第2話 知らない天上?
前回のあらすじ――主人公・羽佐間翔太は小説家になろうを垢BANされてトラックに轢かれました。
「ここどこ?」
トラックに轢かれてただの肉塊に成り下がったはずなのに俺はどうやら生きているようだ。
ただし、実家近くの横断歩道ではない。
病院とも違うようだ。
どこまでも続く光り輝く地面に真っ白な空。
まさか……某有名漫画に出てくる精神と時の部屋というやつなのか!? ないな。だって、出入り口壊されてたし。
いや、マジでどこだよここ!?
早く家に帰ってなろうのユーザーページを確認したい。それが俺の心の底からの本心だ。
だって、今何時だ? そろそろ最新話の更新予定時刻な気がする。
楽しみに待っている読者のためにも必ず更新しなくては。
「……目が覚めましたか」
唐突に真横から声がかけられる。
さっきまで誰もいなかった空間にあまりにも美しすぎる女性が立っているる。残念ながら緑の肌で触覚が2本生えた宇宙人ではない。本当に少しだけ期待していたけど全く違う。
金糸でできているかのような髪の毛にぱっちりとした二重の碧い瞳。むっちりとした肉厚なピンクの唇が真っ白な肌に色味を添えている。
白い質素なワンピースのような服の上からでも分かる華奢な肩にメロンサイズのたわわな胸が双丘をなしている。そして、完璧な曲線美を描き出すウエストとヒップ。
まるで男の理想をそのまま表したかのような姿だ。
俺の予想ではB105W57H86だ。
「……はぁ。何見てるんですか!?」
眼福な光景を永久保存するために、じっくりと全身観察をしていた俺を女性はジロリと睨む。
「まぁ、まぁ、減るものじゃないんだし、そんなに怖い顔しないでくださいよ。キレイな顔が台無しですよ」
俺はやっぱり死んだようだ。
この世界は死後の世界というものだろう。
だいたい現実世界にこんな場所ないだろうし、もしも死んでいなくてもあのレベルの事故なら病院のベッドに横たわっているはずだ。
俺の前に立つ女性は天使か死神だろう。魂を迎えに来たというわけだ。
死神も神話によっては美しい女性の姿をしているというからな。
死ぬ前にこんな光景が見られるなら結構なものだ。……あっ! 死ぬ前ではないのか、既に死んでるし。
「勝手に考えるは結構ですけど、あなたまだ死んでいませんからね」
「……えっ!? そうなの!?」
「はい。そうですよ。まだ死んでいません」
と言うよりなんで俺が考えたことがわかるんだ? まだ何も言っていないのに。
「私は神ですからね。人間の心を覗くなんて朝飯前です」
……っ! 神っ! ちょっと待てよ! これってもしかして異世界転生するパターンのやつなんじゃないの!?
トラックに轢かれて、よくわからん女神様が現れて「世界を救ってください」って、世に言うテンプレってやつでしょ!
「話が早くて助かりますね。そのとおりです。私の世界を救ってください」
「マジっすか! 冗談じゃないですよね?」
俺はテッテレーと言うBGMを流しながらドッキリ大成功と書かれた看板を持った人が出てこないかキョロキョロと見回す。
しかし、どこまでも続く白い地平線に隠れるところはなく、見える範囲には俺と自称神様しかいない。
オタクなら誰もが夢見るパターンのヤツだ。
「こんなところで冗談なんて言うわけ無いでしょう」
「ってことは、もちろんチートスキルみたいなものも貰えるんですよね?」
「なんだかちょっと、いや、だいぶムカつきますが世界を救ってもらう対価にちょっとぐらい手助けしてあげます」
キターーーーー! これ、マジな異世界転生アンド俺TUEEEEEEのテンプレじゃんか!
