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新しい鞄

俺はボスに言われて、仲間と共に山のなかに料理店を開いていた。

「しっかしさあ、こんな山奥に来る人なんて本当にいるのかね」

同僚の宮沢が言った。

「さあねえ。しかし俺たち猫の身分じゃあ町中にレストランなんて開けないだろ。客を食うのが目的だし」

「客を食うったって実際に食べるのはボスだけじゃないか」

「まあなあ」

その時、いきなり入り口のベルがりりん、と鳴った。またボスか、と二匹で顔を見合わせたら「ごめんください」と声がした。ボスじゃない、客だ!二匹して慌てて飛び出してゆくと、二人の人間が立っていた。開店以来初めての客だ、丁寧に扱わなくてはならない。

「すみませんお二方様!」

コートを脱がせ、鞄を預かる。いやに犬臭い匂いがしている。

俺が二人を席に案内して宮沢の所へ戻ると、宮沢は「どうします?」と俺に耳打ちしてきた。

「どうしますっておめえ………殺して塩もみしてサラダにでもするしかねえだろ」

「それはそうですけど、どうやって殺すんすか」

「それはやっぱ…俺らの爪でもって喉をかっ切るしか無いんじゃないのか?」

「でもそうすると、後で服を脱がせなきゃいけないですよねえ。面倒臭くないっすか?」

「じゃあおまえが脱がせてこいや」

「無理っすよー」

「じゃあ諦めろ。何を頼むか決まったらまた俺らを呼ぶだろうから、その時に二匹で行って一斉に喉を切るんだぞ」

二人はメニューを見ながらああだこうだと言い合っている。まだ決まるのには時間がかかりそうだ。

ふ、と宮沢が客から預かってきた鞄を見ると、三毛柄でふわふわした毛が生えていて、何とも猫そっくりの表面である。

「な、何だ宮沢、その気味の悪い鞄は」

「あ、やっぱりそう思うっすか?気味悪いですよねえこれ」

「猫の毛皮が使われているように見えるのだが」

「やっぱりそう見えます?でも『毛皮使用』としか書いてないんすよ」

「それ絶対猫の毛皮だ」

「そうですかねぇ」

二人のうち一人が手を挙げるのが見えた。

「いいかい、『せーの』で一斉に爪を出すんだぞ」

「了解」

俺はそう宮沢に言って立ち上がった。後から宮沢がついてくる。

「はい、何でしょう」

「エビフライとサラダと……」

「なるほど、エビフライとサラダですね、承知いたしました………『せーの』!」

俺たちは一斉に爪を出して二人の人間に突き付けた。

「うわあ」がたがたがたがた。

「うわあ」がたがたがたがた。

二人は泣きだした。

「レストランというのは、西洋料理を、来た人に食べさせるのではなくて、来た人を………」

俺が爪を突き付けたほうの人間が言った。

「まあそういうことですね。悪くお思いなさんな、今あなたたちを料理できなくては俺たちの責任になってしまうのでね」

二人はあんまり心を痛めたために顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになっている。二人は泣いて泣いて泣いている。何、猫を鞄にするような奴だ、殺してボスに引き渡す前に少しぐらい痛め付けても罰は当たるまい。

その時うしろからいきなり、

「わん、わん、ぐゎあ!」

と犬の声がした。振り向くと白くまのような犬が入り口の扉を開けようとしている。しまった、やけに犬臭いと思ったら犬連れだったか!

犬が扉を抜けて走ってきた。俺と宮沢は逃げようとしたが向こうのほうが速い。あっという間に追い付かれて押し倒され、犬のくせに俺に馬乗りになって喉笛を噛み切りやがった。


だくだくと流れる血の中、俺は、『これで俺も皮を剥がされてあのように鞄にされるのだろうか』と思った。




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