第5話 チート能力に感謝を
前回のあらすじーテンプレ的な展開でヒロインに会いました
「ショータ、アリシアの鏡の見方分かりますか?」
「なんとなくたけど……」
開いたアリシアの鏡は、RPGなどのジャンルでよく見るようなデザインをしている。これならある程度の見方は分かりそうだ。
上から名前、種族名に今装備している装備品の名前。
そして取得済みのスキルだ。
俺のスキル欄にはたった1つだけスキルが書かれている。
その名も――『想像者』
ここまでゲームみたいならば、スキル名をタップすれば詳細が出て来る気がする。ゲームなら製作者の趣味が盛り込まれた面白み溢れる詳細が読めるはずなのだ。
俺はワクワクしながらスキル名をタップする。すると、細かいスキルの説明が書かれた新たなウィンドウが表示される。予想通りだ。
『想像者』のスキル詳細を読むとそのチートぶりが際立っている。
『14個存在するエクストラスキルの一つ。スキル獲得者の想像を具現化し、世界を想像するスキル。ただし、エロは具現化できない』
ヤバすぎだろ!
最後の一文が残念だけど、考えただけでありとあらゆることができるということだ。だから、さっきの盗賊との戦闘も知識しかない俺が華麗に技を繰り出せていたのだろう。
なんて、便利なスキルなのだ!
さらに、スキル詳細をスクロールするとスキルツリーの様なものが表示されている。本当にゲームと同じような感じだ。
『想像者』のスキルツリーは初期の部分だけが明るい文字で書かれていて、その下に薄い文字で次の開放可能なツリーが書かれている。他は真っ黒で枠があることだけだ。ツリーを開放するたびに分かるようになっていく仕様だろう。
解放されているスキルツリーは3つある独立したツリーのそれぞれ一番上だけ。
『身体操作Ⅰ』『魔法操作Ⅰ』『物体操作Ⅰ』
これぞ初期解放ツリーと言う感じだ。多分、『身体操作Ⅰ』のおかげで思うように技を繰り出せたのだろう。
「スキルスロットはいくつありますか?」
それぞれのスキルツリーの詳細を読もうとした俺の目の前に、アリシアの鏡をすり抜けてアリスの整った顔が現れる。
「うわっ! な、何?」
ちょっと、驚きすぎて変な声が出てしまった。実家でネット小説を書きまくっていた俺にとって、3次元美少女の顔がここまで近くにあったことは記憶の限りない。
そして、近づいたアリスからバラのような香りが……クンカクンカ。
「……えっ! 私、臭いますか!?」
「違う、違う。全くの逆でいい匂いだな………ってそんなことじゃなくて、なにか言った?」
あまりにも香しいスメルのせいで体が勝手に動いてしまった。画面の女の子は匂いはないからな。
「ええっと。あの、スキルスロットはいくつあるのかなと思いまして……答えたくなかったら答えなくてもいいですけど……個人情報ですし……」
……スキルスロット? そう言えば、確か盗賊団のリーダーがそんなことを言っていた気がする。
そんなものどこに書いてあるんだ?
確かにここまでゲームに近いと獲得スキルをはめ込むようなスキルスロットがあってもおかしくない気がする。
「どうすれば、それ分かるの?」
「左上に表示されている種族名をタップすれば見られます」
「了解」
俺は教えられたとおりに俺の種族『人造人間』をタップする。
すると、正六角形が10個並ぶウィンドウが現れる。
「できましたか? そこに並んでる図形がスキルスロットの数です」
「なるほど。これがスキルスロットのなのか」
「そこに獲得したスキルを埋め込んで使うんです。ちなみに私のスキルスロットの数は3個です」
もはやスキル制RPGとほとんど同じだ。これは、アリシアが世界を作る時にめんどくさがってゲームを参考にした線が濃厚だ。流石、怠惰神だ。
「俺のスキルスロットの数は10個だな。スキルで8個消費されちゃってるけど」
さすがにチートスキルだけあって、スキルスロットの占有率が高い。ほとんどスキルスロットが使われてしまっている。
しかし、アリスのスキルスロットよりも俺のスキルスロットは格段に多い。
まぁ、皇女様のアリスはどう考えても鍛えていないだろうし、そこまでスキルスロットを必要としていないのかもしれない。
「……ウソっ……!」
アリスがあり得ないという表情で固まっている。
俺は、アリスの驚きを現した顔を見て1つの結論が思い浮かぶ。
まさか……スキルのみならず、これもチート級なのか!?
