6月19日 火曜日【小包・後編】
6月19日。火曜日。朝。
下駄箱で新堂と鉢合わせる。
家で押入れに誕生日プレゼントがあるのを確認したのだろう。新堂のわたしを見る目が前と少し変わっていた。
もっともその目はべつに好意的なものではない。そこまで悪意のあるものでもなかったけれど、彼はどことなく薄気味悪いものを見るような目でわたしを見ていた。
結構無遠慮な視線ではあったけれど、睨み返してもしかたがないので受け流す。
挨拶は特にせずに、わたしは先に上履きを履いて教室に入った。
新堂は感謝どころか以前よりさらに距離のある目を向けるばかりだったけれど、さほど嫌な気持ちにはならなかった。なんだかいたずらが成功したみたいな面白さもあった。
休み時間に図書室に寄ってなんとなく郷土資料をあさってみた。わたしの帰り道にある元バス停は昔、塚があったらしい。種別としては道具塚と呼ばれるものらしいけれど、何の道具かは分からない。ただ、地名としてあの辺りが時門というので、時間に纏わるものかもしれない。時計って、いつ頃からあったのかな。昔のそれは日時計とか砂時計とか、そんなだろうか。塚自体はいつ出来て、いつ無くなったのだろうか。あまり詳しいことは載っていなかった。
普通は塚みたいなものってあまり壊されたりはしないと思うんだけれど、大したものではないと判断されたのだろうか。
そういえばあの場所にバス停があった頃、家族が使ったりもしていたけれど、なぜだか遅れてきたり早すぎたりが多かったらしい。だからという訳でもないかもしれないけれど、路線変更でそこは外された。
関係あるのかもしれないけれど、やっぱり分からない。新堂はあの場所は帰り道ではない。つらつらとそんなことを考えているうちに予鈴が鳴った。
放課後になって、やっぱり気になったのか珍しく新堂が声をかけてきた。
新堂は話しかけてきたくせに微妙な顔で「あのさ」とモゴモゴしている。無理もない。素直にお礼を言うにはちょっとおかしな案件だ。もしかしたら家を調べられてるとか、なにか気持ちの悪い可能性だってある。わたしとしては本人に頼まれたのだからかなり不本意だけれど、しかたがない。
新堂は何か聞きたそうにしていたけれど、どう言葉を紡げばいいのか分からないのか、結局わたしのほうからの言葉を待っている。
わたしはまたもや焦れた。今回は周りの目はそこまでなかったけれど、早く学校を出たい。
「なに、急いでるんだけど」
言ったあと、また言い方がそっけなかったかもしれないと思って付け足す。
「話があるならお昼休みとかにして欲しいんだ」
新堂がその言葉でちょっと緊張が解けたみたいにわたしを見た。
「そういやおまえ、いつも急いで帰るけど……なんか用事あんの?」
聞かれてちょっと不思議な気持ちになった。
「あるよ」
わたしにとって、結構大事な用事。
*
「今日、俺、お礼も言わなかっただろ」
「うん。気持ち悪いなって顔してわたしを見てた」
「クソだな」
新堂はこうなって事情を知った上でかなり自分の行動を客観的に見ることになったので、いちいち自分の行動に駄目出しをする。それがなかなか気持ち良いし笑える。
「まぁ……知らないと確かに気味が悪いし」
「気味が悪いことさせたの、俺だからな」
ゆっくり息を吐いて、ちょっと笑う。
「いいよ。お礼はこっちの新堂からもらうから」
「ありがとう」
「よかった」
えへへと笑って答える。分かってくれる味方がいるとちょっとくらい邪険にされても気にならなくなってくる。それを見て新堂がどこか戸惑ったような、困ったような顔をした。
「大槻って本当にさ……」
「え?」
新堂はうつむいて頭を乱雑に掻いた。
「……いや、俺が暴言ぶつけて阿呆なことしてる間にこんなふうに過ごしてたんだな」
それは、そうなるだろう。
「なんかすげえ馬鹿なことしてたな」
しみじみ言う新堂の言葉を考えていたら、ちょっと気になった。
「そういえばさ、そっちにもわたしはいるわけだよね」
「え、そっちって……あぁ、七月にももちろん大槻はいるよ」
「そっちはどうしてんの? その……」
何気ない質問だったのに、新堂は少し眉根を寄せた。
「そんなの聞きたいか? 七月になればわかるのに」
確かに、三年後だとか十年後ならば気にならなくもないけれど、一ヶ月後の自分なんてそこまで変化も乏しいかもしれない。
「あんまりそういうの……言わないほうがいいかなって……何が影響するか分かんねえし」
「堅いなぁ」
「まぁ、そんな酷いことにはなってないと思うよ」
「ほんと? 今より?」
「それは本人に聞いてみないとあれだけど……傍目には結構楽しそうに見えるよ」
わりとそれだけで充分だ。
細かいことは分からなくても、そう思ったらなんだか明るく生きて行ける気がするから。
「やったあ! 新堂に会ってよかった!」
そう言って笑うと新堂もなんだか嬉しそうに苦笑いをした。




