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第3話 チュートリアル戦闘

前回のあらすじ――トラックに轢かれて死んだと思っていたら、女神様が現れて異世界転生を半ば強制的にさせられました。

 そうして俺は異世界転生を果たしたのだ。


「顔はいいとしても、これはないな」


 湖面に映るのは銀色の長い髪、オッドアイ、童顔という幼女のような外見には言いたいことは色々あるが、これぐらいでは、広い心の持ち主である俺にとっては些細なこと。しかし、そんな俺にも許容できない大きな問題点が一つ。


 それは、服を着ていないこと。ようするに全裸。生まれたままの姿だという点だ。いやまぁ、確かにこの世界に生まれたばかりなので間違ってはいない。が、うん。これはない。


 流石にこの格好では街に行って冒険者組合にも行けないし、そもそもこの姿でうろついていたら、ただの変態露出狂になってしまう。

 たまたま周囲に人がいなかったから良かったものの……これでは世界を救う前に牢屋行きだ。


「アリシアー! 見てるんだったらなんとかしてくれー!」


 俺はとりあえず空に向かって助けを求める。

 神様がいるならやっぱりお空の上だろう。


(なんですか!? そろそろ寝たいんですが!)


 俺の頭の中に直接声が響いてくる。


「良かった。やっぱり叫んで正解だったな」


 とりあえず連絡が取れることが確認できた。


(用がないんだったら、切ります。さようなら)


「いやいや、待って、待って! 大事な用があるから、切らないでください!」


(転生早々になんですか? 要件だけ簡潔明瞭に手短に言ってください)


 なんなんだ。俺って無理やり転生させられたはずなのにこの扱いってひどくない? この女神様投げやりにもほどがあるだろ。


「服がなくて困ってるんですけど」


(……あっ! 忘れてました)


「なんとかしてもらえません?」


 投げやり無責任女神様でも神様は神様だ。服ぐらい簡単にお恵みくださるだろう。なんたって人間一人を転生させられるぐらいだ。


(無理です)


「なんで!?」


(あなたを転生させるので力を使いすぎました。物質的干渉はしばらく出来ません)


 ウソでしょ! 俺、このまま全裸で生活しなきゃいけないの!?

 既に異世界転生のテンプレからずれてしまっている気がする。


「服の作り方ってどんな感じだっけ?」


 無人島サバイバルギャグコメディー作品を作るときに読んだ『1週間で覚える無人島生活必須技術』に書かれていた植物から服を作り出す方法を記憶の海から手繰り寄せる。


「とりあえず、長い草か大きな葉っぱを見つけないと……」


 しかし、俺がいる場所は小さな丘が連なる草原地帯。見渡す限り芝生が広がる牧草地だ。

 湖以外にあるのは放置された切り株だけだ。残念ながら服になりそうな草や木はない。


(まぁ、今回は私のミスなので服の調達を手伝ってあげます)


「本当ですか! ありがとうございます!」


(まずは、湖に背を向けて歩いてください)


「了解です」


 俺は言われた通りに進んでいく。

 すると小さな丘を超えた先に、緑の大地に伸びる1本の道とその中央に群がる集団が見えてきた。


(人だかりに向かっていってください)


「いやいや、ちょっと待って下さい! 全裸なんですけど!」


 何故わざわざ全裸で人前に出なければならないのか!? 俺にだって人並みの羞恥心ぐらいある。


(あの群衆をぶちのめして服を奪うんですから、近づかないとどうしようもないでしょう)


 異世界転生していきなり悪落ちですか!? 世界を救うんじゃなかったですか! もしや、アリシアって邪神なのか!?


(失礼ですね。私は正真正銘のいい神様です)


 なんだか胡散臭いが、そんなことよりも転生したこの状況でも心を読めるのかよ。


(もちろんです。神ですから)


 だったら、さっきまで俺が喋っていた意味はなんなんだ!? 独り言を喋る頭イカれたやつみたいじゃないか!? なんで教えてくれなかっだよ!


