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新しい靴

昔、『長川』と呼ばれる川のほとりに、粉引きがいた。

粉引きには子供が三人いたが、三男は前に水車に挟んで足を折ってしまって、いつもびっこを引いていた。なものだから、三男は『長川のひょこひょこ三郎』と言われていた。





ある時この粉引きは死んでしまった。残ったのは水車小屋とロバと、それから猫――――この俺だ。

長男はもちろん水車小屋を取ったし、次男はロバを取った。三男は余った俺を連れて家を出たが、「この猫を食べて、それから毛皮にして三味線造りに売った後はどうしよう」などとのたまった。

俺はこの言い方にかちんと来た。食うだって?売るだって?冗談じゃない。

だから言ってやった。

「ご主人様、あなたの分け前はそう悪いものでもありませんよ」

って。

それから、

「下駄を一足と袋を一個下さいましたら、それをお目にかけましょう」

って。

主人――――『長川のひょこひょこ三郎』はぽかんとした顔をしていたが、それでも俺に一足の下駄と布袋を一つくれた。俺は下駄を履き、貰った袋に藁を入れたのを持って原っぱへ行った。

袋を開けて待っていると、子ウサギが藁を食べようとして袋のなかに入った。俺はすかさず袋の首を絞めてウサギを殺し、お殿様の所へ行った。そして

「空場卿からの贈り物です」

と言ってお殿様に献上したのさ。

え、「空場卿」って誰かって?『長川のひょこひょこ三郎』には名字なんて物が無かったからね、俺が勝手に「空場」と名付けたのさ。

次に俺は麦を袋に入れて山のふもとへ行き、そして同じように袋に入った雉を殺して殿様に献上した。そんな事を二、三ヶ月も続けているうちに殿様はすっかり空場卿の事を気に入ってくれた。

ある時、殿様が川沿いに国内を見回るそうだと聞いた俺は、主人に川で水浴をするように言った。主人は「えぇ?」と訝しげな顔をしながら、それでも服を脱いで川に入った。

俺は急いで主人の洋服を隠し、そして殿様のお籠が来るのを見て騒ぎ始めた。

「大変だ!大変だ!空場卿のお召物が盗まれてしまった!大変だ!あの盗人め!見つけたら相応の処罰をしてやる!」

これを聞いた殿様はお籠をお止めなさって、空場卿に着物を持ってくるように言って臣下を急いでお城にやった。

戻ってきた臣下に着物を貰って着ると、元から見目麗しい青年だった『長川のひょこひょこ三郎』はとても美しくなった。ちょっと足を引きずるのは元のままだが、これなら本当にどこかの名家の出身だといっても通じるだろう。

俺は殿様に

「助けて頂いたお礼に空場の家でおもてなしをさせて頂きとうございます」

と言い、主人には小さく

「このまま真っ直ぐ進んできなさい」

と言って、お籠の前を走り始めた。

しばらく走っていると立派な畑があった。そこで鍬を持っていた百姓に聞くと、ここいらへんはずっと何にでも化けられる山婆の持ち物だという。山婆はどこに住んでいるのかと聞くと、この道をずっと真っすぐ行ったところの屋敷だそうな。こりゃあ好都合だ。

「いいか、すぐにこの横を殿様が通るだろうから、その時に『ここは誰の領地じゃ?』と聞かれたら『空場卿の物で』と答えるんだぞ」

「んだども猫様、そげなことしたら何にでも化けられる山婆が……」

「山婆がなんだ!俺の言うとおりにしないと八つ裂きにして食ってやるぞ!」

「ひぃ!それはご勘弁を!」

これで大丈夫だ。下駄を履いた俺が更に走っていくと今度は立派な田があった。そこにいた百姓に言う。

「いいか、すぐにこの横を殿様が通るだろうから、その時に『ここは誰の領地じゃ?』と聞かれたら『空場卿の物で』と答えるんだぞ」

「んだども猫様、そげなことしたら何にでも化けられる山婆が……」

「山婆がなんだ!俺の言うとおりにしないと八つ裂きにして食ってやるぞ!」

「ひぃ!それはご勘弁を!」

これでよし。俺は更に走って走って、遂に山婆の屋敷に着いた。山婆は丁度仲間とともに宴会を開くためのご馳走を作っているところだったが、俺が「ご主人にご挨拶がしたい」と申し出ると、山婆にしては丁寧に俺を迎えてくれた。

「山婆さまは何にでも化けられるそうですが、それはまことですかな?」

そう俺が聞くと、山婆は

「いかにも」

と頷いた。

「いやあ、何にでもと言ってもでぃだらぼっちほど大きくはまさかなれますまい」

と俺が返したら、

「何を?そんなのお茶の子さいさいだ。よしなってやろうでないか」

と山婆はでぃだらぼっちになった。俺は急いで逃げて、「しかし何にでもなれるといってもまさか一寸法師にはなれしまいますまい」と叫んだ。

今度も山婆は

「何を?そんなのも簡単すぎてへそで茶がわけらあ。よしなってやろうではないか」

と言って一寸法師になったので俺は山婆を食い殺してやった。ちょうどその時殿様と主人が到着した。殿様は主人の領土の広さに感心していたし、山婆が仲間のために作っていたご馳走にも目を丸くした。実はこの時殿様の後ろには宴会にやって来た山婆の仲間たちがいたのだが、人間を恐れて入ってこなかった。

そして殿様は言った

「わが姫と結婚しないか、空場卿よ」

と。

もちろん断る理由なぞ無かったので主人は喜んでその申し出を受けた。そしてその日のうちにお姫さまと結婚した。



俺は殿様から位階と領地を貰い、もうネズミを追い掛けるなんてことは、遊びにしかしなかったのだった。



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