「もしかして3個ぐらいが平均的な数……?」
「……いえ、普通は1,2個です。3個もあれば王宮上級騎士になれます。私が知る限り5個が最大だったんだですが……どうやったのですか?」
まさかのスキルスロットもチート確定だったみたいです。
しかも性能は、俺の想像の斜め上を飛び越えていくほどだ。だって、普通の人の5から10倍なのだ。
まぁ、100倍とか1000倍とか、もはやバグとかいうレベルではなかったのが唯一の救いかもしれない。そんなのだったら、流石に誤魔化しようがない。
「えーっと……記憶がないので分かんないかなぁ……」
うん。記憶喪失設定がこんなところでも役に立つとは。
「確かにそうですね。すみません」
ここまで来たら身体能力もチートなのではないだろうか?
「身体ステータスとかないの?」
「シンタイ……ステータス……? 何ですか? それは?」
うーん。アリシアは『人造人間』は人間よりも身体的優れているとか言っていたから、どこかに身体ステータスも表示されると思ったけど、どうやら筋力値や敏捷値は隠しステータスのようだ。
さっきの盗賊との戦闘から察するに身体ステータスもほぼ間違いなくチート級な気がする。
「ううん。何でもないよ。気にしないで。それよりも、もう一つお願いを聞いてほしいんだけど……いい?」
「……はい。問題ないですよ」
お願いと言ってもエロいことではない。断じて違う。
「えーっと、この辺の街に行きたいんだけど案内してもらえない?」
これから世界を救うためにも、テンプレ通りに物語を進めるためにもある程度大きな街にあるであろう冒険者組合で冒険者になるべきなのだ。
異世界転生させられた俺にとってテンプレは最大の武器だ。テンプレ通りに進められれば最終目標である境を救うこともできると俺は考えている。だって、異世界転生俺TUEEEEE系なろう小説ならそうなるから。そう! テンプレとは運命なのだ!
新たなテンプレ的展開の為にもまずは冒険者にならなくては!
「いいですよ。私たちもここから一番近い街・アルカディアに向かっている途中だったのです」
アリスは「もちろんです!」と満面の笑みで手を叩く。
その姿が、また可愛らしすぎて……おじさんの目にはまぶしすぎます。
「本当!? ありがとう。恩に着るよ……いてっ!」
「いえいえ。助けていただいたのは我々ですから……いたっ!」
俺の下げた頭が同じように頭を下げたアリスの額とぶつかる。
「ごめん、大丈夫?」
「こちらこそすみません」
見合わせた俺とアリスの声が重なる。
「俺たち気が合うね」
「私たち気が合いますね」
今度は言葉まで瓜二つだ。
「「フフッ……アハハハハハ!」」
そしてまたも同じように笑い声が重なる。
「それじゃあ、行きますか」
「そうですね。行きましょう」
ひとしきり笑い合った俺たちはアリスの騎士であるクリスを起こすと、気絶したまま放置していた盗賊たちを縄で縛りあげると死んだ騎士たちが乗っていた荷馬車に放り込んでいく。
そして、御者が逃げていなくなっていた荷馬車をアリスの乗っていた豪華な馬車につなぐ。
そのアリスの馬車はクリスが御者となって帝都・アルカディアに向かって進み始めた。