第7話 冒険者組合の美人受付嬢
衛兵に案内されて来たのはそこそこきれいな洋館。こここそが神聖ユトリシア帝国の冒険者組合らしい。
俺の知っている冒険者組合は、もっと汚くて壊れかかっているような建物で西部劇のゴーストタウンの酒場みたいなもなんだけど……なんか違う気がする。どちらかと言えばドラキュラ伯爵が出てきそうだ。
ちょっとだけ怖い。うん。本当にちょっとだけ、ほんのちょっとだけ怖いだけだ。決してビビっているのとは違う。断じて違うからそこだけは理解してほしい。
俺がそんな感じで冒険者組合の前で突っ立っていると、4人組パーティーの冒険者が何の躊躇もなく入っていく。
俺はその後に続いてすり抜けるように冒険者組合の中に入っていく。4人の冒険者に紛れて冒険者組合の中に入ったおかげで変に注目されることもなく侵入することに成功したようだ。
冒険者組合の中はこれから任務に行く様子の冒険者たちの活気に満ちた声と任務から帰還した様子の冒険者たちの疲労感と達成感に満ちた声が混ざり合って、何とも言えない独特の雰囲気を作り出している。現代日本で例えるならば……と思ったけども例えようがない。そんな感じだ。
俺は、とりあえずクエスト受け付けカウンターのような所にいる女性に声をかけてみることにする。この行動に移るまでに1時間ぐらいかかったのは気のせいだろう。
「あの~すみません。冒険者になりたいんですけど……」
その瞬間冒険者組合中の視線が俺に向けられる。その視線はとても心地の良いものとは言えない。むしろ珍獣を見るような好奇の視線がグサグサと刺さってくる。
そんなに何が珍しいのやら?
「すみませんが……冒険者になれるのは数えて15歳になってからでして……」
茶色の髪をボブカットと言うのだろうか? 肩口のあたりで切りそろえた涙ほくろがトレードマークの女性が申し訳なさそうに答えてくれる。
「28歳です」
俺は元の世界で積み重ねた年齢を答える。
いや、まだこの世界には生まれたばかりだから0歳なのか?
「本当ですか!? とてもそのようには見えないのですが……」
「そういわれても……」
免許証だってないし、マイナンバーカードもない。もはや戸籍すらない。年齢をどうやって証明すればいいのだ! 逆に俺がこの世界の俺の年齢を教えてほしいぐらいだ。
しかし、これは困ったぞ。異世界転生で冒険者になろうと思ってなれないパターンは知らない。テンプレじゃない。運命から外れてしまう……! 最大にして最強の武器がいきなり……!?
「その方、本当に28歳なのかは知りませんけど、実力は確かですよ。メイさん」
考え込んでいた俺の背後から聞いたことのある声が聞こえてくる。
「クリス様。お疲れ様です。この方とお知り合いなのですか?」
アリスの騎士クリスだ。アリスのお使いにでも来たのだろうか?
「僕も2日前に知り合ったばかりですけど討伐レベルA級の盗賊団『緑の大地』を1人で倒しちゃいましたから。これ、賞金首管理官の討伐証明書です」
今度はさらに強い目線が俺の幼い体に集まる。
「……えっと、冗談ですよね?」
「……真実です」
討伐証明書と呼ばれた書類を信じられないと言う表情で見つめるメイと呼ばれる女性。認めたくないとばかりに頭をかくクリス。
「……それで、冒険者になれそうですか?」
そんな2人の間に不安そうに入っていく俺。最悪なれなかったらアリスにでも頼んで騎士にでもしてもらおう。いつでも予備の案を持つのは大切だ。
「この功績ですと、冒険者組合規則第12条第3項特例第2項に当てはまると思います。冒険者組合長に確認を取りますので少々お待ちください」
メイさんがカウンターから出て建物奥にある階段を駆け上がっていく。
好奇と畏怖の視線を受けながら待つこと10分少々。
神妙な面持ちでいくつかの書類と白い少し大きめの袋を持って階段を降りてきたメイさん。ごくりとつばを飲み込む俺。
「ええっと……なんてお呼びすればいいでしょうか?」
カウンターに戻ってきたメイさんの第一声。
はい。名乗っていませんでした。すみません。
「羽佐間翔太です。好きに呼んでください」
「それではショウタさんと呼ばせていただきます。わたしはメイ・アスターです。このユトリシア冒険者組合本部の受付嬢をさせていただいております」
「よろしくね! メイさん!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。ショウタさんの審査ですが、冒険者組合長との協議の結果、盗賊団『緑の大地』の討伐は冒険者組合規則第12条第3項特例第2項に当てはまるとの見解になりました。ですので、Bランク冒険者として正式に冒険者登録していくことが可能です」
わーい! わーい! 異世界転生テンプレに沿って冒険者になれました。
「ありがとうございます」
「それでこれが今回の賞金首討伐報奨金になります。お受け取り下さい」
カウンターの上にゴトリと丸々とした白い革袋が置かれる。
口を縛っていた紐をほどいて中身を見れば金貨がパンパンに詰め込まれている。正確にどれぐらいの価値があるのか分からないけど、大金だということだけは分かる。だって黄金に光っているのだから。
「こんなにもらえるんですか?」
「はい。お一人で討伐されたということですので、すべてショウタさんの物となります。冒険者登録料と手数料を引いて全部で100万ゴールドです」
やっぱり、いまいち価値が分からないとありがたみが湧いてこない。これが1000万円とかだったら今すぐこの場で喜びの舞を踊るのだが。
「これで帝都郊外に家が買えますね。師匠!」
まだ何か用事があるのか、俺の横で待っていたクリスが単純明快に価値を教えてくれる。家が買えるってことは、1000万円よりも価値があるということではないだろうか? ……そんなことより最後に何か聞こえた気がする?
「師匠?」
「はい! 師匠に絶対的有利な状況から敗北したときについていくならこの人だと思ったんです!」
今、こいつに尻尾があれば激しく振り回されているのは間違いない。忠犬クリスという感じだ。
「いや、俺、君が俺の弟子になる許可をした記憶ないんだけど!?」
弟子をとるなら守ってあげたくなるような女の子って俺決めてるから。断じてこんな9㎜ぐらいのバリカンで剃ったかのような坊主頭をしている褐色の肌の男子を弟子にする気は毛頭ない。
「許可は受けていません。僕が決めました」
そんなにキラキラした瞳で見られても無理です! 女子のがいいのだ。
「いや、無理!」
「どこまででもついていきます」
「絶対ついてくるな!」
かわいい女子ならまだしも、なんで男を手取り足取り教えなければならないのだ。
「分かりました。また明日きます!」
なにが「分かりました」だ! 何も分かってないだろ、それ!
「あのー、ショウタさん。組合の説明した方がいいですか?」
メイさんが申し訳なさそうに俺に声をかけてくる。メイさんみたいな人が弟子になりたいってことなら大歓迎なんだけどね! あんなことやこんなことを手取り教えてあげちゃうのだ。……冷静に考えてみれば俺が教えられることなんてないような気もするけど。
「すみません。説明してください」
「分かりました。どこから教えた方がいいですか?」
「最初から最後まででお願いします」
こうして俺はメイさんに手取り足取り隅々まで教えてもらうことになったのだ。
なんか今更だけどエロいな、この言い方。
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