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さよなら、私の世界。  作者: 花山 ナイフ
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騒がしい店内。声が聞こえなくて近くなる距離。悪くない心持だわ。最初はラインさえ聞くのをためらっていたというのに。普通に話せるようになって嬉しいわ。それに、冗談も言えるようになってきたし、一緒にご飯を食べるなんて、もう友達も同然ね。すごく進歩だわ。私は友達を作るのが下手くそだもの。でも、男女の友情なんて一瞬だけなの。こんなものすぐにドロドロになるんだもの。面白いわよね。彼女のいる男の人が私のことを一番に思う瞬間、2番から1番に変わる瞬間がとても好き。


「彼女には怒られていない?」


私は悪戯っぽい顔で聞くの。私は後輩だから、可愛いでしょ。


「うん。友達とご飯行くっていってある。」


少しだけ罪悪感を含む顔で笑ってる。いいのよ、それで、少しずつ罪悪感もなくなるわ。それからお酒を何杯か呑んで、お酒を飲めば飲むほど、赤くなる顔、近くなる距離、核へ進む会話。近くなる、心。あぁ、見てる。私のことを見ているわ。


「どうしたんですかぁ?」


存分に酔っ払ったフリ。可愛いでしょ。


「ううん。可愛いな。」


そう。そうなんです。私知ってます、私が可愛いこと。可愛い仕草、可愛い喋り方、可愛い顔、私の可愛いは知り尽くしてるんです。それから私は後輩だから、可愛いんです。この人はきっと女の人の経験があまりないから、今の彼女と三年付き合っているといっていたけど、その前に一人彼女がいただけだし、あまり女の人と話したりしないし、ほとんど童貞のようなものよね。背も高いし、肌も白いし、顔だって悪くないわ、十分のスペックね。


「私、ずるいですよ?闇深いし、悪いんです。先輩は私のことを知らないから仲良くしてくれるんですね。」


弱いところも見せてあげる。だって私は今、酔っ払っているから。だって先輩は弱いから、弱いもの好きでしょ?先輩の好きなタイプ知ってます、少し闇がある子が好きでしょ?知ってます知ってます。


「知りたい。知らないことがあるなら知りたい。俺、今の彼女がいなかったら絶対君と付き合ってたな。」


そんなことないわよ。今の彼女と付き合っていても、先輩は私を好きになる。だから言います。今日一番の可愛い顔で。私の可愛いを、あげます。


「好きですよ。私、先輩のこと。」


なんて返してくるかなぁ。どんな顔してる?先輩。うそはついてないもの、先輩のことは好きよ。恋愛感情ではないけれど。先輩も可愛いもの。私、可愛いものは好きなの。それだけよ。


「え、え、俺のこと知らないからだよ。そんな、そんな、こんな可愛い子にそんなこと言われたら。」


理性飛んじゃいますよね?先輩。可愛いなんて言われても私は可愛い顔崩さないわ。先輩の先輩だけの可愛い後輩だもの。先輩は自分の頬を叩いた。私をそんな風に見てはいけないという風に。その末に先輩が出した答えは、



「カラオケ、行かない?」


精一杯。精一杯のお誘いがこれなのね。小心者、卑怯者、弱者。弱っちい男。つまらない男。まだ罪悪感は拭えない?そうね、そりゃあそうよね、それほどにこの人は誠実なんだわ。私、充分に間を溜めて、溜めて、それでいて少しためらったように、即決したように見せてはダメ。女の子だもの。でも少しだけ、悪戯心のある顔で。


「いいですよ。」



カラオケでも飲み放題。飲まなきゃやってられないのかしら。いいんだけれど。私の好きな歌手はきっと分かってもらえないから、かわいい女の子の歌、歌います。aiko。米津玄師なんか歌うのね。星野源は私も好き。


「これ、歌ってください。」


至近距離。近づく顔。触れる肩。覗き込むようにしてお願いします。あ、照れてる。可愛いのね。私も。そう何度も自らの頬を叩かないでよ。そんなに罪深くならないでよ。まあ、罪深いところも好きよ。


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