6月24日 日曜日【フットサルコート】
新堂の言ったフットサルコートの場所は家に帰ってネットで検索したらすぐ見つかった。そして日曜日もすぐにきてしまった。
6月24日。日曜日。快晴。
言われた時間頃に着くように家を出て、その時点で心臓がドキドキしていた。
何度か帰ろうかな、と思ったけれど、そのたびに放課後の新堂の真剣な顔を思い出して、重い足を引きずっているうちに入口まで来てしまった。
近くには散歩中の夫婦や犬の散歩の人もいて、休日の午後ののどかな光景が広がっている。
中に入るとそこにはクラスメイト何人かと、他所のクラスの男子も数名いて、当たり前だがフットサルをしていた。空が青い。
そんなのどかな現場に着いたわたしはというと、変な汗をだらだら流して強張っていた。
それでもそろそろと近くに行ってみるとクラスメイト達の何人かが、わたしの姿に気付いた。新堂も一瞬だけこちらを見たような気もしたけれど、さっと目を逸らして何食わぬ顔をしていた。うわ。すごい声かけにくい。
遊びの試合が進む中、新堂に声をかけるタイミングはなかなか無かった。新堂ダッシュに言われていた時間通りに来たけれど焦ってくる。こうしているうちにもどんどん時間が流れていく。新堂のおばあちゃん、まだ大丈夫かな。
そうこうしているうちに、休憩になったようだ。
「大槻、何してんの」
メンバーの中では結構社交的な池田君がこちらに来て声をかけてくれた。
「その、新堂に……用があって」
「新堂? 大槻が?」
池田君はものすごく楽しそうな顔で笑って「新堂! しんどーう!」とでかい声で呼んでくれた。有り難いけどむちゃくちゃ恥ずかしい。
呼ばれた新堂はびっくりした顔をした。
「俺?」と自分を指すようなゼスチャーで確認までしてきた。
「じゃあ」と言って笑いながら池田君がその場からいなくなる。入れ替わりでティーシャツで顔の汗を拭きながら新堂が目の前に来た。
はたしていつも通りの仏頂面の新堂とわたしは向かいあった。喉がカラカラでなけなしの唾液をごくんと飲み込む。あぁ、今からわたし、また不審者。
「ち、ちょっと……今から一緒に来て欲しい場所があって」
ひっくり返った声で言うわたしに新堂は思っていた通りの顔をした。
「は? おまえ何言ってんの?」
気持ちは分かる。仲良くもない、むしろ悪いクラスメイトがどうやって調べたのか休日に遊んでいる場所に来て今から来いと言うなんて、そんな顔をしたくなるのは分かる。分かってはいても心が折れそうになる。
でも、ここまで来たら諦めて帰っても充分不審な人だ。だったらもう絶対来てもらいたい。
大丈夫。わたしはひとりじゃない。だからそんな顔で睨まれたって、傷付かない。
「お、お願い! 困ってるんだ」
新堂ダッシュに言われたこと。
細かい説明なんていい。“困っている”とりあえずそう言えば気持ちがかなり揺らぐ。
その台詞が功を奏したのか単にわたしの必死さに恐れをなしたのか、新堂の険しかった表情が少し和らいだ。
「困ってるって……誰が? 大槻が?」
「正確にはわたしじゃないんだけど、その……わたしの友達が……」
「友達って誰?」
「それはその……」
あ、駄目だ。失敗した。言っててどんどん胡散臭くなるのが分かる。新堂の表情が警戒したものに戻って行くのが分かる。どうしよう。
「いいから来て!」
「わ、なに」
手を取ってぎゅっと繋いで、その場から走った。
もうひとつ。新堂ダッシュから言われたこと。
*
「焦ってよく分かんなくなったら手でも握って強引に連れだして」
「て、手を?」
「うん。そしたらそれに気を取られて数秒思考が飛ぶから」
「そ、そんなことで?」
「歳頃の青少年舐めんな。女子から急に手を繋がれて冷静にいられるのは相当経験豊富な奴だけだ」
「あんたそれ一般論みたいに言ってるけど……」
「そうだよ! 俺が免疫無いだけだよ!」
*
手を繋げはなんとかなる。
他の青少年がどうだかしらないが、新堂に関しては他ならぬ本人がそう言うならそうなんだろう。だから最終手段として頭には入れていたけれど、一応、使わないですますつもりだった。まさかこんなにすぐ使うとは思わなかった。
新堂の手は思ったより大きくてゴツゴツしていたけれど、そんなことを思ったのは一瞬で、割とそれどころじゃなかった。
幸い新堂のおばあちゃんが倒れたという道はわたしの自宅からは少し遠かったけれどフットサルコートからは近かった。徒歩で行ける距離だ。
しかし、わたしの家の近所でもないので土地勘がそこまでない。頭の中でなんとなくここら辺だろうと当たりをつけていた道に入ったのに、何故かあるはずのないスーパーが現れてものすごく焦った。
まずい。道に迷った。どうしよう。
新堂も突然止まって泡を食ってるわたしに気付いてまた怪訝な顔でこちらを見る。
「し、新堂……!」
繋いだままの手を思い切りぐいっと引っ張って半ば叫ぶ。
「は?」
「このへんに小鳥遊さんて家ある?」
「小鳥遊さんちなら、道一本先だけど……なんで、そ」
「そ、そことりあえず連れていって!」
わたしが、半泣きで叫んだものだから新堂は反論を引っ込めた。
とりあえず「あっち」と言って先に歩きだす。
わたしは「こっち?」と言って追い抜かんばかりに歩調を早めた。
小鳥遊さんちは豪邸で、長く塀が続いている。そこをわたしはほとんど走って進んだ。それに引っ張られた新堂も一緒になって走ることになった。
新堂ダッシュの話だとそこからしばらく私有地の林道がある。新堂のおばあちゃんは昔から住んでいる近所のよしみで最近そこを散歩コースに入れさせてもらっていたらしい。今の季節だと天気が良ければ気持ちの良い林道は私有地なのもあって、ほとんど人が出入りしない。
永遠に感じられる長い塀を曲がるとやっと林道が見えてきた。
たどり着いた林道は思ったより広くて、林道というより雑木林に思えた。わたしはようやく新堂を拘束する手を解いた。
そこできょろきょろと何かを探すわたしを見て新堂もあたりをぐるりと見回した。
そうして、少し先の木の根元に人が倒れているのを見つけた。聞いていた衣服の色。
「新堂、あれ!」
「えっ、」
新堂が何気なく近寄って、気付いて叫ぶ。
「ばあちゃん!」
そうして血相を変えてそこに駆け寄った。




