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神の一手と新入部員

 次の日、僕と四分一さんは放課後に待ち合わせて部室に一緒に向かった。

 本当は五島さんが居たら一緒に行こうと思ったのだが、四分一さんを待っている間にどこかに消えてしまっていた。先に部室にいったのだろう。


 学校を一緒に四分一さんと歩いている。

 放課後に一緒に歩いているときもだいぶ緊張したが、校舎内となるとさらに緊張してしまい、動きがロボットのようになってしまった。


 油のさし具合が足りないロボットの如く歩いたものの、なんとか部室の前に着いた。

 僕は扉をあけて、四分一さんと一緒に部室に入った。


「はぁいやあああああ。これが神の一手だぇああああ」


 大きな声が聞こえてきた。相沢先輩である。

 相沢先輩は大きな声で、将棋盤の盤上の駒を前に進めたようだった。

 大きく天井に向かって駒を掲げ、盤上めがけて駒を勢いよく置き、部室の中に気持ちの良い音が響いた。


 そして、無言で相沢先輩の目の前に座るのは五島さんだった。


 五島さんは、ノータイムで駒を動かした。

 相沢先輩と異なって動きは少ない。ただ、駒を取って、盤上に置き直す。無駄がない動作。

 あまりに対照的な二人が、僕らの目の前で将棋を取っていた。


 しばらく僕らは、入り口の前で立っていた。


 相沢先輩が奇声をあげながら、駒を動かす。

 無駄のない動作で、ノータイムで五島さんは駒を動かす。

 駒を動かす、駒を動かす。


「まーけーましたぁああああああ」


 相沢先輩が大声を出して敗北宣言をした。

 五島さんは、髪の毛を耳にかけた。そして、一瞬口角が上がり、勝利をかみしめたように見えた。


「あれ、境くん」


 気がつかなかったのだが、入り口近くに川上先輩が座っていた。

 椅子に座って、本を読んでいたようだ。ずっと下を向いていたせいかスクエアの黒縁メガネがずれていた。


 川上先輩は、メガネをクイッとあげて立ち上がった。


「終わったようね」


 川上先輩に彼らが何をしていたのか僕は尋ねた。

 相沢先輩の趣味が将棋らしく、その趣味に五島さんは付き合わされていたようだ。

 いつもは、川上先輩が付き合っていたようだが全く勝てなかったらしい。

 そんな強者に五島さんはあっさり初戦で勝ったようである。

 相沢さんが「君のあの穴熊はどうしてあんなにも鉄壁なんだ!」と、謎の言葉を投げかけていた。

 五島さんは「私の熊さんは最強なのよ」と、これまた意味のわからない返事をしていた。


「むむむ」


 どうやら、僕らの存在に相沢先輩が気付いたようである。


「境くん! 君の隣にいる美人さんは一体誰だ。君の愛人か」


「愛人て......僕、結婚すらしてないですよ」


「じゃあ......妹か!」


「どうしてそうなるんですか......妹だったら、高校にいるわけないじゃないですか。僕1年ですよ。新しい部員です。部員」


「部員!」


 相沢先輩は、ようやく状況を理解する気になったようだった。

 先輩は座っていた椅子から立ち上がり、駆け足で僕らの方に向かってきた。


「これはこれはありがたい。あと、一人足りなかったんだよ。部員が!」


 先輩の興奮状態は収まるどころか、より一層ヒートアップしているように見受けられた。



 そこから先輩は、一方的に四分一さんに対してプレゼン部の良さや活動内容を説明し始めた。

 僕らは入り口付近から早く離れて椅子に座りたかったのだが、いまだに入り口の前に立っていた。

 なんだか、罰ゲームで廊下の付近に立たせられているような気分になった。

 

 五島さんの方に目をやると、彼女はせっせと将棋のコマと将棋盤を片付けていた。あの将棋セットもこの倉庫のような部室のどこかに転がっていたのだろうか。


「とりあえずさぁ、座らせてあげれば」


 川上先輩は、僕らの状況を気遣ってくれた。相沢先輩は「たしかに」と返事をした。


 僕らは、ようやく部室の奥にある椅子に座らせてもらった。


「相沢先輩、川上先輩。彼女の名前は、四分一さん。四分一なつみさんです」


「ほう。珍しい名前だね。覚えやすくて助かるよ」


 相沢先輩は、顎に手を当てながら四分一さんを見た。


「よろしくね」


「しかしだ、境くん。どうしてこんなに君は女子からの人気が熱いのだ。五島さんだって君のクラスメイトだろ? なんだなんだ。モテ期か。うらやましいな、後輩」


「そ、そんなんじゃないですから」


「漫画の主人公じゃあるまいし、そんなに女の子からモテるなんて非現実的だ。俺が根性叩き直さないといけないな。世界に衝撃を与える前に、君に衝撃を与えなければならない」


「はい、はい。そこまでーそこまでー」


 川上先輩が間に入って、止めに入ってくれた。

 相沢先輩の目が本気だったから、きっと僕はなんらかの衝撃を体で受け止めていたと思われる。

 

「部員も集まったことだから、これでプレゼン部も継続できるわね。そろそろ何か活動目標でも決めない?」


「川上の言う通りだな。存続も決まったようなもんだ。顧問の先生もこないだ見つかったしな」


「夏祭り行事の参加はもう少しあとだし......」


「とりあえず、部員のスキルアップは必須だろ。簿記の3級ぐらい取ってもらわないと、会計的な話ができないだろ」


「それもそうね。じゃあ、スキルアップを中心として夏祭り行事への参加の準備ってことでいいかしらね?」


「あとはビジネスコンテストの準備!」


 僕らは、置いてけぼりで話はどんどん進んでいった。あまりの勢いに四分一さんは驚いてる様子だった。

 五島さんは、あいかわらずボーッとした表情で座っている。あの姿を見なれてしまっている自分に驚いた。


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