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6月22日 金曜日【二度目の頼みごと】



 6月22日。金曜日。晴れ。


 玄関を出るとやっぱり夏だった。


 特になにがあったわけでもないけれど、目覚めが良くて、珍しく早めに家を出て学校へむかう。


 教室に入ると眩しい陽の光が目を刺した。カーテン越しに強い光が漏れるように輝いていて、教室のくせにどことなく神々しかった。


 鞄を机に置いて、からからと窓を開ける。

 あまり涼しくもなかったけれど、空気が動く感覚はした。そのままベランダに出て外を眺める。


 まだ教室には誰もいなかったけれど、外には教室に向かう生徒たちがぽつぽつと歩いている。


 その中に新堂が友達と話しながら校舎に向かって歩いているのが見えた。


 もうすぐ六月も終わるけれど、相変わらず新堂とは別に仲良くない。


 だけどなんだか最近は色々考えるのも面倒になって来て、それについてわざわざ考えたりもしない。なるようになるし、わたしにとって、こちらの新堂が何を思おうがさほど関心もなかった。関わらないならそのほうがいっそ楽だ。


「お、つっきー早いね。暑くない?」


 背後に気配を感じて振り向くと相澤さんが立ってシャツの胸元をパタパタとしていた。


「誰見てんの? あ、もしかして……」


 わたしの視線の先を見て相澤さんが言うので焦って「ちがう」と口に出そうとすると「……岸本?」と聞かれた。


 言われて見ると確かに、新堂の少し後ろあたりにクラスメイトの岸本大地が歩いていた。


「……ちがう」


「あ、そうなんだ」と言う相澤さんがほっとしたような顔をしているのに気付く。


「え、もしかして……」


 そこまで言っただけで相澤さんは顔を赤くして「暑い暑い!」と手で顔を扇ぎ出した。なんだか逆にバレバレでこっちまで恥ずかしい。


 相澤さんもそれに気付いて急に動きを止めて「うぅ……まだみんなには内緒ね」と容疑を認めてベランダの柵に頭を埋める。そんなに顔に出やすいんじゃみんなにバレるのも時間の問題だ。









 雨も嫌だけれど、蒸し暑いのも嫌だ。

 夕方になってようやく弱まった陽射しにわたしはふうと情けない息を吐いてバス停のベンチに座った。


「暑かったなぁ、今日」


 ぼやいて、近くに立つ新堂の顔を確認すると、またやたらと真面目な顔をしている。

 嫌な予感がした。新堂が重々しい口を開く。


「大槻、もうひとつだけ、頼みたい」


 そんなことだろうと、思った。

 すでにちょっと前傾姿勢で頼むと言うより拝む感じになっている新堂にとりあえず聞くだけ聞くことにする。


「今週の日曜日に俺、フットサルコートで友達と遊んでるんだけど……家の近所でばあちゃんが倒れる」


「えっ」


「近所の散歩コースなんだけど倒れて、そこあまり人が通らない道なんだ」


「えぇ、どうするの」


「俺のこと呼びに来て、その場所まで連れて行って欲しい」


「えぇっ」


 聞いただけでだいぶ嫌だ。


「そのフットサルコートに行くの?」


 結構な手間だし、新堂を呼びに行くなんて前回よりさらにハードルが高い。とはいえ、人命がかかっていると聞いては無下にもできない。


「三時頃かな、ばあちゃんはすぐ病院行けばとりあえず問題ないから」


「それ他に方法ありそうだけど……。たとえばおばあちゃんに先にそこに行かないように言うとか、もっと前に対処した方がいいんじゃないの?」


 呼びに行くのが嫌なのもあって提案してみる。休日に押しかけて連れ出すなんて前回の小包あるよどころの胡散臭さじゃない。わりと嫌だ。結構嫌だ。


「うん。でも俺が辿ってきた道をなるべくなら通りたい」


「あ、じゃあ何か向こうであった酷い歴史を変えようとかじゃないんだ」


「うん、誕生日プレゼントのときもだけれど、俺はすでに大槻に助けられて、ここにいる。むしろそれを変えたくない」


 新堂の辿ってきた六月では、フットサルコートにわたしが呼びに来て、現場に行って病院に入れてことなきを得たらしい。


「他の方法をとって、もっと酷いことになったり、失敗したら取り返しがつかないだろ」


 前も思ったが新堂はこの力に関してかなり慎重というか、臆病な動きしかしない。

 しかし、実際問題、自分がタイムリープできる体質になったとして、好き勝手にやれるかというとやはり疑問ではある。

 そもそもが新堂の能力はかなり限定されていて、しょぼい。限定されているということは自分の自由にならない能力ということでもある。いつ消えるかも分からない。急に戻れなくなるかも知れない。さほど役に立たない上に危ないなら、必要なこと以外には使わない方がマシだろう。少なくとも新堂の性格ではそう考えたようだった。


「でも、新堂、遊びの最中なんでしょ? わたしが急に呼びに来ても……さすがに来るかなぁ」


 この間の荷物の件もあるから、そこまで綺麗に一蹴されることもなさそうだけれど、周りの目もあるのにその場から出て行くほど信じられるとは思えない。


「まぁ、なかなか聞かないかもだけど……それについては、ちょっと作戦がある」


「作戦?」


「俺のことは、俺が一番分かるから」


 新堂はモゴモゴとしてから、作戦を話しだした。






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