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第6話 皇女様と友達宣言!

 馬車に揺られること2日。

 小さな丘が連なる草原地帯に突如として現れたばしゃのは、圧倒的存在感を示す巨大な壁。

 アリスの説明によると、これこそが帝都・アルカディアの象徴『絶対守護の壁(イリオス・ティホ)』らしい。

 これは、巨人と戦う有名漫画に出てくる城壁そのものだ。

 

 そんな『絶対守護の壁(イリオス・ティホ)』の下の城門では、商人や旅人のような恰好をした人や馬車が長蛇の列を作っている。城門をくぐる者たちを衛兵が検査しているのだ。

 ネズミの国のテーマパークにあるアトラクションばりの行列は、俺の予想では俺たちの番が来るまであと120分は並ばないといけないだろう。憂鬱極まりない。ファストパスとかないのだろうか。

 

 そんなことを考えていた俺の予想とは裏腹に、馬車は行列には並ばずにどんどん進んでいく。もしもこれが現代日本だったなら並んでいる人全員がこちらを睨んでいることだろう。

 なんだか、まるで列に並ばないお隣の国の住人になった気分だ。


 そして城門にたどり着くと、衛兵の詰め所から出てきた衛兵に御者の代わりをしている騎士クリスが声をかける。

 すると、馬車の中からでも分かるぐらい慌てた様子の衛兵が詰め所の中に戻っていく。


 そして、高らかにラッパが鳴り響く。

 そのラッパの音に合わせるように詰め所の中から衛兵たちが走り出てくる。


 行列に並ばずに来た俺たちを衛兵が取り押さえに来たのかと思ったが、どうやら違うみたいだ。

 なぜなら、衛兵たちは馬車の前に馬車が通れるぐらいの間を空けて2列に並んでいる。まるで馬車の通り道を作っているかのようだ。


「第3皇女殿下アリス・オブ・ユトリシア様のお通り!」


 城門全体に響き渡るような声がかけられると、衛兵たちが一斉に手に持つ槍をそれに向かって掲げる。

 馬車は、その間を当然のように進んでいく。

 列に並んでいた商人や旅人たちは睨むのではなく、羨望のまなざしで俺たちを見ている。


 俺はこれと似た状況を見たことがる。

 高校の修学旅行で行ったイギリスのバッキンガム宮殿でだ。エリザベス女王が宮殿に入っていくときもこんなような感じだった気がする。

 アリスも現役バリバリの皇族なのだ。列に並ぶわけないのだ。これぞまさに皇族ファストパスと言うのだろうか。


 馬車は、通行人が通る門とは別の豪勢な門をくぐると歩みを止める。

 止まった馬車の扉が少し豪勢な鎧を着た衛兵に開けられると線の細い老齢の男が1人跪いて頭を垂れている。


「ご機嫌麗しゅうございます。アリス皇女殿下」

「ご苦労です。イスカリオテ公爵。面をあげなさい」


 イスカリオテ公爵と呼ばれた男は、アリスの許可を得て初めて顔をあげる。

 そして、視界の端に俺を捉えたとたん、苦虫をつぶしたかのような表情をする。


 人の顔を見て顔をゆがめるなんてなんて失礼な奴だろうか? 一言、言ってやろう。


「皇女殿下の馬車に盗賊がおるぞ! ひっ捕らえよ!」


 俺が一言声をあげる前にイスカリオテ公爵の怒声が上げられる。


「待ちなさい! 違います!」


 アリスがすぐさま声を上げるが、イスカリオテ公爵の声に即座に反応した衛兵たちが俺の両脇を無理やり抑えると、馬車から本当に引きずるように降ろされる。


「おい! 放せっ!」


 こんな衛兵に抑ええつけられたぐらいでは合気道と柔術の知識とチートスキル『想像者(クリエイター)』を駆使すれば一瞬で抜けられる。


 だか、俺は言葉とは裏腹にほとんど抵抗しない。転生したおかげで某国民的推理漫画の主人公みたいに見た目は子供、頭脳は大人になっているので、この状況を一瞬のうちに理解する。