(聞かれませんでしたから)


 さすが、性悪神様だ。


(そんなことより、あいつらをよく見てください)


 上手く話をそらされている気がするが、服がないのはマジで困るので言われた通りに群衆を観察してみる。


 そして、俺はあることに気がつく。


 人数の多い方が劣勢の集団が固める豪華な馬車を取り囲んでいるのだ。

 まるで盗賊に馬車が襲われているかのような構図だ。まさにテンプレ展開と言うやつだ。


「まさか、これって盗賊を倒すイベント!?」


(やっと気が付きましたか。分かったなら早く倒してください)


 うぜぇー。

 よくいるよね。自分は何もできないのに他人には上から目線のやつ。

 俺は、大人なのでここはグッと堪えて従いますけどね。


 しかし、ここで俺はあることに気がつく。

 盗賊は剣や槍を持っているが、俺は全裸なのでもちろん何も武器を持っていないのだ。

 もちろん、格闘恋愛小説を書いていたので格闘技の本はある程度読んだことはあるので、素手でも戦えるはずだ。


(安心してください。種族差があるのであのぐらいなら簡単に勝てるはずです)


 種族差? 俺も盗賊も人間にしか見えないのだが。


(いえ、あなたは人間ではなく、人造人間(ホムンクルス)です。その証拠に、あなたには性別がありません)


