第9話 緑髪のエルフ(打ち切りました)
「大丈夫?」
完璧にテンプレ通りとはいかなかったが、いじめっ子からいじめられっ子を救った俺は、いじめられっ子こと緑髪の女の子のに話しかける。
警戒心を与えないために上から見下ろすのではなく、膝をついて目線を合わせることも忘れていない。まぁ、もとから身長が高くないから立ったままでもそんなに目線の位置は変わらないのだが気にする必要はない。
「……す、すみま、せん……」
「謝らなくても大丈夫だよ。俺は、君に危害を加えるつもりもないし、これから任務に行く仲間なんだから」
落ちてしまった彼女の帽子を拾い埃を払うと、俺が大学時代にバイトをしていた世界最大のハンバーガーチェーンで鍛えたスマイルで手渡す。バイトをしていた時に比べて、今は元々の顔がすこぶるいい。好印象を持ってくれること間違いなしだ。
「ほ、ほん、とう……?」
「うん。もちろんだよ! 俺の名前は翔太。羽佐間翔太。よろしくね!」
「ショ、ショウタ様……。わたしはクラリス。黄金の森のクラリスです。エルフです。先ほどはありがとうございました」
「どういたしまして。クラリス。でもショウタでいいよ」
「分かりました。ショウタ様」
クラリスは俺の差し出した手を握ると、ゆっくりと立ちあがる。
これはとんがった耳から薄々分かっていたことだがクラリスの種族はエルフ。あの、ファンタジー作品には必ず出てくる種族・エルフだ。異世界に来て初めての亜人種? と会話を俺はしているのだ。元の世界に戻った後の作家生活の為にも本物のエルフの所作を知れるのは素晴らしい。
しかし、引っ張り起こした彼女の体が想像以上に軽くて、俺は驚きと共に不安がよぎる。
「どうかしましたか?」
不思議そうに首をかしげるクラリスの服装は、白を基調とした肌の露出がほとんどないゆったりとした修道服でRPGで言えば僧侶の職業に当たる服装だ。さっき奪われてしまった杖はさながら聖杖と言ったところだろう。
そんな服装のクラリスの体型は見ただけでは全く分からない。小柄だとはいえ、今のはいささか軽すぎる。
「ちゃんと食べてる?」
「は、はい……」
「本当は?」
目線をずらすクラリスにやさしく問い詰める。
「……えっと……その……お金がなくて……」
やっぱり思った通りだ。どうせクラリスが金欠になっているのも、あの3人に巻き上げられていたからだろうと俺は考える。
「それなら、何か食べに行こう! さっきからここの酒場の匂いが気になっていたんだ!」
「……でも……わたし、お金持ってません……」
「俺が払うから問題ないよ。俺から誘っといて、女の子にお金を出させるほど甲斐性無しじゃないよ」
元の世界で女の子を食事に誘ったことはないけど……。
「……やっぱり……でも……」
「腹が減っては戦はできぬ、って言うでしょ。今から戦いに行くんだし、食べるのも任務の為だよ」
俺は、それでも頑なに嫌がるクラリスをいわゆるお姫様抱っこで持ち上げると酒場に向かって足を進める。
……――……――……――……――……――……――……
「いらっしゃいませー!」
冒険者組合に併設された酒場の入り口をくぐると、元気のいい出迎えの言葉が飛び出してくる。
元の世界で1番お世話になっていたお店、コンビニエンスストアの店員とは大違いだ。気持ちが詰まっているのが分かる。言わされているのではない「いらっしゃいませ」だ。
店内はお昼時だということもあってか賑わいを見せている。そんな店内の一番奥に空いていたテーブルの椅子にクラリスを降ろし、その体面に座るとメニュー表を開く。
「どれでも好きなの頼んで」
メニュー表には店員の物だと思われる可愛らしいイラスト付きでメニューが書かれている。イラストだけでどれもおいしそうに見える。
そんなメニュー表を見てクラリスはキラキラと目を輝かせる。
「……どれでも!」
