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6月8日 金曜日【お弁当】



 6月8日。金曜日。仏滅。昼休み。


 お弁当箱を落とした。

 スマホに簡単な日記をつけているけれども、今日の一言目は「最悪」だと思う。


 お昼休み。途中まで教室で食べようとしていたけれど、近くの席の男子達の猥談がうるさく感じて、どこか外で食べようとお弁当を持って出ようとした時だった。普段でも苦手なのに、食べている時に聞きたい内容ではとてもない。


 横着しないでちゃんと蓋をした後バンドで止めればよかった。

 猥談をしている猿山の猿達の後ろを通り過ぎようとしたとき、話が盛り上がった男子生徒が笑いながらのけぞり、それにぶつかられお弁当箱落下。


 ふりむいた男子が「あ、悪りい」とつぶやくも時すでに遅し。無残にひっくり返ったお弁当箱からは半分以上残っていたお米とおかずがぐちゃぐちゃになって床を汚していた。


 男子生徒たちが覗き込んでわやわや騒ぐ。「箒持ってくる?」「雑巾じゃね?」の声に混じって「なんかグロいな」と聞こえて急に恥ずかしくなった。


 急いでランチバッグの中にぐちゃぐちゃのお弁当の残骸を手でばーっとかき入れて、ポケットからティッシュをだして床を拭いたわたしはその場をものすごい速さで処理したと思う。


 なんとなく元どおりになったのを見て男子達も所定の位置に戻った。もう一度「ごめんなー」の声を背中に聞いたけれど扉を出る頃には何事もなかったかのように雑談の続きが始まっていた。


 このままだとお腹が減るからと学食へ行くと、教室に姿がなかった新堂が男女混合でわいわいと食事しているのが見えた。

 どうしようかな、と思っていたとき新堂がこちらに気付く。彼はわたしを見てあからさまに嫌な顔をした。一気に食事をする気がうせた。なんか今日ついてない。







 放課後、またも苦い顔で現れたわたしを見て新堂ダッシュがちょっと心配そうな顔をした。


「俺、今日もなんかやったっけ」


 無言で首を横に振る。そして昼間のお弁当落下事件のことを話した。


「わたし、お弁当自分で作ってるんだ」


 新堂は「へえ」と言ったあと妙に聞きづらそうな様子で「大槻んちって……親は」と口ごもる。


「お母さんは週四で働いてるけど、別に作れないわけじゃなくて、単にわたしが作りたくてやってるの」


「あ、そうなんだ。えらいな」


「えらいとかじゃなくて……好きでやってるの」


 学校生活であまり楽しいことがない最近。お昼ご飯くらいは楽しみたい。だから週末に親と一緒に買い物に行ったときに色々材料を買ってもらって、自分で自分の好きなお弁当を作っている。色々調べて作るのは楽しいし、上手くできた日はお昼の時間が楽しみになる。


「それが台無しになったの……へこむよ」


「結局なんか食ったの?」


 新堂の質問にわたしのお腹の虫がぎゅうぎゅうと音をたてて返事した。


「あ、もう帰る?」


「いいよもう。帰って少しすれば夕飯だし……ダイエット」


「ありがとう」


「え?」


「いや、すぐ帰りたいだろうに、付き合ってくれて……」


 妙なことで感謝されて戸惑う。

 なんとなく帰り道にいるからなんとなく話していただけなんだけど。こっちの新堂は本当に律儀というか。わたしはとりたてて愛想良くなってるわけでもないのに、そうされるとこっちも嫌な顔なんてしようとは思わない。


「でもわたしもお弁当の愚痴を話せてよかったよ」


「そういや大槻にぶつかったの、誰だったの?」


「え、誰だったかなぁ」


 背中だったし、その後は自分のお弁当を凝視していたからあんまり誰とか覚えてない。


「うーん……佐々木あたりかなぁ……そんな知りたい?」


「いや、知りたいわけでもないけど。そいつのせいなんだろ……」


 新堂はわたしの話したエピソードに犯人の名前がでてこなかったのでなんとなく気になったらしい。


「べつに悪気があったわけでないし、謝ってもらえたし……そこは気にしてない」


「そっか。えらいな」


 なんの気なしに聞いて感心している新堂をじっとりと睨みつける。


「わたし、新堂がもしその場にいたら言いそうな言葉わかるよ」


「え、なんだよ」


「なんで向こうが謝ってるのに仏頂面してんだ。笑顔で大丈夫だよ、とか気にしてないよとか言えないのかよって……はっきりそうは言わないまでも……そういう感じに怒ると思う」


 新堂はちょっと考えて苦い顔をして「……俺そんな酷い?」と聞いたけれど、じっと見つめるとさらに考えて「言ったかもしれない」と反省したようにつぶやいた。





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