6月4日 月曜日【悩み相談】
6月4日。休日明けの月曜日。昼休み。
することもないので教室で周囲を観察する。
松崎紗里奈は集団でよく他人の噂話をしている。そして最初は噂話だったそれはいつも悪口へと変わっていく。悪口を言うのが好きな人種はいるのだ。
悪口の対象は教師からクラスメイト、芸能人まで、さまざまだ。はっきりと内容までは聞こえないけれど、ひそめるような声音と表情で悪口だとわかる。そのとき周辺にいる人間の話はさすがにしないけれど、わたしのことだってこの場にいなければボロクソに言っているのだと思う。
五、六人のその輪の中から相澤さんが「あたし用事あるわ」とさりげなく抜けた。
「なんかノリ悪くない?」
相澤さんが出ていったあと松崎紗里奈の声が響いた。そんなノリ糞食らえだ。
わたしの机に膨らませた紙の風船がぽんと飛んできた。
新堂が教室内で友人とふざけてバレーのような遊びをしていて、ボール代わりに使われているやつだった。紙風船はそのまま転がって机の下にぽとんと落ちた。すぐそこに落ちたものだから、親切な人なら拾って渡すかもしれない。わたしだって新堂が相手じゃなければそうしただろう。
わたしの足元に転がった紙風船を無言で拾い上げた新堂が顔をあげて目が合った。目が合った手前、何か言おうとしたのだろうか、新堂が口を開いて不満気にひとこと。
「お前友達いねえの?」
思い切り中指を立てて舌を出してやった。
*
放課後。帰り道。
金曜日と同じ場所、バス停のベンチにまた新堂みたいなのが座っていた。わたしを見て慌てたように立ち上がる。さすがにぎょっとして足を止めた。
「俺、クラスにいるあの新堂とは少し違うんだって。ちょっと話聞いてくれ」
その日は雨も降っていなかったので、黙ってまじまじ見つめた。いくら見ても、やっぱり新堂亮司そのものにしか見えない。思わず眉根に皺も寄る。
「うわー、こないだも思ったけど、俺すんごい嫌われてんな……ほんと申し訳ない……」
「あんた、誰?」
そう聞きたくもなる。つい先ほども帰り際、新堂は扉のところを塞いでいた男子生徒にぶつかったわたしの背中に「ちゃんと謝れよ」とやたら大きな声で言い放ったのだから。
「今信じてもらえるか分からないけど、とりあえずそういうものだとして聞いて欲しい」
新堂、というか新堂そっくりの新堂ダッシュはためらいがちに口を開く。
「俺、一ヶ月後から来たの」
「は?」
「いやだから、ここでは今六月四日なわけだけど、俺は今現在普段は七月四日を生きていて、ちょっとここに来た」
「それで?」
それが本当だとは思えないけれど、たとえ本当だったとしても返すことは何もない。
「うーん、それでって言われても、あれなんだけど」
「あんた嫌なやつだけど、こういう陰湿なことはしないと思ってた……最低だね」
「え、あ、そうくる?」
ずいぶん手の込んだ嫌がらせだけれども嫌いな奴に親しげに近付く理由なんて、罠にはめようとしているくらいしか思いつかない。
「その……なんつうか、俺が大槻にしたこと言ったことは、色々本当に謝るほかないんだけど……俺にも俺なりに理由はあって……」
新堂はモゴモゴと口の中でつぶやいていたけれど、ぱっと顔を上げた。
「いや、言い訳はよす。ごめん!」
新堂は言って深く頭を下げた。
「とりあえず、そこ座らない?」
すぐそこにあるボロいベンチを指して言う。
「座らない」
「……おぉ……本当嫌いなんだな……」
新堂がやたらとおののいた声をだす。あんな態度をとっておいて好かれていると思えるほうがどうかしている。
「用件があるなら手短かに」
「とりあえず今日はまだ……なんか、悩みでもあったら聞くぜ」
能天気な声で言われてイラっときた。
「クラスに嫌な奴がいて、そいつのせいで毎日楽しくない。学校行きたくない」
睨みつけて言うと新堂ダッシュがちょっとたじろいだ。
「今日もでかい声で友達いないの? とか言われて、そいつがそういうこと言うから周りが余計に遠巻きにして友達できにくいんだよね」
「あー、俺そいつしってるわ……」
知ってるも何も、彼のいうことが本当なら本人だ。
「俺親しい人間の言うこと鵜呑みにする癖があって……それで結構今までも、人とぶつかったりしてて」
「あんたは自分が正しいと思いこんだことを疑わないよね」
「うん、色々あって今では反省してる……」
「あんた本当に誰?」
思わず聞いた声に新堂ダッシュがちょっと焦った声をだす。
「新堂……亮司」