そこでクラリスはハッと我に返り、申し訳なさそうに1番安い『森のサラダ・ベジタブルミックス』を指差す。
「そんな遠慮しないでいいのに」
「いえ。……わたしは森の精霊と契約させていただいていますので植物以外を食べられないのです……」
「なるほど。ベジタリアンということだね」
「……べじたりあん?」
「野菜しか食べられない人のことだよ。でも、だったらこの『ユトリシア農園直送、フレッシュ野菜の盛り合わせ』の方がいいんじゃない?」
書かれているイラストもこっちの方がだいぶ豪勢だ。
「そ、そんな高い物を……」
「いいの、いいの、気にしない、気にしない。すみませーん!」
俺は店員を呼ぶと『ユトリシア農園直送、フレッシュ野菜の盛り合わせ』と『モーウの骨付き肉焼き』を注文する。そして、俺は店員に促されるままにチップを含めた代金を支払う。どうやらこの店では先払い制のようだ。もしかしたら、異世界では先払いが常識なのかもしれない。
「……お、お金、払いますっ!」
クラリスは首から下げた小さな革袋からコインを取り出す。
「もう! いらないって!」
「……でも」
「はい。そんなことよりもクラリスはエルフなんだよね?」
俺は革袋から取り出された色々なコインを丁寧に1つずつ戻していく。
「はい……正確には森エルフです……」
「そうなんだ。それで疑問なんだけど、俺のイメージするエルフって弓が得意で弓で戦うイメージなんだけど?」
ファンタジーに出てくるエルフと言えば弓の名手である設定が最もポピュラーだ。凄腕になれば風の精霊を操って百発百中のエルフもいる。
しかし、クラリスは弓矢を持っていないし、見た目も僧侶だ。
「……えっと、本来のエルフはみんな弓が得意なんですけど……わたしは、たくさん練習したんですけど全然うまくならなくて……」
「それで、森の精霊と契約して僧侶になったんだ」
「その……僧侶ではなくて……」
「僧侶ではなくて?」
「……精霊魔法使いです」
「何が違うの?」
ゲームで言えば僧侶と魔法使いの違いといえば、僧侶は回復系、魔法使いは攻撃系だ。精霊魔法使いという職業があるゲームを俺は知らない。
「精霊魔法使いは、精霊の持つ属性の魔法なら回復魔法も攻撃魔法も使えます……」
「それって、すごい便利じゃん!」
最近の漫画やアニメだと僧侶も積極的に攻撃する作品も多くなっているけれど、それは基本的に物理メインが多いと思う。
「でも……わたし、どんくさくて。才能ないから……」
「はい! ストップ! マイナス思考禁止! マイナス思考はいいこと何も生まないから、ポジティブシンキング! 上向いて!」
「ポジティブシンキング……?」
「そう! 悪い方向じゃなくていい方向に物事を考えることだよ。クラリスのどんくさいっていうのも1つ1つ確実に物事に取り組んでいる証拠だし、才能がないのも大器晩成型なだけなのかもしれないよ!」
俺だってポジティブに考えなきゃいきなり異世界に転生させられて頑張ってなんていけないのだ。俺とクラリスは似た者同士だ。
「どんくさいっていうのは1つ1つ確実に物事に取り組んでいる証拠。才能がないのも大器晩成型なだけ……なんだかそう考えると少しだけ気持ちが楽になりました」
「そうそう! ポジティブ、ポジティブ!」
「おまたせしました!」
絶妙なタイミングで香ばしい匂いとともに店員が料理を運んでくる。
「うまそう!」
俺の前に置かれたのはよくあるファンタージ肉。1本の太い骨の真ん中に肉の塊がついたまま焼かれたシンプルな一品だ。
クラリスも目の前に置かれたきれいに盛り付けられたサラダに目を輝かせている。
「「いただきます!」」
そして、俺とクラリスは一心不乱に口を動かしたのだった。
話の途中ですがこれ以上広げられません。
すみません。
また、機会があれは続きかけるように頑張ります




