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6月18日 月曜日【小包・中編】



 6月18日。月曜日。朝。教室。


「小包が届いているって」


「は?」


 憂鬱な用事は朝イチですますに限る。

 とはいえわたしは朝はギリギリで来るので教室にはほとんどの生徒が揃っていた。

 だからわたしの方が新堂の席まで行って話しかけるのを周りはちょっと面白げに見ていた。

 それについては無理もない。最近こそ表立った喧嘩はしていないものの、はたから見たら新堂とわたしは犬猿の仲で、しかもご親切にたまにお説教をかまして歩み寄ろうとしている新堂にわたしはたびたび反抗的な態度で無視しているくらい嫌っている構図なのだから。


 松崎紗里奈たちが少し離れた席でひそひそとしているのが窺われる。何を話しているのだろう「なにあれー」だとか「嫌われてるのによく話しかけるよね」だとかだろうか。一瞬考えたけれど、すぐに思い直す。

 そんなのどうでもいい。

 目の前のどこか構えた顔の新堂を見て言う。


「新堂のお母さんが隠して……家の押入れの中にあるから、探してみて……だって」


 周りはまだざわめいていたけれど、小さな声で伝えたその内容まではきっと分からないだろう。新堂はみるみる目を丸くした。それだけ言って立ち去る。


 後味は、最悪。だいたい思った通り。


 新堂は後から何事か周りに聞かれていたけれど、ぼんやりしていて、ろくに返事をしていないようだった。


 こいつのためなんかじゃない。

 わたしを慰めてくれた、あちらの新堂のため。それだけだ。







「とりあえず、伝えたけど……」


「ありがとう。家帰ってすぐ探すと思う」


 新堂は安心したように溜息を吐いた。

 誕生日プレゼント。中身はなんだったのかな。でも新堂にとっては中身なんてきっとなんでもいいんだろうとも思う。


「まさか、隠されてるとはなぁ……」


 思い出してどこかしみじみ苦い顔をしている新堂に問いかける。


「新堂って、今お母さんと二人暮らしなの?」


「いや、ばあちゃんと三人」


 新堂はそれから「あと猫もいるよ」と付け加えた。そこだけ、ちょっと笑っていた。


「そうなんだ。いいなぁ。うちは動物飼わせてもらえなくて……どんな子?」


「キジトラ。耳がデカい。身体もデカいよ。全然動かねーの」


 新堂が目を細めて言うからなんとなくその猫を想像した。新堂のことだから大事にしてあげているんだろうと思う。いいなぁ。


「俺なんか、大槻にお礼したいけど……」


「なんかできるの?」


 意地悪く聞いてみる。新堂は上を向いてちょっと考えたけれど、息を吐いた。


「……なんもできない」


 そうだろうと思った。新堂の限定的な力ではそうそう出来ることはなさそうだ。傘が無いところをみると物品も持ち込めなそうだし、一時間くらいでは遠くに出かけることだってできない。


 それに、改めて考えてみてもわたしから新堂にして欲しいことなんて、べつになかった。


「いいよ。べつに」


「いや、七月になったら、お礼するから!」


「え、どうやって?」


「うん、それはそんときに……考える。だから、覚えておいて」


「うん……でもやっぱいいや」


 小さなことだけれどミッションをこなしたような達成感もあるし、あちらの新堂はともかく、こちらの新堂が喜んでいるならば、わりともういいかなと思えてしまった。


「思ったより簡単だったし」


「そうか? でも勇気いったろ」


 そう言うので素直にうんと頷いた。

 普段から積極的に社交的でないわたしにとって、苦手な奴にこちらから声をかけるだけでも結構なことだったし、内容も内容だ。見ようによっては罰ゲームだ。


 でも、普段やりなれないことを誰かの為にやって、それを感謝されて、そんなのは初めてだったし、そうすることで喜んでもらえたら、まるで自分のことみたいに嬉しくなった。


「でも……引き受けてくれて良かった」


 新堂が安心したように溜息を吐いた。

 つられてわたしも息を吐く。それから顔を見合わせて、ふたりでちょっと笑った。


 なんか変なの。


 出来事自体も変だけれども、こんなふうに妙なきっかけでちっとも仲良くなんてない新堂の人知れない悩みを知ってしまったのも、おかしな感覚だ。


 でも、非現実感が増すと色々どうでもよくなるものだ。とりあえず、お疲れ自分。今はそんな気分だ。


 もう今日の報告は終わったから帰ってもよかったのだけど、なんとなく帰りがたくて、わたしは新堂と並んで、ちょっとの間遠くの空に浮かぶ橙色に染まった雲を見ていた。




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