第4話 バーミリオンの瞳の皇女様
前回のあらすじ――盗賊を倒して服を手に入れた翔太は、変態露出狂から盗賊もどきに進化しました。
「こんにちは。とりあえず、剣を下ろしてもらえませんか?」
現在、俺の喉元には鋭いロングソードの切っ先が突き付けられている。
その切っ先の先には、若い騎士が1人と騎士の背中に守られるように隠れる美少女が1人。
どうしてこんな状況になったのか俺にもよく分からないが説明しよう。
まず、怠惰神との連絡が取れなくなった俺はこの世界の状況を知るためにも人間に会おうと思ったのだ。
残念ながら盗賊は全員気絶してしまって起きそうにないし、馬車を守っていた騎士たちは全員死んでいる。
草原の真ん中のここでは、なかなか通行人も現れないので途方に暮れているときに俺は思いついたのだ。
馬車の中に奴隷少女かお姫様がいるのではないかと。
だって、異世界転生のテンプレなら盗賊を倒したら奴隷少女かお姫様が仲間に必ずなる。
そう思って馬車のドアを開けたら喉元にロングソードが突き付けられたのだ。
「盗賊め! 姫様に指一本でも触れてみろ、お前の胴と頭を切り離してやる!」
これは、俗に言う勘違いというやつではないだろうか? 確かにそう思ってしまっても仕方の無い状況なのは間違いない。着ている服は盗賊の物そのままなのだ。
「俺は盗賊じゃないです。ただの通行人です」
間違ってはいないはずだ。服を手に入れるために歩いていたのだから。
「そんな言葉が信じられる訳ないだろう! ただの通行人が盗賊に襲われている馬車に入ってくるわけない!」
「そんなこと言われましても……ねぇ。盗賊は全員倒しちゃったんだよなぁ……」
おかしいなあ。俺の知ってる異世界転生テンプレ作品は盗賊倒したら無条件で可愛い女の子が仲間になるんだけど。
「そんなの信じられるか! アイツらは討伐レベルA級なんだぞ! お前みたいな子供に倒せるわけ無いだろう!」
「まぁ、俺が何言っても信じてもらえないみたいなので、論より証拠でしょ。馬車の外、見てみれば俺のこと信じてもらえると思うんだけど」
「そんな言葉に僕は騙されないぞ! 馬車の外を見る俺を後ろから斬りかかるつもりだろ!」
確かにそれはあり得るな……って関心してる場合じゃないな。これは困った。どうやったら信じてもらえるのだろうか?
「クリス! 剣を収めなさい! この人の言っていることは本当です!」
信頼を勝ち取るために悩む俺に思わぬところから助け舟が出される。
なんと騎士の後ろに隠れている美少女からだ。
「しかし……!」
「もう1度言いいます! 剣を収めなさい! これは命令です!」
しかし、それでも若い騎士は剣を収めない。その瞳には「姫様を守る」と言う強い信念が宿っているように見える。
そしてその強い信念に突き動かされるように騎士の体に力が込められ、右手に持ったロングソードの切っ先が俺の喉元を突き刺すように前に進んでくる。
「クリス! やめなさい!」
攻撃の起こりを敏感に感じ取った美少女が叫ぶがもう遅い。攻撃のモーションはもう本人では止めることはできない所まで来ている。
仕方なく俺は最短距離でロングソードの腹を左手ではたいてロングソードの鋭利な切っ先を喉に突き刺さるコースからずらす。
「なっ……!」
そして、俺はそのまま驚く騎士の突き出されてた右腕を巻き込むように両腕で掴むと騎士に背を向ける。そのまま両膝を床につけながら騎士を背負うと、突きの勢いまでも利用して馬車の外に投げ飛ばす。
「外で頭を冷やしなよ」
今俺が繰り出したのは、しゃがみ込み一本背負と呼ばれる柔道の技。スポーツとしての柔道では一本になりにくいという理由からあまり使われないが、これは試合ではない。
コンパクトに相手を投げ飛ばせ、スピードもあるこの技なら狭い馬車の中でも使いやすい。
「……グッ……カァハァ……!」
地面よりも50cmは高い馬車の上から投げ飛ばされ、地面に背中から打ち付けられた若い騎士は、肺に入っていた空気が全て押し出されたのだろう、呼吸ができず陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと口を動かしている。
「私の騎士が無礼をはたらき申し訳ございません」
