新しい恋
明るい朝日が差し込んできて、俺は目を開けた。
俺は野良猫だった。
8回も生きてきただけあって、出会った猫に喧嘩で負けることはなかったし、誰よりも知識があった。だから沢山の雌猫が俺に求婚してきたが、一匹だけ俺に見向きもしない白い雌猫がいた。
俺はぐにぃ、と伸びをして、それから歩き始めた。
もちろんその白猫のところに行くためだ。
彼女は昔人間に飼われていた猫で、あまり喋るのは上手くなかった。だがどうやら頭は馬鹿ではないようで、それがまた俺には気に入らなかった。
日が射した農場のレンガ塀の上から飛び降り、春の朝の、まだ冷たい土を踏みしめて歩く。少し行くと、農場の中に立った大きなねむの木の下、いつもの場所に、こちらに背を向けて彼女がいるのが見えた。
もう起きているようだ。何だ、と俺は少し鼻白んだ。俺は今までこの白猫が寝ているのを見たことがない。
彼女は俺の近づく気配には気付いたはずだが、無視を決め込んだようだ。俺が白猫の前まで回り込み、空を見ていた彼女の視線上に割り込んで、そこでようやく彼女は俺に焦点をを合わせた。
そして俺をただじっと見つめた。
「俺は8回も……」
俺はいつものように言おうとして言い淀んだ。
最初に会った時から「俺は8回も生まれ変わったんだぜ」と言い続けているが、彼女は「そう」と言うだけで一向に効果がない。
それから、クシャミの所にいた話や、頑固爺さんの話もしてみたが、彼女はいつも聞き流しているだけだ。
「………」
彼女はじっとその大きな黒い目で俺を見ている。そこには特に何の感情もないようだ。
俺は何故だか、自分が非常にちっぽけな存在のようなような気がして、急に恥ずかしくなった。
「……」
「…………」
しばらく見つめ合った後、俺は言った。
「……傍にいてもいいかい?」
ええ、と彼女は答えた。
俺は彼女の隣に座った。
俺はもう、「8回も〜」とは言わなかった。