 股間に視線を落とせば、確かにそこにあるはずのものがない。顔も中性的だ。なんだか不思議な感じだ。

 まぁ、性別があろうが無かろうが服を着ていなければ変態露出狂に変わりない。


「そんじゃ、いっちょやりますか」



……――……――……――……――……――……――……――……――



 俺は堂々と丘を下っていくと、盗賊の頭だと思われるスキンヘッドに入墨をした男に声をかける。


「ねぇ! 君達、服をくれないか?」


 もちろん俺は紳士なのでいきなり殴りかかるなんてことはしない。人間対話ができるのだ。


「ああん? なんだお前? この状況分かってんのか?」

「もちろん理解しているよ。盗賊(君達)が馬車を襲ってるところでしょう」


 ガンを飛ばしてくる盗賊に俺はサラリーマン時代に培った営業スマイルを振りまく。

 俺に恐怖心はない。なぜなら、これはテンプレ的展開。俺が勝つことが決まってるはずだ。要するにチュートリアルバトルなのだ。


「ガアハアアアアア! よくわかってんじゃねぇか。だったら失せな! 俺も全裸の嬢ちゃんを痛めつけるほど落ちぶれてねぇからな!」

「それはできないよ。こっちにもこっちの事情があるんだ。服をくれれば悪いようにはしないから、お願いします」


 俺は腰を90度に折る。

 こっちがお願いをしているのだ。相手が誰であろうと頭を下げるのが常識だ。


「おい、お前ら聞いたか? 服をくれれば悪いようにしないんだとよ」


 スキンヘッドの声を聞いた盗賊たちが下品な笑い声を上げる。


「それは、約束します。だから、服をください」


 俺はもう一度深々と頭を下げる。


「お前、俺様たちなめてんのか!?」


 唐突に振るわれる暴力。

 か細い俺の体は、盗賊の剛腕によって弾き飛ばされ地面を転がる。


「これは、交渉決裂って言うことでいいのかな?」


 俺は、何事もなかったかのように立ち上がると、皮膚についた砂を軽く払う。

 アリシアの言っていたことは本当だったようで、今のパンチが痛くも痒くもない。


「ほぅ、今ので倒れねぇとはたいしたもんだ。これなら少しは楽しめそうだな」

(かしら)! 嬢ちゃんはあっしが最初に楽しんでもいいでやんすか?」


 湾刀を持った軽装の顔色の悪い男がスキンヘッドに声をかける。


「カースか。確かお前の趣味はあんなもんの少女だったな。よし。お前が1番にヤッていいぞ。ただし、あっちの分け前はその分減らすからな」

「ありがとうございやす。グヘヘヘ。久しぶり過ぎて輪姦(まわ)す前に壊しちまうかもしれねぇやんす」


 うわぁ。どこの世界にもあるんだなロリコンって。ロリコンは2次元だけにしなきゃいけないんだぞ。


 盗賊たちはカースと呼ばれた男を戦闘に武器を片手にジリジリと近づいてくる。

 そして――


「嬢ちゃん一緒に楽しもうでやんす!」


 と言いながらカースが頭上に掲げた湾刀を振り下ろす。

 俺は、カースの懐に武術の基本的な足さばきの1つである『入身』で近づくと、そのまま腹部に裏突きを打ち込む。


「グヴェ!」


 きれいに鳩尾に決まった拳がのめりこむと、カースはそのまま苦悶の表情のまま意識を失う。


「やるなぁ、嬢ちゃん。俺達の仲間になるかい?」

「無理な相談かな。俺は世界を救わなければいけないみたいだから」

「そうかい。だったらお前ら気合入れてけ!」

「「「へい!」」」


 威勢のいい返事と共に次々と盗賊たちが俺に襲いかかってくるが、その攻撃は1度たりとも俺に到達することはない。

 あまりにも雑で遅い。そして連携がなっていない。


 俺は軽やかにステップを踏むように避けていく。避け際に痛烈な一撃(クリティカルヒット)を入れることも忘れない。

 そして、気がつけば30人はいた盗賊たちは頭と呼ばれたボスを残して全員倒れて動かなくなっている。


「やっぱりこいつらじゃ相手になんなかったか。だけど、俺様とこいつらを一緒にするなよ! 俺様はなんたってスキルスロットを3つ持ってんだ」

「あっ、そうなんだ。へー、それってすごいの?」


 スキルスロットってなんだ? そいつが3つあるとすごいんだろうか?


「おい、おい。強がらなくてもいいんだぜ」

「まぁ、何でもいいよ」

「余裕だな。これならどうだ。ゴロツキー。俺様の名前だ。知ってんだろ!」

「知らない」


 有名人なのかな? それとも、勝手に有名だと思っちゃってる残念な人なのかな?


「どんだけ世間知らずなんだよ。泣く子も黙る帝国10大盗賊が1つ『緑の大地(グレイスランド)』の頭領、破壊の(クラッシャー)ゴロツキー様だぜ」

「へー、そうなんだ」


 どうやら、有名人のようだ。

 だけど、俺には関係ない。所詮、チュートリアルバトルの敵だ。


 俺は、自慢げに立つゴロツキーまでの距離約5メートルを古武術の歩法『二歩一撃』の要領で瞬時に詰める。

 突然肉薄してきた俺にびっくりしてゴロツキーがのけぞったところを、目一杯の力を込めた正拳突きで殴り飛ばす。

 防御すら間に合わなかったゴロツキーは、ボールのように地面を跳ねながらものすごい勢いで俺から離れていく。


「やりすぎたかな?」


 10メートルほど離れたところでやっと止まったゴロツキーが起き上がってくる様子はない。


「まぁ、いっか」


 俺は、地面に転がる盗賊たちから気に入った服や剣を剥ぎ取っていく。ついでに単位はよく分からないが、お金だと思われるコインもポケットにしまっていく。

 これぞまさにドロップアイテムというものだ。


(服も手に入れられたということで私は寝ます。おやすみなさい)


 戦闘終了と共に脳内に響く女神様の声。


「いや、まだ聞きたいことあるんだけど!」


(……)


 本当に寝やがった。あの怠惰神、なんの説明もしないままに寝やがった。こうなったら辺境でスローライフを楽しんでやる。


(それは許しません!)


 寝たはずの女神様の声が脳内にこだまする。


「やっぱり起きてましたね。さぁ、答えてもらおうではないですか」


 辺境スローライフの話は、ただのでまかせだ。怠惰神を呼び出すのにこれほど効果的なものはないという訳だ。


(おやすみなさい)


 その言葉を最後に怠惰神との通信は取れなくなった。

お読みいただきありがとうございます。


感想お待ちしております。

今後ともよろしくお願いします。


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