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6月20日水曜日【風邪】



 6月20日。水曜日。雨。

 頭が重い。ちょっとくらくらする。身体がだるい。


 わたしの体温計を見たお母さんが「風邪だね」とつぶやいた。


「今日はお休みしな」と言われて「大丈夫だよ」と慌てて制服を着ようとしたけれど、「あんたもだけど、周りにうつるとよくないでしょ」とたしなめられてしまう。


 少し前のわたしなら、学校を休むなんて万々歳の出来事でしかない。でも今はちょっと気になることがあるから。ソワソワしてしまう。


 けれど、結局お休みした。雨の中風邪っぴきで無理して登校しても悪化するだけだ。さっさと治したほうが早い。


 薄暗い昼間。自室で相変わらずしとしとと降っている梅雨の雨音を聞く。ぼんやりと涙のはる目で壁の時計を見つめる。10時31分。


 それから少し下に貼ってある猫のカレンダーに視線をうつす。6月20日。水曜日。7月20日は、金曜日。


 いまは、なにしてるんだろう。

 もう結構暑いのかな。


 ごろんごろんと苦しい寝返りをうってなかなか落ち着かない。

 それでも薬を飲んで部屋で寝転がっていると、さすが風邪。目を開けた時にはもう学校の終わる時間だった。


 ぱしゃぱしゃ。

 窓を叩く雨音は少し強くなってまだ続いている。


 六月の頭からあった出来事をぼんやり反芻する。


 それはわたしにとって、小さいながらも大きく非日常な出来事だったし、それがなくてもあんな風に喧嘩ではなく人と話して、分かったり、分かられたり、そんなことだってなかった。

 わたしは今までもっとずっと、誰に対しても頑固な人間付き合いをしていたし、それでいいと思っていた。誤解されるのを恐れないと言えば聞こえはいいけれど、そういう意味では怠惰に過ごしていた。

 でも、話してみて、ちがった考えや、思っていたのとちがう心のうちに触れるのは思いのほか面白いことだった。目で見て表面的に触れる世界は、会話をすることでまったく別の方向に開けたりもする。


 怒ってると思った新堂が困っていたり、笑っていると思った新堂が誰にも言えない悩みを抱えたりもしていた。乱暴な言葉の裏には戸惑いがあって、素直じゃない態度の裏には分かりにくい優しさだって隠れていた。


 新堂はよく雨に濡れている。

 大丈夫だろうか。今日も雨の中、あの場所で待っていたりするんだろうか。わたしが六月に欠席した日なんて、彼はきっと覚えてはいないだろう。


 窓の外に水滴があたる音で浅い眠りがさめるたびにわたしはそんなことを思う。


 そうだ。七月になったら、教えておいてやろう。この日はわたし、休みだったからって。


 そう思ったらすごく楽になって、また深く眠った。目が覚めると部屋がすっかり夜になっていた。


 苦しい咳を出して、手を伸ばして枕元のスタンドライトを点ける。台所の方から卵の雑炊みたいな匂いがする。熱はひいたのかたくさん出た汗で身体がひんやりするけれど、頭はだいぶすっきりしていた。


 窓の外で街灯が瞬きして明かりが灯る。

 近所の家ももう窓が明るくなっていた。


 また、壁にかかっている時計を見た。


 6時18分。



 今日は会えなかった。





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