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6月13日 水曜日【謝罪】



 6月13日。水曜日。朝。教室。


「お、おい」


 新堂がぶっきらぼうに声をかけてくる。どもっているところを見るとかなりのためらいを感じる。


「なに」


 新堂は顔を上げたわたしがもうすっかり調子を取り戻していることにちょっと驚いたような顔をした。新堂は割と引きずったようだったけれど、わたしのほうは昨日の放課後泣いてわりとスッキリしてしまっていた。


 けれど彼はもしかしてわたしがしょぼくれていなかったのがお気に召さなかったのかもしれない。眉根を少し寄せて、調子を崩したように何度か口をぱくぱくさせてからまた言う。


「あのさぁ……」


 しかし、新堂の言葉はあのさから動こうとはしない。そのまま虚空を見つめて黙り込んでしまう。


「あー、昨日……」


「うん」


 じっと見つめて言葉を待つが、やはりそこで止まる。時計をチラッと見るともう授業が始まる時間になりそうだ。それでなくても周りがじろじろ見ているような気もするので、先にわたしの方のプレッシャーに限界がきた。


「あの、なんか用があるなら、さっさとしてほしい」


「なっ」


 新堂がカッとなった勢いでそのまま乱暴に言い放つ。


「おまえさ」


 今度はすらすら言葉が出てくる。


「泣けばすむと思ってんじゃねーよ!」


 言い捨てて、あっという間に新堂はその場から去った。


 教室は新堂の声で一瞬しんとしたけれど、やがてチャイムが鳴って先生が入ってくると普段の様子を取り戻す。


 新堂ダッシュの弁によるとこの時彼は謝ろうとしていたらしい。これは大失敗じゃないのか、そう思ったら笑えてきた。


 午後から雨が降った。


 天気予報では放課後にはやんでいるようだ。それを見て少し安心する。







 放課後、雨上がりの午後は抜けるような空が気持ちよかった。

 新堂ダッシュはバス停の手前で、えらく心配そうな顔で立っていた。ちょっとウロウロするような仕草で、わたしが来るのが見えるとぱっとこちらを見て駆け寄るので笑ってみせた。


「先に聞いてたから結構平気だった」


 前日の新堂の、わたしに対しての態度は思いのほかダメージが大きかったし、もしそのまま追い打ちであれを言われていたならさすがに結構落ち込んでいただろうと思う。


 でも、わかってくれる人がいると思ったら、案外平気なものだ。


「わたしも、もうちょっと言いやすい感じにすれば良かったかな……わからなくて」


 もうちょっと柔らかな態度をしていれば新堂もすんなり謝れたのかもしれない。わたしとしては睨んだり嫌な顔をしたつもりはなかったけれど、もともとが無愛想だ。それに、なんだかんだやっぱりあっちの新堂は少し怖いし、まだ構えてしまう気持ちもあった。それが顔に出ていたかもしれない。


「いや! そんなの大槻が気にすることじゃねえよ!」


 新堂が大きな声を出したのでびくっとしてしまう。


「……悪りぃ」


「ううん」


「謝るべきところで謝らなかった俺が悪い」


 新堂ダッシュは本当にわたしを責めることなく謝ってくれる。だからわたしは彼が責めなかった分、自分を見つめなおす余裕が生まれていた。こんな風に謝られて心配されなかったら、きっとわたしは今回も新堂を心の中で一方的に悪者にしていただろう。


「それに……大槻は、慣れてくるとそんなに無愛想でもないし」


「え、そう?」


「うん、まぁ。分かりにくいっちゃ分かりにくいんだけど……そのぶん小さな表情の変化とか見つけると楽しいし……それにたまに嬉しそうに笑ったりすると……そのぶん……」


 黙って聞いていたけれど、新堂は自分の発言がややおかしなほうにいってるのに気付いたらしく途中で口ごもった。その固まりかたが今朝の新堂とまるで同じで妙に感心してしまう。


「そのぶん?」


 先を促すと慌てたように口を開いた新堂の台詞は「そのぶん……わかりやすい!」と、いささか気の抜けた着地をみせた。






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