第8話 お決まりの展開が舞い込んできました
俺が任務掲示板に向かうと、その前では大声で言い合う男女が否応なしに目に入ってくる。
「あのさあ、何回言ったら分かるの!?」
「エリックの言う通りだよ! お前のせいでまた任務失敗したんだからな!」
「あああ、一体この損失は誰が払ってくれるんだよ!」
「……す、すみま、せん……」
いや、言い合っているのではない。どちらも気の強そうな男2人と露出の多い服装をした女1人が緑色のきれいな髪をした女の子に怒声を浴びせているのだ。
まるで小学校でいじめられていた俺みたいだ。これはクラス内いじめならぬ、パーティー内いじめと言うやつではないだろうか?
「お前の魔法が弱いせいで俺の回復薬使い切っちゃったのだけど!」
「すみ、ません……」
「もっと連携してくれないと困るんだけど! 動き鈍すぎるんだよ!」
「ご、ごめんな、さい……」
「あーあ、このままじゃいつまでたってもランク上がらないじゃないか!」
そういった赤いバンダナを頭に巻いたリーダーのような男が女の子を突き飛ばす。
「いたっ!」
いきなり突き飛ばされた女の子は床に尻もちをつく。その衝撃で女の子が大事そうに抱えていた木の杖は床の上を転がって3人の前で止まる。
「ホントどんくさいよな! ちょっと押しただけでコケるなんて冒険者に向いてないんじゃないの!?」
今のは誰でも尻もちをつくだろ! 本人は意識していなかったかもしれないが、緑髪の女の子の力を利用した合気道の技みたいになっていたぞ!
「確かに! その通りだよな。だったらこれもいらないんじゃない?」
露出度高めの褐色の肌の女が木の杖を拾い上げる。
「それもそうだな。お前の代わりに売りに行ってやるよ。こんなしょぼい杖でも次の任務の分の回復薬ぐらいにはなるだろ!」
「それ名案だね! エリック、天才!」
「や、やめてください!」
いじめられている女の子が涙目で露出狂の女の足を掴む。
「あたしに触んな!」
褐色の女は力任せに掴まれた足を振り上げる。涙目の女の子は、被っていた白いベレー帽を舞い上がらせて後方に飛ばされる。
「や、やめてください! それがないと冒険者として仕事ができないんです!」
「だったら冒険者やめろよ! お前みたいなうすのろが冒険者やってるなんて同じ冒険者として恥ずかしいからさ!」
「わかる!」
「マジ、それな!」
そう言って汚らしく笑う3人組。
本当に胸糞悪くなる光景だ。
「……やめ、て……ください」
大粒の涙をきれいな濃い緑色の瞳からこぼしながら女の子が訴えるが、3人組の耳には届かない。
「そんじゃあ、早く組合証返納しとけよ!」
3人組は、女の子の木の杖を持ったままゲラゲラと笑いながら冒険者組合の出口に向かって行く。
「おい! 待てよ!」
俺はそんな3人組に後ろから声をかける。
あまりにもひどい光景に声をかけられずにはいられなかったのだ。世界を救うと言っておいて女の子一人救えないなんてかっこ悪すぎる。
「何ですか?」
「何って、その杖、返してあげなよ」
「あなた何なんですか? パーティー内の問題に関係ないあなたが首を突っ込まないでもらえますか?」
じろじろと俺を見回したリーダーの男がフンッと鼻で笑ってから心底嫌そうな声を出した。
コイツ、今俺の格好を見て自分よりも弱そうだと判断しやがった。確かに俺の見た目は、か弱い幼女だし、服装もボロボロだから普通に見たら大きなバスターソードを背負っているリーダの男よりも弱く見えるのは間違いない。
コイツは、自分より弱いと判断した奴には強く出る正真正銘のいじめっ子だ。
「いや、関係ある」
「何の関係があるんだよ!」
関係のない問題に首を突っ込んでしまった時の対処法は1つだけだ。
「今から、彼女と任務に行こうと思ってたんだよ」
無理やり関係を持てばいいのだ。ラノベや漫画、ゲームではよくある展開だ。
ネット小説を書くための勉強としてラノベに漫画、ゲームをやりにやりまくっていた俺なら咄嗟に口から出るぐらい見たことのある展開だ。つまりテンプレ。この先の展開もある程度の予想がつく。
「あんた、あいつと任務に行くつもりなのかよ」
「ああ。だから、杖を売られてしまうと俺が困るんだよ」
「あいつと任務に行くのはやめといた方がいいぜ」
「それは俺が決めることだ」
「先人の言うことは素直に聞くもんだぜ。それに一応まだ、あいつは俺らのパーティーメンバーなんだから勝手に引き抜かないでもらえるかな!」
いや、待て! どう考えても俺の方が年上だ。だって見るからに15、16ぐらいの年齢じゃないか。全員。
まぁ、そんなことはどうでもいい。大切なのは彼らの実力だ。実力によっては今後の作戦を変更する必要がある。
俺は彼らをくまなく観察して、あることに気がついた。
3人共装備はきれいだが、初期装備のような気がする。全体的に安っぽいのだ。性能だけだったら俺が盗賊から剥ぎ取った装備の方がいいのではないだろうか? 見た目はともかく。
「確かに君たちのパーティーメンバーを任務に誘っているんだ。ただでとは言わない。冒険者なら冒険者らしく任務で勝負しないか?」
「勝負?」
本当はここで殴り飛ばして杖を奪い返すのが1番早いと思うが、人の目が多い。暴力事件として捕まったら世界を救うどころではなくなってしまう。俺は善良なのだ。
「ああ。どちらが早く任務を終わらせられるかで勝負だ。俺が勝ったら彼女と今後一切関わらないようにしてもらおうか」
「いいぜ。お前たちが負けたら2人仲良く冒険者をやめてもらおうか!」
「そりゃいいね! 目障りなのをいっぺんに排除できるじゃん!」
「頭いい! エリック!」
パリピの高校生みたいたなムカつく合いの手が飛ぶ。
なんだか勝利後の条件が全く釣り合っていない気がするが、まぁ、いいとしよう。なんたってこっちは勝負をしてもらっている立場なのだから。
俺は任務掲示板に貼り付けられていた青い紙を1枚剥ぎ取る。
「これがちょうどいいだろう。Dランクの依頼任務だ。内容は『青い粘液』50個の納入だ」
3人組の実力が分からないで、多分スライムのドロップアイテムだと思われるアイテムの納入クエを選んだのだが、流石に簡単すぎだっただろうか?
もう1ランク上のサイクロプス討伐クエにするべきだったか?
「Dランク任務っ!? ……ま、まぁ、いいだろう」
リーダーを含め全員の顔が少しだけ引きつった所を見るに丁度いい塩梅だったのだろう。俺の観察眼も侮れないな。
ここまでは、俺の予想の範囲内だ。後は、最後の仕上げだけだ。
「最後に彼女の杖を返してもらおうか」
ここで杖を取り返してしまえば、緑髪の女の子の評価もうなぎのぼりだ。と言うよりあれが無いと女の子は戦えないみたいな事を言っていた気がする。今から任務に行くのにそれは少し問題だろう。
「嫌だね」
「……っえ!?」
「杖無しで頑張るんだな!」
捨て台詞を残すと3人は冒険者組合の入口をそそくさとくぐって出て行ってしまう。
「ちょっ!!」
まさか、最後の最後で運命が覆されてしまうとは……想定外だ。今回はうまいこと運命通りに事が運んでいったのに……。
完全にお荷物の女の子を抱えて初めての任務に行かなくてはいけないなんて……。
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