「言っておきますけど、それで世界を救うのめんどくさいから辺境でスローライフを送るとかゴブリンだけ倒すとか商人になるとかやめてくださいね」
「ギクッ!」
「そういうことをしていたら魂を抜き取りますから」
「わ、分かりました」
先手をうたれてしまった。
転生したら俺の文才を活かして異世界で小説でも出版しながら田舎で暮らそうと思っていたのに。
もちろん、ゴブリンに襲われていたヒロイン颯爽と助けてラブコメ要素も入れる予定だったけど。
「そろそろ、転生しますけど何か思い残すことないですか?」
「あります」
思い残すことしかない。
ブックマーク100件も達成できていない。
まだ、日間ランキングに載ったこともない。
書籍化作家になったこともない。
むしろ、垢BANの誤解を早く解かなければ。
「そうですか。では、時間ですので新しい世界で頑張ってください」
「いやいや、思い残すこと聞いた意味っ!」
「一応聞いておこうかと……」
サラッと笑顔で答える神様に一切の悪気がないのは気のせいだろうか? なんだか後光も出ちゃってるし!
この神様、中々面白い性格をしているではないか。
「ビジネスだと思いましょうよ。俺は世界を救うので、それが終わったら元の世界に戻して『小説家になろう』のアカウントを取り戻してください」
「分かりました。仕方ないですが約束しましょう。ついでにポイントも400ポイントぐらいサービスしてあげますよ」
「それはいりません!」
「どうしてですか? あなたの夢に近づきますよ」
そんなズルでランキングに載ったり、書籍化作家になっても後ろめたい気持ちになるだけだ。むしろ、俺の実力ならそんなことをしなくても、そろそろランキングに載って、大手出版社から声がかかるはずだ。
「まぁ、何でもいいです」
「それじゃあ交渉も終わったという事で自己紹介をしましょう。遅くなりましたけど、俺の名前は羽佐間翔太、28歳です」
初対面の人? に会ったのにまだ自己紹介をしていなかった。1年だけ働いていた時の上司が自己紹介の大切さを延々と語っていた。そのおかげで自己紹介をする癖が俺の体には染み付いている。
本当は名刺交換が1番いいのだが、残念ながら今は持ち合わせていない。
「知ってます」
「これから売れっ子作家になる予定でした」
「なれなかったと思いますよ」
何言ってんだコイツ。俺ほどの才能を世界が見逃すわけないのに。
「まぁ、何でもいいです。それじゃあ頑張ってください」
俺の体を光の粒子が包んでいく。
「いやいや、おかしいでしょ! 神様も自己紹介してくださいよ」
普通、相手が名乗ったら自分も名乗るものでしょ! 常識的に考えて! そんなのでは営業の仕事なんて出来ないぞ!
「なるほど。人間とは面倒くさいですね。仕方ありません。私は神と呼ばれる存在のものです」
「……いや、自己紹介になってませんからね。それ」
種族名なのか職業名なのかよく分からないが、少なくとも自己紹介では断じてない。
コイツ、わざとやってるんじゃないだろうな。
「いちいちうるさいですね」
「最低限名前ぐらい教えてください」
「はぁ。名前ですか……確か人間は私のことをアリシアと呼んでいたと思いますよ」
……アリシア。残念ながら知らない神様だ。
俺は小説を書くためにギリシャ神話、北欧神話、ケルト神話、ローマ神話、ペルシア神話、日本神話などの神話の類とキリスト教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンドュー教、仏教、ゾロアスター教、精霊信仰等宗教関係も知識として身につけている。
そんな俺が知らないとは……こいつ本当に神様か?
「失礼ですね。私はあなたの世界の神ではありませんから、知らなくて当然です」
なるほど。確かに異世界の神様なら知らなくて当然かもしれない。
「そろそろ、転生してもらってもいいですか?」
アリシアと名乗る神様はあからさまにめんどくさそうな顔をする。
「転生する世界ってどんなとこですか?」
しかし、俺にはそんなこと関係ない。だって無宗教だし。神の怒りとか全く怖くない。
「転生してから聞いてください。それでは」
俺の体を包み込んでいた光の粒子がいっそう輝きを増す。
「ちょっ――」
俺が「ちょっと待ってよ!」と言う前に視界は真っ白な光に覆われてしまう。
そしてまるで睡魔が襲い来るかのように俺の意識は深く沈んでいく。
こうして俺――羽佐間翔太は無事に!? 異世界転生をしたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。