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川上先輩の優しい簿記の復習時間②

 川上先輩の綺麗な字で描かれたホワイトボードの図表を僕は今一度眺めた。

 

 授業では、勘定科目の売掛金とか買掛金の意味に目が行きがちであった。

 基礎という意味では、仕訳の構成要素や仕訳と仕訳日記帳の関係は大切だ。そして、仕訳日記帳は単なる仕訳の集合体だから、それを加工して試算表作成して仕訳の正確性や網羅性を検証する。

 僕は自分の中での仕訳に対する理解の深まりを噛み締めた。


「そうそう説明し忘れていたけど、仕訳は特定の期限が設けられているの。日次、月次、四半期、年次。最大でも1年区切りで切っていくの。その期間に応じて、試算表もできるイメージを持ってくれると良いかも」


 確かに仕訳を起票する期限を設けないと永遠と起票されていくし、2、3日の仕訳をまとめて記載したり起票されるなど自由に記載していたら、そもそも正確性にも問題がある。一本の仕訳が10年分の内容であるならば、見辛くてかなわない。


「今回は、具体的な勘定科目を用いての仕訳起票の説明はしないわ。売掛金とか買掛金とか。勘定科目の意味は、授業で配ってるプリントにしっかり載ってるし、インターネットで調べれば出るからね」


「でも、売掛金と買掛金の内容は僕には意味がよくわからなかったです。見慣れない漢字だし、先生が説明をしてくれたもののイマイチしっくりこなかったんですよね」


 僕は、川上先輩に質問をした。

 川上先輩が僕の問いに答えてくれようとした時、ノートとにらめっこをしていた相沢先輩が横から口を挟んできた。


「良い質問だよ、境くん。悪い質問じゃない。実際、売掛金とか買掛金なんて目にしないで一生を終える人もいるだろう。だから君のその疑問は正しい」


 良い質問で止めてくれてもいいのに、先輩は過大に僕の質問を褒めてくれた。僕は顔を赤くして照れた。


「売掛金も買掛金も、掛取引という企業の経済活動に基づいて起票される仕訳なんだ。例えば、コンビニが販売するポテトチップスを仕入れたとしよう。1箱12個入りのポテトチップスを3箱。これを発注するたびに、コンビニは仕入業者にお金を払っていると思うかい?」


「感覚でしか答えられないですけど、流石にないと思います」


「良い感覚で結構。正解は、払ってない。仕入業者からポテトチップスを仕入れる機会は、多いはずだからね。売上の良いコンビニなら、毎日仕入れているんじゃないかな。僕も好きだし」


 先輩のポテチの感想なんて聞いてないですよ、と僕が言おうと思ったら、隣にいた五島さんが先輩に対して言っていた。先輩は、五島さんに対してそのままポテトチップスの何が良いかについて語ろうとしていたが、川上先輩が睨みを利かせて掛取引の説明に戻らせた。


「こんな感じで、毎日行われる取引にいちいち現金の支払いを間に含めるとどうなると思う? 手間がかかってしかたないと思わない? 1ヶ月の間で10万円分の取引があったとして、1万円の支払いのやり取りを10回やるよりも、1回で済ませた方が取りっぱぐれもないだろうし楽だと思わないかい?」


「でも、払わない人とかいるんじゃないですか。ポテトチップスだけ仕入れるだけ仕入れて。お金を支払わないで夜逃げする人とかいそうじゃないですか」


 四分一さんが、疑問を投げかけた。どことなく、相沢先輩を疑いの眼差しで見ているような気がした。相沢先輩はその眼差しを察したのか「いや、俺はちゃんと支払うからね。ポテチ代」と言った。


「世の中は信用で成り立ってる。信用できる人としか掛取引はしないんだよ。世の中ってうまくできてるよね」


 誰もが掛取引をできるわけではない。


 ちゃんと支払ってくれる人と、理解している相手としか行わないのだ。


 先輩は、ドラマでよくある「お勘定つけといて」と、なじみのバーに現れる常連客シーンを例に出した。


 まさに、その行動が掛取引なのだ。

 バーのマスターと、常連客には信頼関係があるからこそ、代金の支払いは後回しになっているのだ。

 

(バーのマスターが、常連客から代金を回収しているドラマは見たことないけどね、と相沢先輩は言った)


「初めて取引する会社は、掛取引じゃなくて、現金払いのケースだってもちろんある。数回の取引を経てから、まとめての支払いでいいですよって言われることだってある。要は信用なんだ。君達も、自分の評判とか少しは気にするんだぞ。自分に都合のいいことばっかりしてちゃダメだ。人からもらってばかりじゃなくて、時には人に対して何かを与えないと信用というものは増えていかないからね。企業の取引に限らず、人生においても」


「先輩、詳しいですね。すごいなぁ......」


「全部、他人からの受け売りだけどね」


「ねぇ、相沢。そろそろ私に時間を返してもらえるかしら。そろそろ補助簿とかの説明をしたいんだけど」


 喋りすぎた相沢先輩に対して、睨みを利かせた。先輩の目は「ちょっとだけ喋るんじゃなかったのかしら」と語っていた。その視線を感じた相沢先輩は「川上先生に、マイクをお戻しします」とポツリと言って、そのままノートに視線を戻した。

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