ゴーレクルス
ゴーレクルス
私の名前は、ぺリア・アン。私はお父様に作られた人形。その証拠に、漆黒のドレスの裾をめくれば、球体がはまった手首が顔を見せる。私はお父様を探している。そして、おそばに使わせていただく。それこそが私の存在意義。そして、そのためには・・・
「やっほー!ぺ~リアン!!」
頭上から柔らかい、しかし、しっかりとした質量を持ち合わせた物体がのしかかってくる。
「私の名前はペリアンではなく、ぺリア・アンだ。そして、重い」
私は身をかがめて、彼女と隙間を作りスルリと抜け出す。
「えっ、ちょっ、うわ~」
彼女は私という支えを失って派手に転ぶ。
「私の名前を間違えるからだ。お父様から頂いた大切な名だ」
「いや~間違えたわけじゃなくて、ニックネームなんだけど」
彼女は起き上がりながら、革鎧に付いた砂を払った。
「私の名前はぺリア・アン。他の何物でもないぺリア・アンだ」
「お堅いね~まあ、私もニルダって名前は大切にしてるけど。で、ぺリアちゃんはどの依頼を受けるの?」
私は先ほどから睨んでいるボードに張り出された張り紙の群れを見上げる。そこには、モンスターの討伐や、薬草採取の依頼。盗賊の懸賞金などの紙があった。
「やはりいつも通り、ワイルドボアだな。油分は必須だ」
私は基本何を摂取しようとも分解できるが、エネルギー量の多い脂質は摂取回数が少なくて済む。そして、ワイルドボアは常時討伐依頼が出ている雑魚。その身には、多くの脂肪を蓄えているので私には打って付けだ。報酬が最低値なのは仕方ないが・・・
「一途だね~、あんな獣臭くて固くて油ギッシュな肉のどこがいいんだか。まあ私も普通に採取にするけどさ。」
ニルダはソルジャー(戦士)としてのクラスは持っているが、彼女が戦うことはまずない。私がワイルドボアを討伐しているすきに、騒動で誰もいなくなった所から薬草を掠め取っていく。
「お互い変わらないということか。では後程」
「うん、バイバイ~」
私はニルダを見届けると、掲示板の端に張られた小さな紙を睨む。お父様の捜索依頼の紙はまだ貼られたままだ。この紙が剥ぎ取られ、受付に通されるのはいつになるだろうか。
私はニルダと共に森へ行く。大きな都市から離れているこの町は自然豊かで、農業や狩りなどで経済を回している。当然モンスターの類も豊富にいるため、城壁の外は戦えるものを同行させるのが一般的だ。私達も襲撃してきたときの用意としてニルダが先頭で進む。私の身体は金属が多く使われており、重たいので、地面の上では素早く動くことが出来ない。
「そういえば、こうして一緒に森に行くのって何回目だっけ?」
「289回目だ」
「よ~く覚えてるよね~。二年くらいコンビ組んでるけど、やっぱマジすごいわ~。数学者や星読み(天文学者)になればいいのに」
「それではお父様を探すことが出来ない。多くの地を巡り、確かな情報を収集しなければ
」
今はここで活動しているが、私は今まで多くの町を巡り、お父様の居場所を探してきた。ニルダは途中から一緒に行動するようになった。
山の方角を警戒していると、盗賊の影を見つけた。しかし距離もあり仲間に合図を送っている様子はないので、無視して森へ向かった。
私とニルダは森に到着した。私は森の入り口にある6mほどの巨岩を駆け上ると、私は目の倍率を少し上げ、ワイルドボアが居そうな場所を確認していく。1時間ほど探すと、ようやくワイルドボアが見つかった。丸々としており、多くの脂肪を蓄えているだろう。執拗に周囲を警戒しているが、私との位置は204m離れているため、目が合うことはない。
私は鋼色のシンプルなステッキをマジックバックから取り出す。私の職業は魔法使い。ただし、私は三つの魔法しか扱うことが出来ない。
「ストーンバレット」
ステッキの先に魔力を溜め、直径7mmのストーンバレットを生成する。ステッキを両手で固定し、ワイルドボアに狙いを定める。重力や高低差などを演算していき、ワイルドボアの頭上に打ち出すバレットの照準を合わせる。次に射出用の膨大な魔力をステッキに蓄積させる。魔力に反応して動物が一斉に騒ぎ出す。そして、ワイルドボアが周囲の警戒のために頭部を持ち上げた瞬間に、魔力を起動させた。
ストーンバレットは回転しながら静かに亜音速で空気を切り裂き、あっという間にワイルドボアまで到達した。ワイルドボアの丈夫な骨格を砕き、ストーンバレットは地面に突き刺さる。そして少し遅れてワイルドボアは地面に倒れた。
私は仕留めたワイルドボアを回収に向かう。周辺の動物はすでに逃げているので、急ぐ必要はない。茂みをかき分けて進むと、ようやく狙撃したワイルドボアを発見する。そのまま、マジックバックに収納していく。マジックバックにしまっておけば、時間が経過しても腐敗することはないため、重宝している。
「さすがは、冒険者一のスナイパー(狙撃手)やっる~」
近くの茂みからニルダが出てきた。彼女の手には私と同じマジックバックが握られていた。
「そちらの収穫はどうでした?」
「う~んまあまあかな~」
「それでは帰りましょうか。ギルドに達成を報告しましょう」