騎士の背後にいた美少女が中世ヨーロッパの貴族が来ているような、コルセットをつけないと入らないドレスのスカートの裾を広げ頭を下げる。
「いえいえ、彼は役目を全うしただけだと思いますよ」
「そう言っていただければ助かります。私は、アリス・オブ・ユトリシア。神聖ユトリシア帝国の第3皇女です」
燃える炎のような真っ赤なルビー色の髪を色とりどりの宝石でまとめた皇女様は、俺が今までで見たことのある女性で最も美しいと言う言葉が似合っている。
髪の毛よりも少し薄いバーミリオンの瞳が俺を品定めするように小さく動かされる。
「俺は羽佐間翔太です。よろしく!」
貴族のお姫様かと思っていたけど、まさか皇族だったとは……これは、だいぶ素晴らしい展開だ。
「ハザマ、ショータ? 珍しいお名前ですね。冒険者の方ですか?」
「冒険者ではないです。強いて言うなら通行人ですかね」
なるほど。この世界には冒険者と言う職業があるらしい。世界を救うにはいい職業だし、異世界転生のテンプレといえば冒険者だろう。第一目標は冒険者になることにしておこう。
「どこから来られたのですか?」
キタコレ! 出身地の質問。転生したときから必ず来るだろうと予想していたけど、ここはやっぱり東の果の田舎から来た設定にするべきか、記憶喪失でいつの間にかここにいた設定にするべきか悩むところだ。
「東の方の田舎に住んでいたんだけど記憶がなくて……気がついたらここにいたんだよ」
フッ……俺は欲張りだからなここは両方とも使わせてもらおう。この方がなんだか得した気分になれるってもんだ。
「記憶がないのに……東の方の田舎に住んでいた記憶はあるんですね?」
やっちまった! 変に設定を盛り込みすぎたようだ。完全に怪しまれていいる!?
「い、いや、なんとなく東の方に住んでたような気がね、するんだよね。うん。気がする」
「そうなんですか。他に何か覚えていないんですか? 盗賊に襲われていたところを助けていただいたのです。私にできることなら何でもさせていただきます。一応、第3皇女なのである程度の無理はききますので」
な、何でもしてくれるんですか!? あんなことやこんなこともしてくれるってことなんですか!? グヘヘヘへ。
「とりあえず、ステータスとかの見方とか教えていただけませんか?」
クソ! チキンな自分が情けないぜ。これほどまでにチキンなことを悔やんどことは今まで1度もない。
だいたいの異世界転生物なら鑑定スキルを持っていないなら、ゲームのステータス画面みたいなものを見れる道具や仕草があるはずだ。
「ステータスですか? ああ、アリシアの鏡のことですね。それは、こうやって出せますよ」
皇女様は右手で空間に丸を書くと、その上にスラッシュを引くような仕草をする。
俺も見様見真似でやってみると、俺の想像通りのステータス画面が現れる。
「ありがとうございます。アリス様」
半透明の青色の画面にはなぜか日本語で文字が書かれている。
そう言えば、言葉も通じている。
まぁ、だいぶ、いや、結構不思議だがそこはアリシアがなんとかしてくれているのだろう。なんたって一応神様だし。
「ショータ。『アリス様』ではなくて『アリス』って読んでもらって構わないですよ。だってあなたは命の恩人なのですから」
「……いや……でも、俺なんかが呼び捨てで呼ぶなんて……恐れ多いのでは?」
俺の前世では、女の子の名前を呼び捨てで呼ぶことなんてあり得ない状況だった。
さらに今回は皇族なのだ。最初からぶっ飛ばしすぎではないだろうか?
「大丈夫です。私、妾の子ですから。お父様も私のことなんて気にしていません。だから『アリス』って気兼ねなく呼んでください」
ここまで言われては、呼ばないわけにはいかないだろう。ここがほとんどない勇気を振り絞るときだろう。
「わかったよ……ア、アリス!」
「よろしくお願いします! ショータ!」
太陽のような笑顔で微笑むアリスを見ると、勇気を出して見てよかったなと思える。
やっぱり異世界転生は悪くないね!
お読みいただきありがとうございます。
赤毛のお姫様ってかわいいと思いませんか? 作者は、金髪碧眼のお姫様よりかわいいと思っています。
こんなキャラクターを出してほしいとかご要望がありましたら、可能な限り努力いたしますので感想欄にお書き下さい。
今後ともよろしお願いします。