お母さんの晩ごはん①
僕は家に帰って、自分の部屋に直行した。
ベットにカバンを投げ捨てて、自分の机の前の椅子に座った。
机の上に置いてあるノートパソコンの電源を入れて、すぐに検索サイトを開いた。
学歴と検索ボックスに入力をしてエンターキーを押した。
結果、6千2百万件ヒットした。
履歴書の書き方などがヒットしたが、僕の知りたい情報ではなかった。
検索サイトで検索するのをやめて、僕は動画共有サイトで学歴を調べた。
最近の動画共有サイトは便利である。知りたい情報をみんな投稿してくれる。
投稿者は自分の投稿した動画再生数に応じて広告収入が貰えるため、どんどん自分の知っていることを皆に共有し、見返りとして広告収入を得ているのだ。
僕の思惑通り、学歴にまつわる動画がたくさんできてきた。
しかも、そのうち再生回数が1万回を超えている動画がかなりあった。
「学歴」というワードは、世間ではとても気になるワードなのだと僕は理解した。
動画のタイトルは、学歴比較、絶対に入っては行けない大学、これが世間で許される学歴......などなど様々だった。
ただ、今の僕はこれらの動画を再生をしたいとは思わなかった。
なぜならきっとこの動画に出ている人は、高田や吉川のような人がたくさん出ていると思ったからだ。
今の僕が見たとしたら、きっとパソコンの画面を叩き割るくらい腹がたつはずだ。
こんな動画を投稿しているくらいだから、投稿者は偏差値の高い大学を出ていて、動画の内容は自分たちの大学より偏差値が低い大学の人間を見下した内容になっていると思ったからである。
大学の偏差値でしか、人の価値は測れないのだろうか。
僕はノートパソコンを閉じて、ベットに置いてあるカバンを床に退けてそのままベットに倒れこんだ。
そして、そのまま寝てしまおうと思った。
僕は、自分が信じている道を高田と吉川に言えなかったことが辛かった。肉体的にというよりも、精神的に辛かった。
目をつむった瞬間。リビングからお母さんの声がした。
「ごはんだよー」
僕は閉じた目を開いて、ベットから起き上がりリビングに向かった。
さすがに、お母さんから呼ばれた瞬間にお腹が空いてしまった。
僕がリビングに着くと、テーブルにサラダと豚の生姜焼き、味噌汁とご飯が置いてあった。
「さあさあ、冷めないうちにお食べ」
僕は、手を合わせて「いただきます」と言って、ご飯を食べ始めた。
境家は昔から、ご飯を食べながらテレビを見るという習慣がない。
お父さんの作ったルールで、ご飯を食べる時はみんなで会話を楽しむべきだという境家ルールが昔から設定されていたからだ。
小学生の頃は、そのルールが嫌な時もあったけど、見たい番組は録画して後でみることができるし、動画配信でも見ることもできる。今ではこのルールに慣れてしまっていた。
「なんか、暗い顔してるね。学校でなんか嫌なことあったの?」
お母さんは、豚の生姜焼きを頬張りながら僕にしゃべりかけた。
「ああ、今日帰りに高田と吉川にあってさ。なんかバカにされちゃったんだ。商業高校なんてバカが行くところだって」
「ふーん。そうなの」
「ふーん、そうなのって。僕は悔しかったんだよ。バカにされて」
僕は悔しさのあまり、豚の生姜焼きを一枚丸ごと口の中に入れた。喉に詰まりそうになったが、そこは自力で噛んで飲み込んだ。
「三日月って、そういうこと気にする子だったんだね。お母さんは意外だったわ」
「まぁ、確かに僕は頭のいい人間でないことは自覚しているから気にはしないよ。でも、面と向ってバカって言われたら、さすがに腹が立った」
「まぁ、私もお父さんも大学は出てないから、大学がどういうところなのかよくわからないし。偏差値の高い大学がどれだけすごいのかとかさ。でもね、私は大学に行く理由って手段だと思うの。自分がなりたい自分になるための手段。私もお父さんも大学に行かなくてもなりたい自分になれたから、行かなくてよかったのよ。まぁ、お金がなかったから最初から大学に行くっていう選択肢がなかったということもあるけどね」
お母さんのそういう話って聞いたことがなかったから、少しこそばゆかった。
「三日月は、なりたい自分が見つかった?高校に入って。いろんな人にあったでしょ。入学したばっかりとはいえ」
僕は今日のことを頭の中で振り返った。
高田と吉川のせいで最低な1日になったと思っていた。でも、そんなことはない。
沢山の人と出会って、沢山の人と仲良くなった。
相沢先輩に、川上先輩。なんだかんだで五島さんとも仲良くなった。
四分一さんは、もはや僕の中ではマドンナである。憧れの存在になりつつある。
今日の1日を振り返ると、涙が出そうになった。しかし、お母さんの前で急に泣き出すのは流石に恥ずかしいから、泣くのは我慢した。
「なりたい自分はまだ見つかってはいないけど、今日は沢山の人に会ったし仲良くなったよ。それに、そういえば部活動決めた。プレゼン部に入った」
「プレゼン部? 毎日プレゼント交換でもする部活なの?」
お母さんの目が点になっていた。
商業高校に入ったことをバカだと罵られたことよりも、変な部活に入ったことのほうが心配しているようだった。そんな毎日人にプレゼントするようなお金はないぞ、と言わんばかりに財布をひっくり返すジェスチャーを繰り返した。
「違うよ。プレゼンテーション部。なぜか、部活の先輩に簿記1級を持っている先輩もいるし、同級生の女の子も少し変わってるしで。退屈しそうもない部活。この地域の魅力を各地に発信していくのが部活の目標らしいよ」
僕は味噌汁をすすった。今日の味噌汁は僕好みの味だった。




