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商業高校の部活といったら①

 気がつけば翌週になり、僕は体育館で体育座りをしていた。


 部活動紹介である。

 体育館全体の照明は消され、舞台にだけライトアップがされていた。

 生徒会の人だろうか。舞台の端に設置されたマイクスタンドの前に立ち、淡々と部活動を紹介している。


 部活動の名前が、呼ばれた瞬間にその部員が舞台の前に出て部活動の紹介をする。

 持ち時間は一つの部活につき2分。これもこの高校の伝統らしい。


 2分でできることなど、ほとんど無いに等しい。大抵の部活動は部員の人数や特徴をさらっと紹介して終わる。中には、部活動と全く関係ないユニークな組体操をして目立とうとする部活もあるが、だいたい見事にスベって終わるケースが多かった。生徒たちは、部活動紹介が終わるたびに拍手をし、そのままその紹介をしていた部活動部員は舞台袖に消えていく。この流れが暫く繰り返された。


 僕はバドミントン部の紹介に一応注目していた。

 しかし、どうやら男子バドミントン部が無いらしい。女子しかいない。もちろん、ここから1年生部員や上級生に入る伝説の部員(実は、中学時代に全中に出場していたなどの稀有な経歴の持ち主)を探す漫画のような展開をしても良いのだろうけど、そんな気力はない。僕は決して部活動をメインにして高校に入ったわけではないからである。


 珍しい部活だなと思ったのが、簿記部である。いかにも商業高校らしいと思った。

 紹介に出てきた部員の半分くらいは、メガネをしていた。インテリ感満載で、心なしかメガネが光っていたようにも見えた(体育館のライトアップがいい感じであったからに違いない)。

 主な部活動内容は、簿記。簿記検定の取得、そして簿記大会の出場である。簿記大会というのがあることにはびっくりした。どうやら、簿記の問題を解いてその点数を競うらしい。数学部が、数学の問題を解いて競いあうようなものなのだろう。

 簿記の問題を解くのを競うあたりが、先生が言っていた「簿記は技術」ということの事実が垣間見えていた気がした。


 しかしである。僕の高校3年間という人生でも短い青春を簿記に捧げて良いのだろうか。

 教室の片隅で、電卓をただただ打ち続ける。いや、もしかしたらそろばんを使うようになるかもしれない。

 僕が電卓を叩いてる間に、四分一さんはどこかの筋肉隆々の野球部員とお付き合いでもし始めてしまうのではないだろうか。

 いつの時代だって、ちょっとワルそうなお兄さんの方がモテると母さんが言っていた。僕からは悪さを全く感じないらしいから、少し心配された。筋肉もない。ヒョロヒョロで、身長が特段大きいわけでもない。優しいそうという点が唯一の特徴だが、そんなもの高校時代においては何の意味もない。足くらい早くなりたいものである。


 印象に残った部活はそれくらいであった。

 正確に言えば、後半は寝てしまった。運動部、文化部の順番で紹介がされていたのだけれど、文化部の紹介で着物を着た女性が現れたかるた部の紹介があった後、軽音部が紹介された。

 その時、短い時間であったが、軽音部のメンバー一人が、クラシックギターで1曲演奏をした。その時の曲が眠気を誘うラブソングであったため、僕はそのまま深い眠りに落ちた。そして、気がつけば部活動紹介が終わっていたのである。


 体育館から帰る時、隆二と一緒に教室まで帰った。

「三日月は、決まったか。部活。こないだ心配してたじゃん」


「ああ、確かに。そんなことも言ってたよな。簿記部にしようかなって思ってる。商業高校っぽいから」


「っぽい、みたいな感じでお前は決めることもあるんだな」


「そういうのも大事でしょ。物事を判断する時に明確な理由が必要な時もあるけど、雰囲気で判断するのも悪く無いと思うよ」


「まぁな。簿記部が肌に合わなかったら、野球部にでも入ればいい。最初はボールが怖いと思うけど、そのうちボールとも友達になれる」


「どこかで聞いたようなセリフだけど、球技が違うような気がするな。まぁ野球部は視野に入ってないよ。卒業までにバットにボールが当たるかも危ういよ。俺は」


 隆二は、「確かに」と言って笑った。彼なりのジョークだったのだろう。僕は隆二の背中を叩いた。僕だって頑張ればバットにボールくらい当てられるはずである。当てられる......はずである。


 

 放課後、廊下を歩いていると坂下先生にあった。

「あれ、三日月なにやってんの」


「いよいよ、下の名前で呼び捨てですか」


 僕は、先生に鋭く突っ込んだ。


「まぁまぁ、いいじゃないの。最近の高校の先生と生徒の関係は、ガチガチの上下関係じゃなくて、友達感覚が主流らしいぞ」


「どこから、そんな情報仕入れたんですか。変なワイドショー見すぎじゃないですか」


 坂下先生は「まぁまぁ」と、僕のツッコミを軽くいなすようにうなづいた。


「ところで、三日月は部活決めたのか」


「ああ、そうですね。簿記部にしようかと」


「簿記部か......」


 坂下先生は少しくらい表情をしている。公認会計士を目指す人の大半は、簿記から入る。ということは坂下先生も、この高校の簿記部の出身なのかと思っていたのだが。


「簿記部に何かあるんですか?」


「いや、特に何も無いよ。いいと思う。でもさ、いいのそれで。友達とか恋人が電卓になっちゃうよ」


「え」


「いや、そろばんになるかもしれないな。友達か恋人は」


「先生、そこに対するリアクションじゃないです」


「そうかそうか」


 その後、先生とたわいも無い話をした後、別れた。別れた後の先生の背中から、高校教師の生活に慣れてきている雰囲気を感じた。


 今日の放課後は部活動見学が行えるため、とりあえず僕は簿記部の部室に行ってみることにした。

 

 

 

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