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ラストピース④

 僕が四分一さんに尋ねると、さっきまでの和やかな雰囲気は一瞬で吹き飛んだ。

 

 笑顔であった四分一さんの表情は曇ってしまった。

 さっきまで綺麗に風景を彩っていた夜景の灯りが、一転し、急に暗く感じられた。

 そして、四分一さんは展望台の上にあるベンチにゆっくりと座った。


「なんで、そんなこと聞くの」


 彼女は下を見ながら僕に言った。彼女がどのような表情をしているのわからなかった。

 しかし、その言葉からは悲しみのような怒りのようななんとも言い難い印象を受けた。


「どんな部活にしたのかなって......」


「嘘。そんなの嘘よ。だって、境くんわたしの部活なんて気にしてなんか、いなかったじゃない」


 僕は彼女の言った言葉にどう返して良いかわからなかった。

 確かに僕が急にそんなことを聞いたら、今日学校で何かあったのかと思われても仕方がないと思う。


「もしかして、コイちゃんでしょ。コイちゃんから何か聞いたの?」


「いや......聞いてないよ」


 僕は彼女に対して嘘をついた。

 小井川さんからは、彼女の事情を聞いている。

 彼女が不慮の事故にあったことも、それがきっかけで得意だった陸上が今はできなくなってしまったことも。


 でも彼女の今の姿を見たら、嘘をつくしかなかった。

 本当のことを言ってしまったら、小井川さんとも喧嘩になってしまうかもしれない。

 僕が想像していたよりも、ずっと彼女の傷は深かった。


「僕は、四分一さんが休んだのがとても心配だった。四分一さんに一昨日会った時、表情が暗かった気がしたんだ。それで、今日はずっと気になっていた」


 彼女は、顔を上げて僕の方を見てくれた。

 暗くてよく見えなかったが、彼女の目には涙が溜まっているように見えた。


「だから、部活に誘いたくて。プレゼン部」


「い、意味がわからないから。わたしの休みとプレゼン部の入部になんの関係もないじゃないの」


 彼女は少し笑ってくれた。僕の唐突で、支離滅裂な部活動勧誘が意外で面白かったようだ。

 

「関係あるよ。プレゼン部に入れば元気になるから。変なアフロの先輩と冷静なのか冷静じゃないのかいまいちわからない女子の先輩とか。あと、五島さん」


「五島さん。なかなかクセが強そうね」


「なかなかじゃないよ。かなりクセが強い。でも、悪い人じゃない。面白いよ。観察していると」


「観察って、なんだか小動物みたいね」


 僕は彼女の座っているベンチの横に座った。僕なりに勇気を振り絞った感じである。

 女の子の隣に自然に座れる男子が羨ましい。

 (四分一さんは僕が隣に座ろうとしたのがわかったのか、ベンチの端っこに寄ってくれていた)


「プレゼンに入れば、落ち込んでる暇なんてないと思うんだ。そんな気がしてる」


「根拠はなさそうね」


「ない……ね」


 僕は、小井川さんに聞いたことはしっかり覚えている。

 でもそれを僕が四分一さんに話すのは間違っていると思った。

 それに僕がしゃべったところで、僕が何かできるとは到底思えなかった。

 君のの不幸を知っているんだよ僕は、と彼女に言うようなだけな気がした。それでは性格が悪い人である。

 

 僕にできることがあるとすれば、彼女が辛い時に助けてあげることである。

 そのためには、少しでもそばにいる必要があると思った。

 自分勝手を承知で、彼女をプレゼン部に誘ったのだ。


「わたしね、カフェを開きたいの。将来。あ、これみんなには内緒ね。恥ずかしいから」


 突然、彼女は僕に将来の夢をカミングアウトしはじめた。


「中学生の時、都会のおしゃれなカフェに行ったの。可愛い猫のラテアートを、可愛い女性の店員さんが目の前で作ってくれたの。それと、一緒に自家製のチーズケーキも食べたんだ。そしたら、すごく幸せな気分になって目の前がぱあって明るくなった。初めて、人を幸せにできる仕事ってあるんだなって思ったんだ」


 彼女の意外な一面に僕はドキッとした。

 カフェで体験したことを話す彼女は、少女のような雰囲気を感じた。


「カフェを開きたい! って思ったんだけど、美味しい飲み物とデザートを提供することは練習すればできると思う。でも、それと同時に自分で店舗を運営していく必要もある、そしてそのスキルが必要だった直感で思ったの。そこから自分なりに調べた結果、辿りついたのが商業高校だったんだ。会計や経営、マーケティングとか学ぶ必要があると思ったから」


 少女のような雰囲気から一転し、今度はやり手の美人社長のような雰囲気を彼女から感じた。

 どうやら、彼女はやると決めたらとことんやる性格のようだ。だからこそ、陸上でも好成績を収めることができたのだろう。


「部活動説明会で見た時、実はプレゼン部の説明は自分の夢にあってるなって思ったの。でも.....ね。なかなかハードな発表だったじゃない? だから、ちょっと選びづらくてさ」


 僕は彼女の言葉に、頭を縦に力強くふって同意した。僕の同意の仕方が面白かったようで、彼女は笑ってくれた。


「女子の先輩の川上先輩は、優しくて面白そうだったよ。相沢先輩は発言も過激ではあったけど、簿記1級を持ってるし、優秀そうだね。たぶん、四分一さんも馴染めると思うんだ」


「1級って、あの1級? 高校生だけが受ける検定じゃなくて、大人の人も受けるほうの?」


「そうらしいよ」


「それは、すごいねぇ......」


「じゃあ、決まりだね。四分一さんもこれからプレゼン部員だ。一緒に世界に衝撃を与えよう!」


「完全に毒されてるね。境くん」


 僕は、四分一さんにツッコミを入れられて、恥ずかしくなった。

 夜でよかった。きっと僕の顔は、真っ赤を越して真っ青になっていたに違いない。 

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