愚か者だと笑われた少年
四分一さんは、喋ろうと思ったがさすがに下駄箱の前では喋りにくそうだった。
下駄箱の前で喋っているのもなんであったので、一緒に帰ることになった。
どうやら、四分一さんのお家は僕の通学路の途中にあるらしかった。
僕は急いで、自転車置き場に向かい自転車を取りに行き、二人で帰ることになった。
自転車を押しながら帰宅する僕に対して、四分一さんは、なんだか思い出したくなそうな表情で僕に当時の出来事を振り返ってくれた。
男女二人組が舞台袖から現れて、女子生徒が主な部活動内容を説明したらしい。
そこまでは他の部活動は何も変わらなかったらしい。
しかし、開始して1分後。それ以外に喋ることがなかったのだろう。女子生徒は、喋るのをやめたらしい。
その後である。
隣にいた男子生徒がとなりにいた女子生徒が持っていたマイクを奪い取り、喋り始めたようだ。
『世界に衝撃を与えよう』
開口一番に、彼はそう語ったらしい。
その言葉を聞いた時に、真っ先に五島さんに背中をどつかれたことを思い出した。
ああ、そうか。彼女自身は初めて聞いた言葉ではなかったのだ。
僕が寝ている間にこの言葉を、僕以外の全ての高校関係者はこの言葉を彼から聞いていたのだと。
その後も、男子生徒はテンション高く自分の志を語り続けた。持ち時間2分を大いに超過する6分ほど喋り続けたようだ。しかし、その内容はあまりにも志が高いようにも宗教的なようにも感じられたそうで、体育館にいたほとんどの生徒が、その内容に一歩引いてしまっていたようである。最後は、川上先輩が止める形で発表は終了したようだ。
川上先輩が、僕が入部を決めた時に安堵していたのは、この話の内容が関係していそうだと僕は思った。
「それは、クレイジーだね」
四分一さんの話を聞いて僕は返事をした。
「クレイジーだと思う」
しばらく、大通りを走る車の音と、僕が押して帰っている自転車のチェーンが回る音が二人の間に流れた。
何を喋っていいのかわからなかった僕は、とりあえず話題を変えることにした。
「そういえば、四分一さんは部活動何に入るの?」
「私? うん......中学校の頃、陸上やってたから、陸上部に入りたいなって思ってるんだけどね。迷ってるの」
プレゼン部の話をしようとする四分一さんの表情は暗かったが、今度は苦笑いをしているようにも見えた。
「迷ってるって.....何かあったの?」
「まぁ、いろいろ。いろいろあるんだよ、年頃の女の子には。あ、そろそろ私この辺りで失礼するね。ちょっと寄らないといけない場所あるから。境くん、プレゼン部頑張ってね!」
彼女は、両手の拳を強く握り、僕に対してエールを送った。
その姿はとても可愛らしく、僕は大きな口を開けてポカンとしてしまった。
「が、頑張ります!」
僕の返事に彼女は、ニコッと笑顔を見せて手を振ってその場を別れた。
聞いていた彼女の家の場所とは反対方向に歩いて行ったから、本当に寄る場所があるようだ。
反対方向に歩いていく彼女を暫く見送って、僕も家の方向に向かって歩き始めた。
家に帰る前に、コンビニに寄ろうと思った。坂の下にあるあのコンビニである。
コンビニの前の公園を突っ切ろうとした時、僕は声をかけられた。
「あれ、境じゃね」
声がする方向に振り返ると、ベンチに座る二人組の男子がいた。
見慣れないブレザーを着た二人組であったが、僕は二人の顔は知っていた。
「高田と吉川。久しぶりだね」
高田と吉川。彼らは僕の通っていた中学の同級生である。
彼らは僕と違い、県内有数の進学校に進学をした。二人は偏差値は60を超える公立高校に進学したらしいと、お母さんからも聞いていた。
「相変わらず、冴えない顔してんな。境って今どこの高校行ってんだよ」
高田が僕に話しかけてきた。
「港口商業高校」
「うわ、ショーギョー高校かよ今時。将来ねぇじゃん。安月給コース確定おめでとうございます」
吉川が、僕の返事に反応した。
「そんなことないよ。それに僕は高卒で就職する気は今のところないよ。大学には行きたいと思ってるよ」
「商業高校からいける大学なんて、たかが知れれてるだろ。専門高校なんて、バカが行くところだろ。このご時世に高い偏差値の大学にいけない高校を選ぶなんて、本当にバカだな。人生詰んでるよな、吉川」
高田が言うと、吉川と二人で大笑いした。
この二人は中学校の頃から、同じ塾に通って勉強をしていると聞いたことがある。
そのため、テストはよくできた。周りよりも成績が良いせいか、すこし鼻につく言動が目立っていた。
僕はそれが少し苦手で若干距離を置いていたのだが、久々に会っても性格は変わっていないようであった。
四分一さんからもらった幸せな気分は、彼らの登場によって一瞬で空気中に飛んでいった。こんなの貰い事故である。
「そんなことないよ。大学にはいける。商業高校からも立派な大学にいけるし、専門知識が身につくんだよ」
僕は応戦したが、彼らは僕の言うことには耳を傾けてくれはしなかった。
彼らは、「高い偏差値の大学に行けない高校に価値はない」と言いたい雰囲気が満々であった。むしろ、それ以外の価値観は受け付けないという雰囲気だった。
これ以上話しをしても僕自身が気分を害すだけだと思い、僕はそのまま帰ることにした。
「気をつけて帰るんだよ。バカ商業高校生」
コンビニに寄ろうと思ったが、僕はそのまま家に帰ることにした。
自転車のチェーンが回る音が住宅街に鳴り響いた。




