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新しい場所

俺は偏屈爺さんの家で飼われている猫だ。どれくらい爺さんが偏屈かって、奴ほど人を困らせる人間もそうはいないだろう。

さて、そんな爺さんでも人手が無くなると困るとみえて、ある日カズミと言う名の甥っこを家に呼び寄せた。カズミは働き者でしっかりしていて賢くて、とても主人の血縁者だと思えないような子だった。この新しい場所で何をやるのだろうと胸をわくわくさせているのが俺からでもよく分かった。

カズミを家にいれると、爺さんは突然

「この家にはこの家の流儀がある。まずそれを覚えてもらいたい」

などと言い始めた。やれやれ、また何か始める気だぞと俺が見ていると、主人は突然俺を指差した。

「してカズミ、おまえはこれを何と呼ぶ?」

「猫です、お爺さん」

「ならんならん、ここではこいつは『ネズミネライ』と呼ばなくてはならん」

またこの爺さんは何を言いだすのか、今までそんな事を言ったことは一度もないぞと俺は思ったが、正直なカズミ青年、

「はい、わかりました。『ネズミネライ』ですね」

と信じている。

次に主人は自分の木ぐつを指差した。

「してカズミ、おまえはこれを何と呼ぶ?」

「木ぐつです、お爺さん」

「そうか。だがこれはここでは『パタパタ、ドンドン』と呼ばねばならん」

「はいわかりました、『パタパタ、ドンドン』ですね」

やれやれ、主人の奴、後でまごまごして恥をかいても知らんぞと思ったが、主人の新たな名前付けは更に続く。

次に主人はカズミを居間に連れていった。面白そうなので俺もついていく。主人は暖炉の火を指して言った。

「ならばこれは何と呼ぶ?」

「火ですよ、お爺さん」

「だがこれはここでは『愉快、愉快』というものだ」

「はい、わかりました。『愉快、愉快』ですね」

主人はカズミを台所へ連れていって、今度は隅にあった瓶の中にある水を指差した。

「カズミや、これは何て言う?」

「水ですよ、お爺さん」

「そうか。しかしこれはここでは『たっぷり、ちゃぷん』だ」

「はい、わかりました。『たっぷり、ちゃぷん』ですね」

更に納屋へと主人はカズミを連れていく。そして干してあったまぐさを指して言った。

「じゃあこれは何て言う?」

「まぐさですよ、お爺さん」

「ふうん。だがこれはここでは『大地の髪の毛』だ。よおく覚えておくんだ」

「はい、わかりました『大地の髪の毛』ですね」


これで主人は満足したのか、もうこれ以上妙な名前付けをしようとはしなかった。





夜になった。

主人はもう寝てしまっていて、カズミは奥さんと暖炉のそばで話をしていた。俺は暖炉のそばで丸くなっていた。

そうしたらいきなり暖炉の火がぱちんと弾けて、俺のしっぽに燃え移った。俺はあわてて走り回ったが、しっぽの火は消えようとはしない。気が付いたら納屋のまぐさに燃え移ってしまっていた。

「おじさん!おじさん!『ネズミネライ』が『大地の髪の毛』に『愉快、愉快』をつけちゃった!『パタパタ、ドンドン』を履いて、『たっぷり、ちゃぷん』を持って、すぐに来て!」

遠くでカズミが叫ぶのが聞こえた。だがあの偏屈爺さんはすぐにはその意味を理解しないだろう。

そうこうするうちに火がしっぽだけでなく足先や耳にまで燃え移ってしまった。



ああ熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!




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