表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/55

中学生の春②

 僕は学校に向かって歩いた。通っている中学校は、大きな坂の上にある。

 この坂を2年間も歩いて登っていたのだから、多少は足腰は鍛えられたと思う。


 僕の住んでいる家は、坂の頂上にある中学校とは真反対の坂の始まりの位置にある。

 両親もこのあたりに家を構えるのならば、もう少し考えてくれてもよかったのではないかと何度思ったことか。(坂の上にある中学校よりも、家の近くに電車の駅がある方が大事だったらしい。大人としては至極当然の考え方だとお母さんは中学生になりたての僕に言った)


 僕はいつものように坂を登ろうと、家の目の前の道から坂のある道に向かって歩いた。


 コンビニの角を曲がると、いつもの長い坂が見えるのだが僕はそのコンビニの前で声をかけられた。


 コンビニの前には大きな桜の木が立っていて、桜の季節になるととても綺麗だった。桜の木の前にあるコンビニは、昔酒屋さんでその時の店主が桜の木を目の前に植えたらしい。なんとなく法律的にグレーゾーンだったらしいが、景観がとても良い!ということで、特別に切られずに今に至っている。


 そして、中学校の通学路にあるものだから、入学式のシーズンともなると、着慣れていない制服を着ている我が子と写真を撮る親御さんの姿をよく見かけた。子供たちは緊張しているのに、親御さんはどこか嬉しそうなのである。


 そんな数多くの思い出が刻まれる場所で、僕は不思議な人にであったのである。


 

「少年」


 コンビニの店先に、どっしりと座っている男が僕に声をかけてきた。


 僕は怪しい人だ!と思い、ちらっと男の方を見て逃げるように歩き去ろうとした。


「まてまて少年。怪しい者じゃないぞ」


 どうみても怪しい。こんな朝っぱらから、ワンカップを片手にコンビニの前に座っている時点で不審者以外の何者でもない。茶色のジャケットに、白いシャツ、黒いジーンズに革靴。頭はボサボサで、無精髭を蓄え、薄い青色のレンズが入ったサングラスをかけている。見た目から察するに30代くらいに見えた。少なくとも老人という年齢には見えない。


「おれはこういうもんだ」


 男は、僕に向かって名刺のようなモノを差し出した。僕はなぜか近寄りたくはなかったのに、その差し出された名刺のようなものが気になって近づいてしまった。


 男が差し出したものは、名刺であった。


「公認会計士、坂下春一」


 名刺には、その文字しか書かれていない。裏返しにするとかろうじてメールアドレスと電話番号が書かれているだけで、住所のようなものは書かれていない。


「で、あなたは何者ですか。僕には怪しい人にしか見えません。中学校の先生から、不審者を見かけたらすぐに大人の人に通報しなさいって言われてるので。申し訳ないですけど、コンビニの人に言ってきます」


「ち、ちょ、ちょっと待ちなさいって若者。公認会計士って知らないの?結構頭いいんだよ。社会的ステータスっていうのかな?そういうのすごく高いんだぜ......って、中学生にはそういうのわからないか.....。とにかく、俺は怪しいもんじゃない。それに面白いだろ、坂下春一って名前。なんとなく、今の時期のこの場所にぴったりだと思わない?」


 男は自己紹介をして笑っていた。


 僕は、酔っ払いは苦手だ。お父さんも、時々酔っ払って帰ってくるが語気が強くなるから嫌いだった。お酒はどうしてあんなにも人を変えてしまうのか。


 僕は、不審者の男の自己紹介を大胆に無視をしてコンビニの中に入った。


「あ、店長さん。店先に不審者がいます。警察に通報してください。僕はこれから中学校に行かないといけないので、あとはよろしくお願いします」


 僕は淡々と状況を伝えた。店長さんとは直接面識があるわけではないが、コンビニと家が近いこともあって顔見知り程度の中ではあった。


 店長さんは「わかった」と返事をして、真剣な目つきで店の外へ出て行った。


 しかし、店内にいる僕の方へと戻ってきた。


「えっと、、、」

 店長さんは、僕の呼び方に困っていそうな雰囲気であった。


「境三日月です」


「境くん。店の前にいるのは不審者じゃないよ。確かに、こんな時間からお酒を飲んで中学生に声をかけるんじゃしかたないけど」


「そうなんですか」


 僕は店先の方を見た。相変わらず、男はどっしりと座っている。


「坂下くんは、地元の子でね。両親は僕も知ってる。最近こっちに帰ってきたんだよ。たしか、アメリカだかアフリカだかにいってたんじゃなかったかな」


 アメリカとアフリカは、響は似ているが偉い違いである。地理的にも文明的にも。

 いや、このご時世、文明は大差ないかもしれない。


「なんでも、世界的な会計事務所で、ないぶとーせーやら、えむあんどえーやらで活躍したらしいんだよね。おじさんも、カタカナは苦手で、正直深いことまでは知らないんだけどね。でも、彼は結構すごいらしいよ。」


 中学生の僕にだって、そんなカタカナはよくわからない。


「内部統制に、M&Aね店長。ちなみに、M&Aは企業買収の事で、企業と企業がくっつく案件のことね」


 気がつくと、店長の横に男は立っていた。坂下春一。


 そして、彼はにやけながらこう言った。


「少年、俺と会計の話をしようじゃないか」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