 簡単に言えば、ここで俺が暴れたらアリスの立場が悪くなるということだ。俺は、大人しく耐えるのが正解だろう。


「観念したか。盗賊め。子供の格好をしていようとも儂はだませんぞ! 儂が直々に首を跳ねてやる!」


 イスカリオテ公爵の爪楊枝のような右手に衛兵から渡された直剣が握られる。

 流石にこれは抵抗しないと、マジで死んでしまいそうだ。


「やめなさいっ! イスカリオテ公爵!」


 俺が合気道の技を応用して片腕ずつ拘束された腕を振りほどこうとしたのとアリスの怒気をはらんだ声がその場を包んだのはほぼ同時だった。


「何をおっしゃられているのですか? アリス皇女殿下!?」


 突然の怒声に固まるイスカリオテ公爵。その姿をその目に留めながらゆっくりとアリスが馬車から降りてくる。


「彼を離しなさい!」


 ゆっくりとタラップを降りてくるアリスに気圧されるように俺を拘束していた衛兵が後退る。戦士にはほど遠い美少女のアリスに屈強な衛兵が気圧されているのだ。


「どうされたのですか? 皇女殿下!?」

「どうもこうもありません! あなたは何をしているか分かっているのですか!? イスカリオテ公爵!?」


 俺への拘束が完全に解かれたことを見たアリスがイスカリオテ公爵に近づいていく。

 イスカリオテ公爵は直剣を振り上げたままその場でガクガクと震えいている。俺を捕まえたときの勢いはどこへ行ったのやら。


「しかしっ……!」

「しかしではありません! 公爵! あなたは私の命の恩人であり、客人に剣を向けているのです!」

「何をおっしゃっているのですか? どう見ても盗賊ではないですか!?」


 確かに公爵の言うように俺の服装は傷だらけの胸当て、所々塗装の剥げた籠手、ボロボロの毛皮の腰巻き、左右非対称の具足に野ざらしの頭、という某国民的モンスターハンティングゲームの初期装備以下の出で立ちなのだ。

 盗賊に見えても仕方がないかもしれない。むしろ盗賊から剥ぎ取った装備なのだから盗賊そのものだと言ってもいい。


「盗賊はあちらに縛っています! 彼がいなければ今! ここに!! 私はいません!!! 今すぐ剣を納めなさい!」

「……ハハッ! まさか……!」

「納めなさい!」


 視線を彷徨わせる公爵に激しい剣幕のアリスが詰め寄っていく。

 そして、公爵は力なく直剣を下ろすと衛兵に渡す。


「ごめんなさい……! 命の恩人に……こんな……」


 アリスは公爵に下がっているように命じると俺に向き直る。


「いや、別にアリスが謝ることじゃないし、俺も怪我してないから気にしないから」


 ここはギャルゲーだったら好感度アップが望める場面だ。ギャルゲーマスターの俺としては完璧な選択など朝飯前だ。


「そんなこと言われると……また1つ借りができてしまいました。この借りはいつか必ず返します」

「借りだなんて大袈裟な。友達なんだから当然でしょ!」

「と、友達……!」


 アリスが小さく「友達」という部分を繰り返す。

 これは、選択肢をミスったか? まだ、皇女様相手に友達宣言は早すぎたのか!?


 しかし、俺の不安をよそに今まであまりの人付き合いをしてこなかった俺にも分かるほど、アリスは愛想笑いではなく心の底からの笑顔を見せる。


「そうですね! ショータと私は友達です!」

「うん! 友達!」


 いや、良かった。異世界転生テンプレのハーレム展開に最初から躓くかと思った。


「友達!」

「友達!」

「と、も、だ、ち!」

「と、も、だ、ち!」


 俺はアリスとなぜか交互に「友達」を連呼し合う。まるでマンガの主人公たちが友情を確かめ合うみたいで気恥ずかしい。


 10回は友達を連呼したアリスは満足したのか、その様子を呆然と見ていた騎士クリスに上機嫌で声をかけると馬車に乗り込んでいく。


「ショータ! 盗賊たちは私が賞金首管理官に引き渡しておきますから、報酬は冒険者組合で受け取ってください」

「冒険者組合の場所分かんないんだけど!」


 アリスは「あっ! 忘れてました」と手を叩く。


「そこの衛兵に案内してもらってください。私はそろそろ行かないといけないので……すみません」

「いいよ。問題ないよ。気をつけてね」

「はい。そちらこそ」


 アリスを乗せた馬車がゆっくりと発進していく。俺が大きく手を振ると、アリスも馬車の窓から身を乗り出して振り返してくれた。


 気がつけばイスカリオテ公爵も姿を消していた。

お読みいただきありがとうございます。


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