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お母さんの晩ごはん②

「へぇ。不思議な部活ね。簿記1級って難しいんでしょ」


「難しいよ」


「それを持っていると言うことは、頭がいい人なのね」


 アフロでもじゃもじゃの、相沢先輩を思い出した。

 世界に衝撃を生むであろう、天才。いや、天才とバカは紙一重というから、もしかしたら単なるバカなのかもしれない。


「まぁ、簿記1級を取ることが目的の部活ではないから。むしろ、簿記は関係ない。各自で勉強」


「そうなの......まぁ人は人だからね」


 最後の豚の生姜焼きを口に頬張った。何枚食べても豚の生姜焼きは美味しい。


「いい環境に入れたのであればよかったわ。お母さんは、あなたに優秀になってほしいとか、偏差値の大学に行ってほしいとかってあまり思っていないの。私もお父さんもそんなに優秀な人間ではないからね。お金持ちでもないし。でも、あなたには自分がなりたいと思う人になってほしい。なりたいと思える人になりたいなら、お母さんもお父さんも協力するわ」

 

 なりたい人。

 僕は、どんな人になりたいのか。中学校の頃から考えてはいたけど、その答えはまだ見つかっていない気がする。


「うん。自分の将来について少しずつ考えるようにするね。自分は自分だ。人と比べて自分の人生を描くのは間違ってるよね」


「そうそう。その意気よ」


 僕たちは、夕飯を食べ終えた。食器類をシンクに持って行き、水を流して軽く水で洗い流した。最終的にはお母さんが洗ってくれるのが、我が家のルールであった。


「そういえば、姉ちゃんって今何してるの」


「知らないわ。そういえば、何してるのかしらね。アメリカの西海岸に行くって言ってからそれっきりだわ」


 お母さんは、テレビのリモコンを操作してリビングのテレビをつけた。今流行りのバラエティ番組が映った。


「知らないって......姉ちゃんだって僕らの家族でしょうが」


「もちろん、家族よ。もう、20歳超えてるし大人だから。親がとやかく言うことじゃない。まぁ、就職したと思ったらすぐに辞めた時はさすがに心配したけど、やりたいように過ごしている方がきっとあの子にとって良いはずだから今の状況でいいのよ。きっと」


 僕には、姉が一人いる。

 歳は結構離れていて、家からはすでに出て一人で暮らしている。

 短大に進んだ後は英語を学んだ。どうやら、外国の文化に興味があったらしい。その後、輸出入を取り扱う会社に入って、貿易業務に従事していたようだが、それも3ヶ月くらいで辞めてしまった。本人は『荷物のやりとりをするくらいだったら、現地にはどんなものが存在しているかのほうが知りたい』とお母さんに言い残して、海外に飛び立ってしまった。

 

 どのように生活をしているのかは、正直よくわからない。特に金銭面。

 怪しいおじさんを捕まえてお金を出させているのかもしれない(弟の僕から見ても、姉ちゃんの見た目はそれなりに良く、男ウケは悪くないはずである)。


「まぁ、病気とかにかかって死んでなければいいか」


 僕は、究極の結論でこの問題を解決した。お母さんも「そうよ」と言って僕の結論に同意してくれた。

 

 いつかまた元気に会えるだろう。

 不思議な姉ではあるが、きっと姉ちゃんもまた自分が理想とする自分を探しているのかもしれない。


「じゃあ、僕は部屋に戻るわ。そういえば、今日お父さんは帰り遅いの?」


「しらなーい。どこかで飲んで帰ってくるんじゃないの」


「さいですか」


 

 僕は自分の部屋に戻った。

 カバンとか制服が散らかっていたので、いつもの場所に戻した。

 

 お風呂に入って寝る前に、なりたい自分について考えてみた。

 自分の将来というよりも、高校生活でのなりたい自分である。


 簿記検定は取りたいと思った。相沢先輩のように1級は取れなくとも、2級くらいまでは取りたい。

 プレゼン部については、どうだろう。そもそもどのような活動をするのかもイマイチよくわかっていない。でも、相沢先輩が「世界に衝撃を与える」と言っているのだから、最終的には世界に衝撃を与えるのだろう。まずは犯罪を起こさないことが重要かもしれない。

 

 冗談はさておいて、多くの人と出会う機会が多いはずだ。いろんな場所に行き、近隣の魅力を伝えるのだから。人との触れ合いを大事にしたい。それに、このあたりの魅力も理解しないといけない。やることは意外とあるのかもしれない。


 僕は考え事をしていると、ふと四分一さんの顔が頭に思い付かんだ。

 いつ思い出してみても、四分一さんは可愛かった。彼女とこれから仲良くなれるのだろうか。仲良くなっていろんな場所にふたりで行って、手を繋いで、そして......僕はよからぬ妄想をしてしまった。ベットに飛び込み自らの体を痛めつけ、そのままベットの上で悶え苦しんだ。


 そんな男子高校生のよくある妄想はさておいて、今日の帰り際の彼女の表情を思い出した。

 どことなく元気がなかったような気がする。どこに行ったのだろうか?

 

 考えても仕方ない。明日聞くしかないと僕は思った。


「三日月、お風呂はいらないのー? 早くしないと汗臭いお父さんが帰ってくるわよ」


 リビングの方から、お母さんの声が聞こえてきた。

 お父さんの後にお風呂は入りたくはない。

 僕は、急いでお風呂に入ることにした。

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