色い木材各具の本棚には、雑誌も置いてあるがファッション誌のような本ではなく、建築やインテリア、旅行系の雑誌が多いように思えた。外国語の本や絵本、アートブックのようなものも置いてある。それに、ちょっとしたカフェも併設してあるようだ。
「いらっしゃい」
僕らがお店に入って、しばらくしてお店の奥からお店の人が現れて挨拶をしてくれた。
「あ、みどりちゃんじゃない。こんばんわ」
肩まで伸びた黒い髪の毛に、白いブラウスとクリーム色のチノパンを履いた30代くらいの女性はどうやら五島さんの知り合いのようだ。
「こんばんわ」
五島さんは返事をした。
どうやら、彼女は自分の空間であればそれなりに言葉を発するようだ。人見知りなのかもしれない。
「あら。みどりちゃんがお友達を連れてくるなんて珍しいわね。しかも男の子だなんて」
店員の女性は、ニヤニヤしながら僕をジロジロと見た。僕は「そ、そんなんじゃないですよ。ただのクラスメイトです」と、慌てて返事をした。
「その言い方、含みのあるような言い方で嫌い」
五島さんは本を見ながら、さらっと僕の発言を否定したのであった。
「いいわねぇ。若いって。とりあえず、ゆっくりしていってね。みどりちゃんは本を選んだあとお店で本を読むのが習慣だから付き合ってあげてね」
店員の女性はそう言って、そのまま店の奥に戻っていった。
暫く五島さんは自分の世界に入ってしまった。
僕の存在など忘れているかのように自分の趣味にあう本を熱心に探しているようだった。
五島さんは手に取ってみては本棚に戻しを繰り返した。
そのまま突っ立っているのも疲れるだけだと思い、僕はお店の端っこにあったスツールを持ってきて腰掛けた。
「やっぱり、暇そうね」
僕の横に、席ほどの店員さんが僕のとこに立っていた。
「ああ、さっきの」
「さつきよ。さつきちゃんでいいわ」
「いや、あのぉ......」
五島さんが贔屓にしているお店だけある。
店員さんもまた、インパクトが強いようだ。