「そだね~暗くなると、めんどくさいもんね~」
日没を過ぎると夜行性の生物が活動を始めるため、依頼対象を食べられてしまったり、激しい戦闘が続けて起こる。私の魔法は威力はあるものの、魔力充填に時間がかかってしまう上に、魔力で寝ている昼行性の生物も起こしてしまうので、夜戦には向いていない。
森から町に帰る道中もニルダが先頭に立って移動する。森と町の中間あたりを歩いていると、魔力を感知した、どうやら光属性の魔法を誰かが使っているようだ。すぐに魔力の発生源に向かう。そこには、貴族の男性と、その執事とおぼしき男性が仰向けで倒れていた。執事は剣で切られたのか、燕尾服の胸の辺りが切り裂かれており、大量の血液がその傷を濡らしていた。そこへ、貴族の男性が回復魔法をかけていた。
「冒険者の方ですか。手を貸してください」
貴族は私達を見つけると、助けを求めてきた。
「何があったのですか?」
「馬車でこの先の町に向かう途中に盗賊に襲われたのです。騎士たちは破れ、執事も私の身代わりとなり、この状態です」
「わかりました。私達はどうすればよいですか」
「ドレスのあなたは、むこうに川があるので、そこでこの布を濡らしてきてください。ソルジャーの方は、周囲の警戒をお願いします」
「わかりました」
私は貴族からスカーフを受け取ると、川のある町の方向に走りだした・・・が、すぐさま木の陰に隠れ、静止する。
そして、貴族と怪我をしているはずの執事は素早く起き上がると、執事の背中に隠していたロープを取り出し、ニルダの背後から襲い掛かった。が、それを予期していた私は木の根を踏み台にして空中に飛び出すと、執事の肩にドロップキックをお見舞いする。私の体重は見た目より遥かに重いので、執事だけでなく、隣にいた貴族も巻き添えにして二人を路肩まで吹き飛ばす。
「くそ、なんでばれた!」
「なぜ?愚問ですよ。まず、対人警護に特化した騎士を町の外に出すわけないでしょ。そして決定的なのが、ほかの町から来た貴族がなぜ正確な川の位置を知っているのですか。それが理由です」
騎士というのは、主要人物を守るために集団行動で守備を固め、襲撃者を生け捕りにするのが役目だ。確実に主を守り、敵の情報を聞き出す。それこそが騎士としての務め。と私と知り合いの老人は語っていた。
「ちっ、しゃあねえ」
執事の恰好をした男が破れた燕尾服からこん棒を二つ取り出すと、貴族の恰好をした男に一つ渡した。
「へっへっへ、いい策だと思ったんだがな、とっとと縛って売ってやらぁ」
「ねえねえ、いつもと同じパターンでオッケー?」
「ええ、大丈夫でしょう」
執事の妄言を無視しながら私達は撃退の算段を立てる。
「無視すんなこらぁー」
二人が向かってくると同時に、隣にいたニルダは私の背後に移動する。二人の持つこん棒が私の左右側頭部に直撃する。が、鋼鉄のボディーをもつ私は微動だにせず、こん棒は反動で弾かれた。体制が崩れたところで、ニルダが執事の側頭部を剣の側面でしたたかに打ち付けた。私も貴族の鳩尾にステッキを突く。二人はそのまま地面に倒れた。
「なんかあっけなかったね~」
「恐らく今まで不意打ちばかりで相手を倒してきたのでしょう。手配書にもこの顔はありませんでした。早く拘束して町に戻りましょう。日が沈んでしまいます」
「りょ~か~い」
二人をまとめて縛ると、私が担いで町まで運んだ。町の守衛に盗賊の身柄を渡し、私達はギルドへ向かった。
ギルドの扉を開き、中に入る。受付の込み具合を確認・・・再度確認する。
そこには、私の掲示した捜索依頼の張り紙を持った少女が受付で話をしていた。
「この依頼を出したのはどなたです?」
あとがき
どうも、作者の八多羽シノイヤです。私の書いた作品を読んでいただき、ありがとうございます。
作品のタイトルは「ゴーレム」+「ホムンクルス」で「ゴーレクルス」です。
この作品のネタは、授業でロボットの起源がゴーレムというのを知ったので、某地下大墳墓に仕えている戦闘メイドみたいなメカメカしいのが書きたい!と思い、執筆しました。いや~、やっぱりキャラ設定って難しいですね!すごく無感情だと、作者もドン引きのスプラッタドールになってしまったので、さすがに修正を入れました。
キャラネームは、バレエ作品の「コッペリア」から取ってます。下の名前のアンはアン、ドゥ、トロワのアンです。ということで主要キャラをあと二人は出す予定です。(あくまで予定)ここは戦闘メイドを意識しています。ニルダは、コッペリアの友人、スワニルダから取ってます。お父様の名前はコッペリアを作ったコッペリウスから、リウスにします。(今決めました)
表紙は当然ぺリアを描かせていただきました。恰好は私のスマホに付けているキーホルダーの恰好を意識、というかもろパクリです。背景は、ストーンバレットのシーンです。某エレクトロマスターの超電磁砲を思い浮かべて書きました。裏表紙はカウンターに依頼書を受付に出しているところです。
さて、次回のゴーレクルスは、ついに現れたお父様を知る人物。その人物とは・・・
この物語はフィクションです。